艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

108 / 111
第108話

 そしてどれだけ車の中にいたのか、やがて車は止まり、ドアが開かれる。俺もなんとか顔を上げてあきつ丸殿達と共に施設の中を歩いていく。ああ、久しぶりだな。戦後から何十年と見続けた景色だ。まさかこんな形でまた見ることになるとは。できれば、こんな形で戻ってきたくなんてなかった。

 

 歩みを進める俺たちは程なくして兄弟達の搬送作業の現場に到着した。そこには戦車運搬車も到着しており、既に何人かの戦車は積み込まれている。

 

「M4中戦車……M24軽戦車……」

 

 まず目についたのはアメリカの戦車達。彼らは既に積み込まれており、後は出発するだけの状態だ。その隣にはソ連の野砲達も既に積み込まれている。そして。

 

「61式……74式……」

 

 今まさに積み込まれているのは俺の弟に当たる戦後型の日本戦車……。俺よりよっぽど強くて、頼りになる奴ら……。俺よりあいつらが人になれているほうがよほど……。

 

「……悲しいです。お国のためとは言え……」

 

「……同感でありますな」

 

 まるゆとあきつ丸殿の声が聞こえる。が、そちらに意識を割くことはできなかった。そうしている間にも他の戦車や野砲達が積み込まれていく……。もう彼らと会うことはできない、そうだ、このままでは兄さんも……。

 

「……あきつ丸殿。八九式はもう積み込まれたのでしょうか?」

 

「どうでありましょうか……少し聞いてくるであります」

 

 俺の質問にあきつ丸殿は少し困った顔をしたが、すぐに近くの人に聞きに行ってくれた。

 

「チヌ殿、八九式はまだ積み込まれていないのであります。向こうに保管されているそうでありますが、行かれるのでありますか?」

 

「はい」

 

 俺が頷くと、あきつ丸殿が案内してくれて、俺とまるゆはそれについていく。そして程なくして俺は八九式の前に立っていた。

 

「兄さん……」

 

 八九式中戦車……俺の兄である戦車。俺と同じく大戦に参加することなく終戦を迎え、そしてこうしてこの時代まで残されてしまった遺物。歳月を考えれば……俺と同じように付喪神になっていておかしくないはずの兄さん。

 

 俺は兄さんに近づき、装甲に頭を押し当てる。伝わってくる冷たさが、今の俺と兄さんの違いを明確に突き付けてきた。

 

 ……戦いたい。

 

 不意に聞こえてきた声。それは耳を通さず、直接頭の中に聞こえてくる……。

 

 ……チヌ、お前が羨ましい。お前はそうして人と同じになれた。私はなれない。お前より古い私なのに、なることはできない。

 

「……わかっています、兄さん……だけど……俺達は道具だ……!」

 

 ああ……そうだ。道具である私達に拒否権はない。だが……それでも……。

 

(そうだ……当然だ。兄さんだって……)

 

 俺自身、溶かされるのもまた一つの道である事に不満があるわけではない。だが、兄さんの気持ちもまた痛いほどにわかる。わかって……しまう。

 

 ……ふふ。栓なき事を言ってしまったな。弟を羨んで迷惑をかけるなど、子供のような事をしてしまった。

 

「……兄さん」

 

 チヌ、折角だから私を……残りの兄弟や仲間たちを見送ってくれ。我々はお前に託そう。どうか……我々の代わりに人々のために戦い続けてくれ。

 

 その声を最後に、兄さんは口を閉ざした。

 

「……わかりました、兄さん」

 

 俺は小さく呟くと、兄さんから離れてあきつ丸殿とまるゆの元へと戻る。そして、俺は基地の出入り口で全ての兄弟を、仲間を見送った。一人一人を見送るたびに、俺は引き留めたいという気持ちを抑えるのに、涙を流すのをこらえるのに必死になった。これは不名誉な事じゃない、国の為、人の為になるんだと、名誉な事だと言い聞かせ、必死に堪える。

 

 そして、最後に八九式兄さんを見送り、全ての戦車はこの地を後にした。

 

全ての戦車を見送った俺は二人に連れられて、自動車の中に戻っていた。竹下一等陸佐は用事があるとの事でまだ建物に残っていたが、俺にとっては幸いだった。もう、この感情を抑えられなかったから……。

 

「……ああ、兄さん……皆……!」

 

 俺はもう耐えることができなかった。俺は見送る事しかできなかった。皆、これから溶かされて皆でなくなる。俺にできる事なんてなにもなく、こうして見送ることができただけでも良かったのに、兄さんたちは国のために為すべきことを為すことができるというのに、俺はたまらなく悲しく、寂しい。こんな感情、要らないのに、必要ないのに。俺の心尾はこの感情で支配されてしまっていた。

 

「……チヌ殿」

 

 不意にあきつ丸が俺の頭を抱え込む。あの時の……合同作戦での無人島での時と同じように。

 

「ダメでありますよ、チヌ殿。感情を溜め込むのは良くないのであります」

 

「チヌさん……ここには私達陸軍しかいませんから……」

 

 まるゆもまた反対側から俺の腕を握ってくる。ああ、そうだ。ここにいるのは皆、陸軍だ。

 

「……すまない……すまない、あきつ丸殿……まるゆ……」

 

 俺は我慢することをやめた。両目から止めどなく涙が零れ落ち、胸の奥から湧き上がる衝動のまま泣き喚く。あきつ丸殿とまるゆはそんな俺を暖かく包み込んでくれていた……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。