出撃ドッグから出撃した俺達はルートに沿って進軍していく。そして、途中で飛鷹の飛ばした偵察機によって周辺に敵がいないかどうかを確認する。
「あー、この待ってる間が暇やねぇ。まるゆ、しり取りでもせえへんか?」
「しり取りですか? 別にいいですけど」
待っている間、浮上したまるゆ相手に黒潮が話しかけている。
「気が緩んでますよ黒潮……まったく、いつもいつも……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。海域自体には強い敵の出現例は報告されていないんですし……。それにしてもチヌさん、静かですね?」
そう言って榛名が俺のほうを向いた。
「……そりゃそうだろ。俺はお前たちと違って海面に立てないんだ。この水上バイクに何かあれば、俺は陸に戻れず、死ぬしかないんだからな」
今更だが、この見渡す限り海以外が見えないこの状態で、俺を支えているのがこの水上バイクだけだという事に不安を覚える。俺が死ぬだけならともかく、俺の救出に無駄に人手を割かせたくない。
「大丈夫です。何が起きようとも私達がちゃんと連れ帰りますので」
だから、そう言う足手纏いになりたくないんだがなぁ……。そう思っていると、飛鷹の偵察機が戻ってきた。
「お帰りなさい……。榛名、ここから2時方向に敵艦隊発見よ」
「了解です。皆さん、今から敵艦隊に向けて攻撃を仕掛けます。くれぐれもチヌさんに何かないように気をつけてください」
榛名の言葉に全員が頷き、俺達は敵艦隊へ向かう。だから、そうやって気を遣うなというのに……。
初戦の敵は駆逐艦4隻、補給艦1隻の小規模艦隊であった。そのおかげでこちらに大した被害もなく、俺も一隻を轟沈させた。まぁ、黒潮が大破させたやつにとどめを刺しただけだが。
そして二回目の戦いも特に問題はなかった。このまま行けば順調に終わらせることができる。俺はそう思っていた。
「いやぁ、けっこやるなぁチヌはん。これならうちらのサポートなしでもええ線いけるんとちゃう?」
三回目の偵察機の発進の後の待機時間、黒潮は相変わらず気楽に言ってくれる。
「いや、俺一人だったら一発二発被弾しただけで終わりなんだぞ。頼むからそう気楽に言うな」
「そうですよ。黒潮、少し口を慎んでください」
「へー。でもうちは水上バイクの壊れたチヌはんを背負ってもええで。不知火はどうなんや? たまにはチヌはんとそれだけ接近してみたくはないんか?」
「~~! 黒潮!」
黒潮の言葉に不知火が声を荒げる。顔が赤くなってるが、それだけ怒ってるんだな。どうもこの二人、姉妹って割には性格がけっこう違うな。というか黒潮、俺を背負うにはお前の背丈は小さすぎるぞ。
「まったく、駆逐艦は皆子供ねぇ……。そう思わない? 榛名」
「あはは……あ、偵察機が戻ってきましたよ」
飛鷹の言葉に苦笑する榛名だったが、不意に空の一点を指さす。そこには飛鷹の飛ばした偵察機の姿があった。偵察機を回収し、報告を受けた飛鷹が神妙な顔つきになった。
「皆、敵艦隊を発見……敵は戦艦一隻、空母一隻、重巡二隻、駆逐艦二隻よ」
その言葉に全員の顔つきが変わった。
「そんな。この海域でそんな戦力の艦隊なんて出るんですか!?」
不安そうなまるゆの声。それに榛名が首を横に振る。
「今までそんな報告はないです。そんな報告があったらチヌさんを連れてきていませんよ」
だろうな。俺みたいな荷物を担いで戦艦や空母を相手にするなんて愚の骨頂だ。
「榛名。俺は撤退する事を提案する。空母や戦艦相手にこの編成はかなり厳しい」
俺の提案に榛名は少し迷った様子を見せるが、すぐに考えを纏めたようだ。
