艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第103話

「……?」

 

 水が落ちる音が耳に届き、俺は目を開く。……体全体を包んでいるのは……お湯か? それに顔から感じる熱気。ここは……入渠施設? ……なんだかデジャブを感じるな。

 

「……起きた……?」

 

 後ろから声が聞こえ、振り返るとそこにはヲ級の姿があった。……そこで俺はあの海戦を思い出す。

 

「……ヲ級……なんだよな?」

 

「……うん、そうだよ。チヌが鹵獲したヲ級……チヌが知っているヲ級……だから」

 

 そう言って俺を見つめるヲ級の目には暖かさがあった。海上で対峙した時にはなかった、俺の知っている暖かさだ。

 

「ヲ級、俺が気を失ってから……どうなったんだ?」

 

「……あれからチヌを庇いながら戦って……艦娘側が勝った。損害はゼロ。敵は全滅。……誰も沈んでない」

 

「そう……か」

 

 俺はその言葉に心から安堵を覚える。そうか……作戦は成功したんだな。誰も死なずに……済んだんだ。

 

「……チヌ、ごめんなさい……私……チヌを……」

 

 安堵に浸っている俺にヲ級の声が聞こえる。視線を彼女に向けると、彼女はその目から大粒の涙を零していた。零れた涙が彼女の頬を伝い、床に落ちていく。

 

「……ごめ……なさ……ご……なさい……」

 

 途切れ途切れの言葉を口にしながら謝るヲ級。俺は体を起こすと、彼女の頭を撫でる。

 

「大丈夫だ。そもそもお前が鹵獲される事になったのは俺が弱いからだ。お前に責任はないし、俺も怒っていない。艦娘達はどうだったんだ?」

 

「……怒ってなかった……でも……私……は……」

 

「……ヲ級、泣くな。お前は悪くないから、悪いのは俺なんだから」

 

 俺の言葉に、ヲ級は駄々を捏ねるように首を横に振る。……困ったな、どうすればいいのか……。

 

「ヲ級。それなら……もうあんな事をしないでくれ。……お前が鹵獲されている間、俺はとても不安だった。俺自身困惑するほどにな……。お前がもしまた同じことをしたらと思うと……俺は不安になってしまう。だから……」

 

「……ダメ」

 

 俺の説得に首を横に振り、ヲ級は涙で濡れたままの目で俺を見てくる。

 

「……チヌが死ぬぐらいなら、私は同じことをする……チヌもそうするでしょ……?」

 

「……それは……」

 

 俺が言葉に詰まる間にヲ級が俺の目前まで迫る。

 

「……チヌは私を鹵獲した。だからチヌには私の為に生き続ける義務がある。……敵になったことは謝るけど……チヌを逃がすために残ったことは絶対に謝らない」

 

「……もしチヌがその行動を治させたいなら……チヌが死なないようにするしか方法はない」

 

 そう言って俺を見てくるヲ級の視線の力強さに俺は思わず息を呑む。普段の彼女からは感じないこの威圧、まるで、あの海の上でみたような威圧感で、目からも青白い炎がでてるよう……あれ?

 

「……ヲ級。俺の気のせいか? ……目から青い炎が出てるような……」

 

「……あ、ごめんなさい……あれから感情が高ぶると、出ちゃうようになって……」

 

 そう言って彼女は目を閉じて数回深呼吸すると、目から出ていた青白い炎は消えた。

 

「……えーと……なぁ、ヲ級……。それは大丈夫なのか?」

 

「……大丈夫大丈夫。ちょっと炎が出てるだけだから」

 

 本当にそれは大丈夫なのかと心配になるが……まぁ、大丈夫なんだろう。さて……そろそろ出るか。

 

「取敢えず俺はそろそろ出るぞ。提督に顔を出さないといけないし。ヲ級はどうする?」

 

「……私も行く。ここに居たのはチヌが溺れたりしないようにってだけだから……」

 

 そう言ってヲ級も俺の後に付いてくる。一緒に脱衣所に入った俺達は手早く服装を整えると外にである。すると、そこには不知火の姿があった。

 

「! チヌさん……もう大丈夫なんですか?」

 

 心配そうに俺を見上げる不知火に、俺は返事をする。

 

「ああ、体のほうはもう大丈夫そうだ。ヲ級からある程度話は聞いているが、作戦は……成功したんだな」

 

「……はい。成功です。チヌさんを含めて皆無事。ヲ級も……戻ってきました」

 

 不知火の口調からは安堵の様子が感じられる。それを聞いて、俺も改めて作戦が成功したんだと感じることができた。

 

「それで、今はどういう状態なんだ?」

 

「一つを除いて大きな動きはありません。損傷を受けた艦娘は既に入渠を終えて、今は後処理と警戒状態になっています。提督は報告書の作成で大忙しでしょうが、チヌさんが入渠を終えたら提督室に顔を出すようにと仰っていました」

 

「他の艦娘の入渠がもう終わっているのか? 思ったより損傷が少なかったんだな」

 

 不知火の意外な報告に俺は思わず聞き返すと、不知火の表情が沈んだものとなった。

 

「……逆です。チヌさんの損傷が重すぎたんですよ。応急修理要員を使った上に主砲を発射ですから……。それだけしないといけなかっただろうというのはわかってはいますが……」

 

「まぁ、それでヲ級が戻ってきたんだから、俺の損傷程度どうでもいいんだが。ともかく提督が呼んでいるんだな? それじゃぁ顔を出してくる」

 

「……私も付いてく」

 

「あ、不知火もご一緒します」

 

 そう言って二人も俺の後についてくる。俺も特に何か言うこともなく、三人で提督室へ赴いた。

 

 

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