誤字報告ありがとうございます。修正させていただきました。
結局、あれから警察の到着、事情聴取等でけっこうな時間がかかってしまい、解放された頃にはもう日が落ちてきており、帰りのバスに乗る頃にはすっかり夕暮れになってしまっていた。
「あーあ、今日は散々な一日だったわよ。ゾンビ映画は怖かったし、変なのに絡まれたし」
「まぁ、普段できない体験だったかな。でもよく無事だねチヌ。あれ、鉄パイプで殴られたんじゃなかったかい?」
「ん? そりゃまぁ、戦車だからな。あれぐらいでどうにかなったことはないが」
その言葉に二人は互いの顔を見合わせる。
「チヌ、貴方どう見ても人間じゃない。普通は鉄パイプで殴られたら昏倒ものよ」
「いや、確かに見た目は人間だが……俺の本質は戦車だぞ? 今までも似たような事はあったけど、やばい傷なんて受けた事はないんだが……お前らだってそうだろ? 深海棲艦からの砲撃を食らって無事なんだから」
俺の言葉に、二人は首を傾げる。
「いや……深海棲艦の砲撃を食らっても確かに簡単に沈没はしないけど、あんな鉄パイプで殴られたら私達じゃ無事じゃ済まないよ。私達の体は人間とほぼ同じなんだから」
「そうよね。そうじゃなかったらこんなに驚かないわよ」
「……そうか……」
いったいどういう事だ? 仮に、至近での爆発で俺が吹っ飛ばされたあの羽黒の砲撃を食らったとしてもこいつらはあんな吹っ飛ぶこともないはずだ。それが人間とほぼ同じ体で、鉄パイプで殴られたら死にかねないとか。いったいどういう違いがあるってんだ?
俺は首を傾げる……が、すぐに考えるのをやめる。今考えても仕方ない。
「……ま、その辺はまた考えるとして……今日は悪かったな。俺のせいであの辺なのが絡んできたわけだし……今度また埋め合わせはするよ」
「本当!? じゃぁ、私色々行きたい場所あるんだけど」
「私も、色々お願いしたいことあるかな。その時はよろしく頼むよ、チヌ」
「わかったよ」
あー、面倒なことになったなぁ……。まぁいいか。どうせ給料なんて使い道もないし。
そう思いつつ、俺はバスの外の景色を眺め続ける。やがて、鎮守府に一番近いバス停の名前が放送で告げられた。
「よし、降りるぞ……」
俺が横を見ると、そこには寝息を立てている暁、そして船を漕いでいる響の姿があった。
「おい、寝るな。なんでここまで来て寝れるんだお前らは?」
二人の体を揺さぶり、響はなんとか眠気を払おうと頭を振ったりしているが、暁は完全に寝ている。いつの間に寝たんだよ本当に。
結局、暁と荷物を抱え、眠気にふらつく響の手を引いてなんとかバスから降りる。だが、暁は一向に起きる気配はないし、響もかなり厳しそうだ。
「おい、響、起きれるか? 歩けるか?」
「んあ……ねむ……無理……」
俺の言葉にも響はまともに返答しない。こりゃだめだな。仕方ない。
「まったく……よっと」
取りあえず、俺は左腕で暁を抱え上げ、俺の体にもたれかからせる。そして左手に荷物を纏めて持つと、膝をつく。
「響、俺の腕に乗れ。抱え上げるから」
「ん……」
ふらつく響だったが、なんとか俺の腕の中に入り、俺にしがみ付く。それを確認してから俺は立ち上がると、そのまま鎮守府に向けて歩き出す。
「……これじゃぁ、完全に赤ん坊を連れて買い物した父親だな」
今の俺達の様子が傍からどう見えるかを考えて俺は溜息をつく。そんな俺を余所に二人は俺の腕の中でおもっきり寝息を立ててやがる。警察の事情聴取とか、慣れない事で疲れたんだろうけど、もうちょっと頑張れよ頼むから。
そんなことを思いつつ、俺は歩き続け、なんとか鎮守府まで戻ってきた。すると、鎮守府の入り口で警備の人間と、もう一つの人影が見えた。
「お帰りなさい、チヌさん」
そう言って俺達を迎えたのは香取だった。
「香取か。どうしたんだ?」
「鎮守府のほうに警察から電話が来ましたから……何もなかったとは聞いていますけど、やっぱり心配ですから」
「なるほどな。じゃ、この二人を寮に連れてくから、その後は頼んでいいか?」
「ええ、わかりました」
こうして、俺は香取を伴って艦娘の寮に向かって歩く。
