第106話
雨が降る。最近は雨の日が多い。
(雨……か……)
「……最近雨続きですねぇ」
ちゃぶ台で勉強をしながらまるゆが呟く。
「……そうだな、あんまり嬉しくはないな。出撃や遠征の時に手間が増える」
「そうなんですよね。私は潜水艦ですからまだ影響は少ないですけど……」
俺の返事にまるゆは憂鬱そうなため息をついていたが、俺が嬉しくない理由はそれだけではない。雨が続くと……元の体の頃を思い出す。何もできず、雨の湿気で錆びていくだけだったあの頃を……。
「チヌ、居る……あ、まるゆも居るのね、ちょうどよかったわ」
不意に家の扉が開かれ、飛鷹が入ってきた。手に持っていた傘を傘立てに挿して、うっとおしそうに濡れた袖を振っている。
「飛鷹か、何か用なのか?」
「提督が呼んでたわ、まるゆも一緒にね。なんでも陸のほうからの呼び出しがあるそうよ」
「陸……ですか? なんなんでしょうか?」
まるゆが首をかしげるのも無理はない。俺だけならまた竹下一等陸佐の下で任務を行う事になるんだろうが、まるゆがそう言うのに参加できるとは思えないし……。
「行ってみたらわかるわよ。あ、私も一緒に行くわ。陸からの呼び出しでまた何日か居なくなるとかだったら、先に知っておきたいから」
そう言って飛鷹も付いてくる様子を見せてきたので、俺は二人と共に提督のもとへ向かった。
提督室に着いた俺達はノックののち、入室する。提督は俺達を迎え入れてくれたが、飛鷹の姿を見て少々驚いた様子だ。
「飛鷹、君も来たのか。君が聞く必要のある要件ではないのだが」
「チヌとまるゆに陸からの連絡でしょ。また何日も離れることになるなら事前に知っておきたかったのよ。それとも、そういう用事じゃないの?」
飛鷹の言葉に提督は戸惑い、そして少しの間考え込んでいるが……いったいどんな要件なんだ?
「……チヌとまるゆが数日離れる事……にはなると思うが。すまないが、要件に関しては先に彼らに話をして、それから彼らが話すかどうかを委ねたいと思っている。席を外してくれないか」
提督の言葉に飛鷹は一瞬不快な表情こそ浮かべたが、去り際に「話せるなら話してね」とだけ言って部屋を出てくれた。だが、こうなると増々要件の内容が気になるな。俺とまるゆにだけ伝えておきたい内容とはいったい……?
「さて……チヌ、まるゆ。竹下一等陸佐から連絡が入った。チヌがかつて保管されていた茨木の旧陸上自衛隊武器学校に保管されている90式を除く他の戦車が接収されることになった」
「な……そん……な……」
今の時代に接収されるということは……つまり、溶かされ、資材に変えられるということだ。兄が、弟が……他国の者とはいえ、共に長い間過ごしてきた戦車達が……溶かれて……消えるのか……。
「……これはすでに決定していることであり、覆すことはできない。だが、何も知らずに後から聞かされるよりは、見送る機会を与えるべきだと……竹下一等陸佐は仰った。どうする? チヌは勿論だが、まるゆも同じ陸軍に属する者として、行く気はあるか?」
「……私は、勿論行きます」
「わ、私も行きます。行かせてください」
「わかった。今日はそれぞれ任務の予定があるから、明日の朝に出発してくれ。幸い陸軍のほうから迎えを送ってくれるとの事だ」
「……わかりました」
提督の言葉に返事をし、そこからいくつかのやり取りを経て後に俺達は提督室を後にした。