「そうですね、皆さんすぐに撤退を……」
榛名がそこまで言ったとき、不意に航空機の音が聞こえた。全員が顔を上に上げると、そこには深海棲艦の使う爆撃機が今まさに俺達に向かって降下してきているところだった。
「!? 回避急いで!」
咄嗟の榛名の指示に全員がバラバラに回避行動に入る。俺も急いで水上バイクを動かし、間一髪で爆撃を回避した。
「どうやら、もう敵に捕捉されているようですね。榛名さん、戦いましょう」
「そのようですね。飛鷹さん、爆撃機を出してください! 他の艦は対空攻撃急いで!」
その攻撃を合図に飛鷹を援護する形で対空攻撃が始まった。俺も機銃で参加し、なんとか飛鷹の爆撃機を発艦させることができたが、その頃にはもう敵艦隊が目視できる距離まで接近していた。
「主砲砲撃開始!」
榛名の合図の元、俺達の主砲が火を噴き、同時に敵からも砲撃が飛んでくる。互いの砲弾が飛び交う中、俺は水上バイクを飛ばして敵に接近する。先の二戦で解ったことだが、俺の主砲じゃ冗談抜きで近距離で撃たないとまともに効かないから仕方ない。
「食らえ!」
榛名達の砲撃に気を取られていた重巡の顔面に向けて主砲を撃ちこむ。あんまり効いている様子はないが……俺に気を取られた隙に、味方の砲弾が着弾していく。それによってその重巡は轟沈していったが、敵の攻勢が衰える様子はない。
「チヌさん、先行しすぎです。危険です」
「仕方ないだろう、こうしないとまともに通用しない……上!」
後ろから追いついた不知火にまともに言葉を返す余裕もなく、敵の爆撃を避ける。上に視線を向けると飛鷹と敵の艦載機が制空権を確保しようと飛び交っているが、どうもこちらが押されているようだ。
「マズイですね。こちらは榛名さんを除けば火力も低いですし、敵の空母の練度は飛鷹よりも上の状態では……」
確かに、戦艦は榛名だけの今の状態じゃ、火力がキツイ。さっきはうまく重巡を轟沈させれてたが、戦艦や空母相手にどこまでやれるか……。
「不知火、俺の事は気にせずに戦うほうが良い。そんな余裕はないだろ」
「しかし……」
不知火が何かいうよりも先に付近に敵の放った砲弾による水柱が上がる。このまま固まってるとヤバイな。
「ともかく、固まってるわけにはいかないぞ!」
不知火が何かいうよりも先に俺は水上バイクを走らせて不知火から離れる。周りの様子を見てみるが、戦艦が黒潮の砲撃を受けても平気で動いていたり、まるゆの魚雷を受けた重巡からの砲撃を榛名が受けたりしている。だが、やはり厄介なのは上空からの爆撃だ。これのせいで飛鷹の艦載機からの援護が受ける事が出来ずに一方的に攻撃されている。
「うわあ! ……アカン、こりゃアカンでぇ」
黒潮の叫び声が聞こえた。そっちに視線を向けると、艤装が折れ曲がり、煙を上げている黒潮の姿があった。これは……マズイな。
「戦艦や重巡は榛名達が相手している……となると……」
俺の視線の先にあるのは、未だこちらからの砲撃を食らう事もなく、艦載機を飛ばしている敵の空母。あれをどうにかすれば戦闘も有利になるはずだが……俺の砲撃でまともにダメージを与えられるとも思えない。
仕方なく、俺は再び敵の重巡や戦艦たちの間を動き周り、隙をついて砲撃していく。だが、やはり俺の砲撃じゃ碌にダメージを与えられず、他の艦娘達も、一番強い榛名と潜っているまるゆを除く三人は追い込まれてきている。
(本当にマズくなってきたぞ。やはりあの空母をどうにかしないと……相手は人型だ。通用するかはわからんが、賭けるしかないか)
