事務所を出た俺はその足で行きつけの食堂へ行く。店内に入ると、このご時世にも関わらず、未だ使われている白熱灯の元、数人の客が不景気そうな顔をして食事をし、流れてくるテレビの音がやけに大きく響いている。俺は適当な席に腰を下ろすと、店主がすぐに注文を聞きに来た。
「いらっしゃい。今日は何にする?」
「天ぷらそば定食を頼む」
注文を聞いた店主がすぐに厨房へと戻った。俺は食事が出るまでの間、特に考えることもなく待ち続け、程なくして目の前に置かれた定食を食べ始める。そうして食べていると、ふとテレビから聞こえてくる声に、視線を向けてしまった。
「さぁ、では本日は深海棲艦から私達を守ってくれるヒーロー、艦娘のお一人、那珂さんをお連れ致しました」
「艦隊のアイドル那珂ちゃんだよ~。よっろしくー」
テレビに映っていたのは若い女性のリポーターと、その横に立っているお団子頭の女性だった。
「お、那珂ちゃんか、相変わらず可愛いねぇ」
「あんな娘だけど、深海棲艦と戦ってるんだから、凄いわよねぇ」
艦娘の登場に、さっきまで物静かだった店内のあちこちで声があがり、皆テレビに視線を向けた。こんな町ですら、彼女達の存在は希望になるのだろう……。
「お、お前さんも気になるのかい? 普段は堅物のくせにねぇ。ああいうのが好みなのか?」
手を止めてニュースを見る俺を、店主が茶化してくる。
「いや……そんなんじゃないよ」
そう言うと、俺は視線を定食に移して食事を続ける。店主はまだ何か言っているが、店主が想像している様な感情は俺にはない。
やがて食事を終えた俺は会計を終えて帰路に就く。寄り道もせずにまっすぐに家に向かって歩く俺の胸の内には、確かな黒い感情が渦巻いている。そんな感情を爆発させるわけにもいかず、俺は急いで家へと歩いていく。
さして大きくもない町で寄り道もしないため、家にはすぐに戻ってきた。二階建てのオンボロなアパートの二階に俺の部屋があり、薄暗い電灯の元に歩いていく。俺以外の入居者は地縛霊どものせいで追い出されており、俺が全員を殴り倒してからも新しい住人が来る気配もない。
そんな静かなアパート。俺は自分の部屋に入ると適当に荷物を放り出す。そしてさっさと服を着替え、歯磨き等を済ませると布団に潜り込んだ。電気の消えた部屋の中、天井を見つめる俺の胸の中にはくすぶり続ける黒い感情が、俺の思考を支配していく。
(ああ……なんで……なんで、俺は生まれたんだ……?)
艦娘達……かつて、兵器として戦った彼女たちは、今は人の姿となり、深海棲艦と戦うことができる。だが、俺には何もない。先の大戦でも何もできず、今もこうして人の為に働くこともできず、ただ日々を消費している。俺の存在意義はなんなんだ? 俺は……何のために……生まれたんだ……。
暗闇の中、湧き上がる黒い感情に俺は無理やり目を逸らして眠りに落ちていった。
俺にあるのは羨望と嫉妬、第二次大戦で散っていき、そして今でも軍艦として戦う事ができる彼女たち、日本を守るために戦える彼女たちへの気持ちとしてこれが間違いないだろう。
俺は……何もできなかった。昔も……今も……。