艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第107話

提督室を後にした俺はともすれば感情に任せた行動をしそうなのを抑えながら廊下を歩いていく。

 

「ねぇ……チヌ。大丈夫?」

 

「……だいじょう……ぶだ……」

 

 飛鷹の言葉に返事こそしたが、表情を作る余裕が持てない。だから彼女のほうを振り向くこともできず、ただ歩くことしかできなかった。

 

「チヌさん……」

 

 不意に手が握られた。横を向くと、手を握っていたのはまるゆで、俺のことを心配そうに見上げている。

 

「チヌさんの家に戻りましょう。少し、時間をとったほうがいいですよ」

 

「……ああ、そうしておく」

 

 今の気持ちのままでは何のヘマをしでかしてしまうかわからない。少なくとも……今は落ち着かないと。

 

「飛鷹さん。私達も……」

 

「……そうね。チヌ、他の娘達には貴方が明日から数日休みになることを伝えてくるわ」

 

「……頼む」

 

 飛鷹とまるゆと廊下で別れた俺は家に戻り、自室で俺は座り込み、皆のことを思いだしていた。

 

(共に何かをできたわけじゃない。だが……だ……が……)

 

 彼らがもうすぐ居なくなる。彼らがもうすぐ彼らで無くなる。そう考えると、俺の心は言葉にできない感情で揺り動かされる。俺は何も手を付けることができないまま、眠りについた。夢も何も見ることはなかった。

 

 

 

 

 

 碌に寝付くこともできなかったまま、俺は翌日を迎えた。なんとか身だしなみを整え、間宮で軽い朝食だけをとった後、俺はまるゆと共に鎮守府の出入り口で迎えの車を待ち続ける。

 

「チヌさん……大丈夫ですか? 目の下に隈ができてますよ」

 

「……大丈夫だ」

 

 まるゆが声をかけてくるが、俺は視線も向けずに答える。正直自分でも酷い顔をしているのがわかってるからこそ、正面を向くことができない。

 

 そのせいでまるゆもそれ以上は俺の声をかけてくることもなく、それがありがたがった。そして程なくして陸軍の車が到着し、俺達の前に止まった。

 

「チヌ殿、まるゆ殿。お久しぶりであります」

 

「あ、あきつ丸さん。お久しぶりです」

 

「……お久しぶりです、あきつ丸殿」

 

 車から降りて俺達を迎えてくれたのはあきつ丸殿だった。まさか彼女がここに来るとは。

 

「お二人とも、まずは車の中に乗るのであります。陸上自衛隊武器学校へお連れするのであります」

 

「……お願いします」

 

 あきつ丸殿に促され、俺達は車に乗り込む。俺とまるゆは後部座席へ、あきつ丸殿は助手席に座り、それを確認してから車は出発した。

 

「……チヌ殿。このたびの事は同じ陸軍として自分も残念であります。ですが、彼らはお国のため、その礎となるのだから……自分達もしっかりと見送らなければいけないのであります」

 

 そうだ……その通りだ。彼らはこの国のため、人のためとなるんだ。だから、悲しむ必要なんてないはずだ。そのはず……なんだ。だが……。

 

「……確かに彼らはお国のためとなります。ですが、それは私で良かったはずです。彼らの中には私なんかよりももっと強い戦車達が居るんです。私なんかが人になるよりも彼らがなっていれば……!」

 

「だめですよ! チヌさん、そんなのを言ったらだめです!」

 

 まるゆがそう言ってくるが、あそこには俺より後の世代に生まれた戦車が何台も居る。特に74式ならば戦後の2.5世代であり、俺が何台居ようとも太刀打ち出来ないほどに強力な戦車だ。彼がもし俺のように人の姿になれていれば……。

 

「チヌ殿……それは無理な話であります。チヌ殿が人の姿になれたのは付喪神……長い時間を経過したが故だと聞いているであります。ならば、74式のような戦後に生まれた戦車達では人の姿になれる道理はないのであります」

 

「そして、チヌ殿以外で人となれるとすれば、それは八九式だけであります。八九式の性能はチヌ殿よりも下。チヌ殿が人となるのが……一番なのであります」

 

 あきつ丸殿の言葉に俺はそれ以上の言葉が言えなかった。彼女が言っていることは正しい。それはわかっているが……。

 

「……チヌ殿。納得できない気持ちはわかるであります。しかし……自分達にできることは胸を張って彼らを見送ることだけなのでありますから……到着するまでに気持ちを整理しておくべきであります」

 

「ッ……わかり……ました……」

 

 更なるあきつ丸殿の言葉に俺は頷くことしかできず、そこから先は顔をうつ向かせたまま上にあげることはできなかった。

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