どっちにしろ、今の俺は録に役に立ってないし、博打を打たないといけないだろう。覚悟を決め、俺は一気に水上バイクを走らせる。目標は。……敵の空母だ。
「! ……キサ……マ……」
俺の接近に気づき、空母が俺を睨む。更に重巡や爆撃機からの攻撃も飛んできた。途中まではなんとか避けたが、その内の一発が至近距離に着弾。その衝撃で水上バイクが大きく揺れる。
「ぬぐ……! こんなところで落ちれるか!」
バランスを崩しながらも強引に水上バイクを走らせ、俺はそのまま空母に向かい、ついにすぐ近くまで来た……が。ついに後ろに着弾した砲弾の衝撃で水上バイクが空を舞う。
「ちっ……おおおお!」
その衝撃に吹き飛ばされながら、俺は水上バイクから手を離し、その勢いのまま空母に向けて落下した。
「ナニ!?」
咄嗟の出来事に反応できない空母に覆いかぶさるように俺は体当たりする。その衝撃に空母は水面に倒れ、俺が馬乗りになる形で上に乗る。
「ここまで来れば……バリアもくそもないよな!」
怒鳴りながら、俺は空母の顔を右から殴り抜ける。確かな手ごたえと共に空母の顔が横に飛ぶ。どうやら、生身の肉弾戦は通用するみたいだな。
「オノ……レ……!」
空母も反撃とばかりに俺に殴りかかってくるが、どうやら肉弾戦は慣れてないんだろう、ただやみくもに殴りかかってくるばかりだ。俺はそれを受けとめつつ更に空母を上から殴り続ける。
その時空母の被る帽子みたいな何かから艦載機が出てこようとした。
「させるか!」
艦載機が出ようとするよりも早く、俺は主砲を帽子に叩きこんだ。
「アア! 痛……い……」
流石に帽子を破壊する事はできてないが、それでも衝撃で艦載機のバランスが崩れて横転した。よし、これで時間を……!?
突然の機銃の音、そして、俺の右腕に走る強烈な痛みと熱。苦痛に顔が歪み、思考が混濁する中、俺が視線を向けると、そこには半分ぐらい千切れかけている俺の右腕と、そこに食い込んでいる機銃の弾があった。
「が……グ……!?」
一体どこから、既に放っていた艦載機から? それとも別のやつが? そんな考えが俺の中にと渦巻く。そして、それが俺の動きを止めていた。
「がっ!?」
空母が俺の体を掴み、力いっぱい横に引っ張る。それに抵抗できず、俺はバランスを崩し、代わりに空母が俺の上に来た。だが、俺は咄嗟に半分千切れた右腕で空母の服を掴み、左腕を空母の首に回し、足を空母の腰や足に回して空母にしがみ付く。
「ハナレロ……!」
右腕を振り払い、空母が俺の腋を殴る。だが、俺は全身の力を使ってともかくしがみ付く。今こいつを離せばこいつがまた自由に動いてしまう。ダメだ、そんなことはできない。やってたまるか!
しばらくの間、ともかく空母にしがみ付いていたが、だが、不意に俺の目に空から降下してくる敵の艦載機が目に入った。そして、艦載機の放った機銃は寸分違わず、俺の左腕の肘から上の部分に命中した。
「あ……グ……」
左腕に穴が開き、力が抜ける。足には何とか力を入れ続けるが、長くは持たない。それ以前に上に上げる事ができなくなった俺の上半身は既に海中に没していて、海面を見ることすらできない。
(ここまで……なのか……)
しばらくして、何回かの衝撃を受けて俺の足にも力が入らなくなる。そして強引に外される感覚と共に、俺は海中に沈んでいく。
(まだ……だ……こんなところで……死んだら……あいつらのために……も……)
沈んでいく中、俺は腕を上げようとして、まったく動かないまま、海中に沈むように俺の意識も闇の中に沈んでいく……。最後に俺の視界に入ったのは、太陽の光と、そして俺を困惑した表情で見下ろす空母の姿だった。