明石と共に港に到着した俺たちは、ちょうど出撃する第三艦隊を見送る形となった。
「まだ敵は見えませんね。でも、確実に近づいてきているみたいです」
そう言って明石は油断なく水平線を睨み付ける。俺も双眼鏡で水平線を見続ける。
「……あれは……」
やがて、双眼鏡の先で砲撃や水雷による爆発の煙や、敵空母の艦載機が飛び交う様子が見えるようになってきた。それに合わせて艦娘達と深海棲艦の姿も確認できた。
「マズイですね。やっぱり主力艦隊のメンバーじゃないと、空母相手はきつそうです」
「そうだな」
隣で戦況を見ている明石の言葉に俺は頷く。先ほどから互いに砲撃を行っているが、どうも致命傷を与えられてる様子はない。特に空母からの艦載機への対処が厳しいようだ。
「第一艦隊の帰投はいったいいつなんだ? 彼女たちが戻ってきたら……」
「予定だとまだまだ先ですし、予定より早く帰ってくるとしたら第一艦隊も深手を負ってる状態でしょうから、どっちにしろアテにはできないです」
「そうか……きついな」
援軍が当てにできないとなると現状戦力で対処するしか手はない。だが、このまま無事に敵を撃退できるとは思えない。
しばらくして、俺の予想は的中した。
「あ、敵の空母がこっちに来ます!」
そう叫んだ明石の視線の先を追うと、確かに第三艦隊の攻撃を掻い潜りつつ、敵の空母がこちらに向かって来ている。第三艦隊もそれを阻止しようとしているが、駆逐艦や重巡達がそれを阻んでいる。
「空母相手か……。戦車にとって上からの攻撃は天敵なんだがな……。まぁ、軍艦の砲撃食らえば大抵一発で吹き飛ぶのは同じだが」
そう言いつつ、俺は兵装を構える。
「私だって戦闘力は低いんですから。なんとか、羽黒ちゃん達がこっちに来るまで頑張りましょう」
そう言って機銃を構える明石。それを横目で見つつ、俺は迫りくる空母を睨み付けた。
距離が近くなってくるにつれて、空母の姿が明らかになってきた。噂で聞いていた通り、やはりその姿は人間の女性のそれである。が、頭部にはあの駆逐艦とかと同じような、なんかよくわからない怪物のような何かが覆いかぶさってる。あれは帽子か兜のつもりか? 趣味悪いな……。
「……!」
遠いせいでよく聞こえなかったが、恐らくは攻撃の指令なんだろう。空母が何か叫ぶと、それに合わせて大量の艦載機がこちらに向けて飛んできた。しかし、艦載機までなんか化け物の姿なんだな。しかも、あの被り物から出てるし
「来ましたよ! 対空防御!」
「了解!」
明石の叫びに応じて、機銃を、主砲を艦載機に向けて発射していく。だが、敵の艦載機は身軽に動き回り、ほとんど当てる事ができない。なんとか当たった弾も致命傷を与えられている様子はない。
「てえええい!」
一方、明石は戦闘が得意でないと言いながら、確実に敵の艦載機を一機ずつ撃墜している。やっぱり練度の差は大きいな、これは。
「……そんな悠長に考えてる余裕はないな」
そんなことを口に出しつつ、俺は必死に動いていた。艦載機からの爆撃や銃撃を食らえば一たまりもないからともかく必死に動く。だが、そんな中で俺は、自分の中に燃え上がる物を感じていた。
(心が燃える……なんて高揚感だ。やっぱり……これが兵器としての俺の有り方なんだ!)
声にこそ出さなかったが、俺は心のままに機銃や主砲を撃ち、艦載機を追い払う。だが、そんな俺の高揚感とは裏腹に、戦局は一向に良くならない。
「このままじゃまずいですよ。本当、空母は厄介ですね」
「本当にな」
互いに背中を合わせ、俺と明石は上を飛び交う艦載機を睨む。既に周りは艦載機の攻撃でかなり被害が出ているし、俺も明石も少なからず傷を負っている。
「あの空母を落とす事はできないのか?」
そう言って俺は、艦載機の収納と発艦を繰り返している空母を指さす。
「ダメですよ。私達の装備じゃまともにダメージ与えられませんから。ともかく艦載機を落としましょう!」
そう言いながら明石が発射した対空砲によって、艦載機が一機落とされる。だが、未だに十以上の艦載機が俺達の上空を飛び交っている。
「だが、このままじゃ埒が……」
俺がそう呟いた時、沖から大きな爆発音が起き、そして巨大な水柱が立った。
「!?」
俺だけでなく、明石も敵空母もそちらに視線を向ける。すると、そこには深海棲艦は存在しておらず、あちこち傷ついたり煙を上げたりしながらもしっかりとこちらに向かって来ている第三艦隊の姿があった。
「やった! これでも残ってるのはあの空母だけですよ」
そう言って嬉がる明石。そして空母のほうはというと忌々しげな表情を浮かべながら艦載機を収納しつつ、沖に向かって反転している。
「ただで逃げられると思うな!」
後ろを向けた瞬間、俺は主砲を放っていた。弾は空母まで到着し……そして、バリアを僅かに貫いたが、そこまでだった。
「キサマ!」
バリアを貫かれたことに空母は怒りの表情を浮かべて俺を睨む。だが、それも一瞬で、すぐに踵を返して沖へ向かって行った。
「……やっぱりダメか」
大きくため息をつき、俺は主砲に目を移す。やはり俺が装備できる兵装でまともに傷を与える事は無理のようだ。さて、今後どうするべきか……。
「危ない! 避けて!」
「え?」
思案に暮れていた俺に明石の声が届く、顔を上げた時、俺が目にしたのは俺に向かって飛んでくる一発の砲弾であった。
「な!?」
咄嗟に回避行動をとり、直撃こそ避けたが、至近距離で着弾した砲弾の爆発の衝撃は俺に耐えれるものではなく、そのまま吹き飛ばされ……そして俺の意識は途切れた。