第20話
暴漢に襲われてからいくらかの日が経過した。結局、あれからは非番の日には街に出る艦娘達に付き合う事が多くなった。その為、特訓の時間が減ったのが辛いところだ。彼女達の安全を考えれば仕方ないんだが、その分を取り戻さないといけない。
だが、今日は久しぶりに艦娘達の外出がない。その為、俺は久しぶりにじっくりと訓練を行えると思ったのだが、最近ハードワーク気味だと香取から今日は体を休めるように言われてしまった。仕方なく、俺は釣のセットを手に取って港湾施設に足を運んでいた。
「さて……この辺でいいか」
取りあえず埠頭に着くとそこに餌をつけて釣り糸を垂らす。一応この辺りでは小アジ等が釣れるらしいので後で間宮の所に持って行ってみるか。
「お、チヌはん釣りやっとるん? 釣りが趣味やったっけ?」
ふと声を掛けられ振り向くと、そこには黒潮の姿があった。
「ああ。この間街に行った時に在庫処分くじ引きとかってのをやっててな。やってみたら釣り道具一式当たったんだよ。置いたまま放置するのも申し訳ないからな」
そう言っている間にも釣竿に反応があり、引き上げると数匹の小アジがかかっていたので、俺は素早く針から取り外してクーラーボックスに放り込む。
「おおー、けっこう釣れるんやな。なぁチヌはん。うちにもちょっとやらせてーな」
「ああ、構わない」
餌をつけてから黒潮に竿を渡すと、楽しそうに釣り糸を海に垂らす。
「いやぁ、釣りなんてあんまりやった事ないから楽しみやなぁ。何が釣れるんやろか?」
「この時期だとさっきみたいな小アジとかだろう。投げ釣りでもすれば別のも釣れると思うが」
「ほえー。それじゃぁちょっと投げてみよかな。チヌはん。やってもええ?」
「やってもいいが、やり方わかるのか?」
「……教えてくれると嬉しいなー」
その言葉に俺は少し肩を落としたが、とりあえず投げ釣りのやり方を教える。
「ほな、いくでー」
黒潮がそう言って釣竿を構えたのを見て、俺は横にずれる。そして黒潮が一気に釣竿を振り抜くと、釣り糸の先端は見事に100メートルは先の海面に着水した。
「おー、飛んだわ飛んだわ。後は何が釣れるか楽しみやわー」
そう言いながら黒潮はリールを巻いていく。まぁ、何か目新しいのが釣れればいいんだろうけど、どうなのやら。
「お? お、おお?」
そう思っていると、突然黒潮が前のめりになった。慌てて足を踏ん張り、リールを巻こうと力を込めている。
「ちょ、なんやこれ! めちゃくちゃ重い引きやで! あ、あかん!」
そう叫び、海に落ちそうになった黒潮を、俺は慌てて後ろから掴む。だが、糸の引きは相当強く、俺が支えていてなお簡単に引き上げれる様子はない。
「うう……これはアカンでぇ。さっさと糸が切れればなんとか……」
「ダメだ。それかなり丈夫な糸だから……ともかく引っ張るぞ!」
掴んでいるだけの体勢から、俺は腰を下ろし、しっかりと黒潮の腹に左腕を回し、右腕で釣り竿を握る黒潮の手を上から握る。そして、黒潮も渾身の力を込めて糸を巻いて行き、徐々に徐々に糸が巻かれていく。
「重たい……いったい何が引っかかったんやこれ……」
「くそ……こんな重量級のが居るなんて聞いてないんだが……」
互いの力を合わせ、ともかく引っ張っていき……そして遂に釣り上げる事ができた。
「……」
「……」
釣り上げた俺たちはそれを見て言葉を失った。なぜなら、釣り上げたのは人。なんか白色の水着を着ていて、水中ゴーグルを着けている少女……つまり。
「ど、ドザエモン釣ってもうたー!?」
少し置いて、黒潮が悲鳴を上げた。
「すみません。ドザエモンじゃありませんから!」
「ひいやあああ! 死体が喋ったー!?」
釣り上げた少女が話し出して黒潮が悲鳴を上げる。まぁ、そうなるよなぁ……じゃなくて。
「……いや、お前は誰だ? というか、シュノーケルもなしに潜っていたって事は……艦娘か?」
「は、はい。私は……」
そこまで喋った時、大きな音を立てて糸が千切れた。そして、少女は海面に落ちて、そのまんま沈んでいった。