車の中で泣き終えた俺は、程なくして戻ってきた竹下一等陸佐と共に陸上自衛隊学校を離れ、そして俺とまるゆは鎮守府へ、陸佐は陸軍本部へ、あきつ丸殿も所用があるとのことでそれに同行した。
戻った俺達は不知火や飛鷹達からの質問に答えつつもそのまま日常へ戻った。あの時泣いたことで悲しさが尾を引かなかったのはありがたい。まったく、最初のころの俺ならもっと割り切れていたはずなのに、本当に弱くなってしまったな。
そして数日後、俺の元にあきつ丸殿が訪ねてきた。客室に案内されたあきつ丸殿の元へ行くと、彼女は大きなカバンを両手に抱えたまま俺を出迎えた。
「あきつ丸殿、お久しぶりです」
「久しぶりでありますなチヌ殿。今日は、竹下一等陸佐からの預かり物を持ってきているであります」
そう言うとあきつ丸殿は鞄の中から透明な袋を取り出す。袋越しに中身を見た俺は息をのんだ。
「……あきつ丸殿、これは」
「解体された戦車達の装甲の一部であります。特に74式の装甲は多めに持ってきたのであります」
そう言って差し出された袋から俺は中身の一部を手に取る。それはチイ兄さんの装甲の一部であり、持っていると兄さんの気持ちを感じるような……そんな感じがしてくる。
「……竹下一等陸佐はなぜこれを?」
「形見分け……というのとはちょっと違うでありますが、チヌ殿が持っているべきだとの事であります。それに74式の装甲は明石殿に渡せば何か開発の参考になるかもしれないとも」
「……竹下一等陸佐……」
彼からの好意に俺は深い感謝を覚えずにはいられなかった。
「それと、74式のエンジンも持ってきたのであります。こちらは大きさが大きさなので明石殿の工廠に直接運ぶように手配してあります」
「エンジンまで……わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」
俺が頭を下げると、あきつ丸殿は笑みを浮かべて頷いてくれた。
「では、自分は所用がありますのでこれで失礼するでありますが……チヌ殿、もし何かありましたら気軽に連絡してください。それでは」
あきつ丸殿はそう言って笑顔を浮かべる。その笑顔に俺もつい笑みを浮かべてしまう。そしてあきつ丸殿を見送った後に早速明石の元へ向かった。
「ほうほう。あきつ丸さんがねぇ……ふーん」
事情を説明すると明石は何かジト目でこちらを見てきたが……程なくして装甲の方に視線を向けた。なんでジト目で睨まれなければならないのだろうか。
「そうですねぇ……旧式の戦車さん達の装甲は一部を溶かして纏めてチヌさんのお守りにしてみてはどうでしょう? 74式さんの装甲も一部はそうするとしても……大部分はチヌさんの新しい装甲の開発に存分に使わせてもらいますよ。それにエンジンも有効活用させてもらいましょう」
「ああ、宜しく頼む」
「任せてください、チヌさんの為にも、頑張っちゃいますよ」
そう言って笑顔を浮かべる明石に俺は深く頭を下げた。
明石に仕事を頼んでから10日後、俺は彼女の手による新しい改修によってその実力を上げることができた。流石は74式のエンジンだ。それに合わせて装甲なども改修してもらった。おかげでこの間ようやくノーマルのヲ級を相手に一人で戦うことができた。勿論それも大事なことだ。だが、それ以上に大事なのは……。
「ねぇチヌ。貴方そんなの付けてたかしら?」
間宮の食堂で飯を食べてると、後ろから足柄に声をかけられた。彼女は俺の首にかけられている鎖を不思議そうに見つめる。
「ああ。こないだちょっと明石に作ってもらってな」
「へー、意外ねぇ。どんなの付けてるの? 見せてくれない?」
「ああ、構わない」
足柄の頼みの応えて鎖を引っ張り、先端に付いている部分を彼女に見せる。
「……なにこれ?」
それを見た足柄に首を傾げられた。まぁ、単なる円形の金属板だから当然か。
「俺の兄弟の装甲から作られたお守りなんだ」
「え!? ご、ごめんなさい! なにこれなんて言っちゃって!」
「いや、気にしないでくれ。おしゃれな物じゃないのは確かだからな」
足柄の謝罪を受け取りつつも、俺は指でお守りをなぞる。金属からは気のせいか仄かに熱を感じていて、俺はその熱が大層心地よく感じている。
(兄さん、皆……どうか力を貸してくれ。人を、国を、仲間を守るために)
お守りの熱を感じながら、俺は心の中でそう呟かずにはいられなかった。