「でも、こうしてみると、チヌさんお父さんみたいですね。二人も懐いていらっしゃいますし」
「冗談はやめてくれ。俺には兄弟はいても子供なんてのはいないし……元の大きさを考えろ」
軍艦が戦車の子供なんていったいどんなわけのわからない光景だ。
「あら、元はなんであれ、今は貴方のほうが大きいじゃないですか。それに精神年齢も、貴方のほうが上に思えますし」
「そういう問題か?」
俺は首を傾げつつ、香取と一緒に艦娘の寮に向かう。そして寮に着くと香取と、ちょうど入口に居た羽黒に二人を任せると、司令室に向かった。
俺が提督室の扉をノックすると、中から入るように声がかけられ、俺が中に入ると、そこには机の上で腕を組んでいる提督と、横に立っている榛名が居た。
「チヌ、警察から話は聞いているよ。まぁ、災難だったね」
「いえ、私は大したことはありませんでした。ですが、彼らの態度を見るに、私が原因であり、その為に二人に手間を掛けさせてしまいましたし、こちらにも迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
そう言って、俺は深く頭を下げる。
「大丈夫ですよ。暁ちゃんも響ちゃんもこんなことでチヌさんをお嫌いになりませんし。むしろ、ああいう手合いが事前に見つかって良かったと思います」
「まったくだな。日本国国民でありながら、艦娘の前で暴力沙汰を起こそうとするなんてゲスの極みのようなクズだ。チヌ、もしも彼らのような者が居れば遠慮なく叩きのめして構わん。奴らの魔の手が万が一にも榛名に伸びたらかもと思うと夜も眠れない」
本当に相変わらずだなこの提督は。まぁ、そこはいいか。
「……そう言えば、今日街中の本屋で暁や響の身に覚えのない写真が写真集に乗っていましたが。それに関しては?」
「ああ、あれは国民向けのプロパガンダだよ。基本的には彼女達の許可の元に撮影しているが、一部にはこっそり写真を取って、私の検閲の元に出している。まぁ、私の知らぬところでそういった写真が流出している可能性もあるが、ある程度は容認しているよ。厳しく取り締まりすぎると余計に面倒だからね」
「なるほど」
「ただし、榛名のものだけは例外だ。榛名のものでそう言った物が流出したら、全力で持って叩き潰している」
蛇足にもほどがある説明だな。
「まぁ、そういうわけでだ。今後も艦娘達に頼まれたら、彼女達が鎮守府の外に出るときには一緒に行ってやってくれるかな。今回のような件が起きる可能性もあるが、それ以上に君が居てくれるほうが心強い」
「はっ。了解しました」
提督の言葉に頷くと、提督は退出するように促す。それに従い、俺は提督室を後にした。
チヌが出ていったのを見送ってから、私は手元の資料に目を通す。
「……榛名。確認だが、君たち艦娘の体は基本的には人間なんだよね?」
「はい。私達は艤装を扱えるという点を除けば、基本的な体の構造は人間と大きな差はありません。勿論、多少は頑丈だったりはしますが……それでも、仮にチヌさんみたいに鉄パイプで殴られでもしたらただではすみません」
「そう……だよな」
榛名の言葉に相槌を打ちつつ、私は資料の一部を見る。そこには今回の件で精密検査を受けたチヌの記録が書かれている。そしてそこの書かれている事柄は私を驚かせるのに十分だった。
(彼も基本的には艦娘達と同じ……人間と構造的には同じだ。だが、よく見れば人間や艦娘とはまったく異なる部分もいくつかある。特にその体のの硬度はまさに鋼鉄のそれだそうだ。これでは角材や鉄パイプなんかでブン殴ったところで殴った側が傷つくだけだろう)
(明石曰く、艦娘達よりもよほど頑丈だそうだが……先日の羽黒の誤射によって吹っ飛ばされた経緯を見ると艦娘よりも頑丈とは思えるはずもない)
仮に艦娘よりも丈夫なのであれば砲撃の爆風程度で重傷を負うなんてことはありえないはずだ。
「……どういう事なんだろうな。艦娘と戦車……一体、どこにどういった違いがあるというのだろう」
資料に目を通しつつ、俺の口からはそんな言葉が漏れていた。