翌日、目を覚ました俺は手早く身支度を済ませると、軽い朝食を胃に詰め込んでから仕事に向けて家を出た。まだ朝早く、日も完全には登っていないが、俺の職場は後1時間もすれば始業開始だ。だから寝坊とかなんてできないし、道も最短距離で行くほうが良い。
その為、俺はいつも海辺の道を歩いている。暗い道を歩く中、ふと俺は歩みを止め、道以上の暗さに包まれる海を見つめた。
「……深海棲艦……か」
深海棲艦。艦娘以外のあらゆる通常兵器の攻撃を謎のバリアで無効化するという化け物たち。突如世界のあらゆる海から現れたあいつらのせいで海上の交通網はほとんどを破壊された。その為この国は輸入、輸出のほとんどが滞り、一時は人口が半分になるほどの被害を受けたし、諸外国も大なり小なり似た被害を受けたらしい。現在は艦娘達によって徐々に交通網は回復しているらしいが、それでも制海権はほとんど奴らの手にあると言っても良い。
だからこそ、艦娘達は今現在も戦い続けている。人々のために戦い続けれる彼女達がとても羨ましく、そして……とても妬ましい。だが、だからと言って俺にできることなどなにもない。まさか、海に出て深海棲艦と戦うわけにもいかないのだから。
「……やめよう、不毛だ」
いつまでも無駄な事を考えても仕方ないと、視線を前に向けようとした俺の視界に一瞬、何かが映った。暗い海の上、明かりもなく何も見えないはずなのに、俺は海から何かが来ている。それを視界に捕らえていた。
「なん……だ……?」
嫌な予感に俺が海を見つめていると、不意に海の一点で何かが光ったと思うと、空気を切り裂き、何かが飛んできた。それは近くの空き家にぶつかり、大きな破砕音を発した。
「な……!?」
音を立て崩れる民家に俺は言葉を失い、慌ててもう一度海を見る。そして……わかった。暗い海の中からこちらを見てくる赤い目、魚のような異形のソレは大きく口を開いており、その中には未だこちらに向けて何かが向けられていることを。
「マズイ……!」
慌てて俺は海から遠ざかるように走って逃げる。そして、周辺には単発的に砲弾が着弾し、家が壊され、人々が騒ぎ始める。
「まさ……か。深海棲艦が出てくるなんて……!」
少なくとも俺はこの町で奴らが出たとは聞いた事がない。だが、そもそも海辺の町だ、今まで出なかったのがおかしいだけだ。だが、どうする、どうすればいい。
「逃げ……ないと……」
物陰に隠れ、息を整えていた俺はそう結論付けようとした。だが……足が動かない。いや、足どころか、体も……そして、逃げようとする意志を捻り潰すかのように、心が騒ぎだす。
戦え。人の為、兄弟の為、己の為すべきことを為せ。栄誉ある大日本帝国陸軍として、戦え。
そう、心が騒ぐ。体全体が熱くなっていく。逃げようとした足が海の方を向く。そうだ、逃げるなんて何を考えている。俺は……俺は戦えるんだ。例え勝ち目の一つもない戦いでもいい……いや、これで死ねるなら……!
そんな自分の気持ちに従い、俺は海に向かって走り出す。そして到着すると、海からは今も深海棲艦が町に向けて砲撃を飛ばしている。陸に近づいてきてるおかげでさっきよりもハッキリと姿を見れるようになってきたが……敵は一体だけ。よく見れば所々から煙が上がってるのを見ると、艦娘と戦って逃げてきたのか? 理由はわからないが、負傷しているなら好都合だ。
「おい、深海棲艦! こっち向け!」
俺の怒鳴り声が聞こえたのか、深海棲艦がこちらに向いてくる。遠く離れてるはずだが、その赤い目から向けられる殺気を感じる。だが、敵が俺に向けて砲撃するよりも早く、俺は準備を終えていた。
「主砲は装填済みなんだよ!」
その言葉と共に、俺の肩に出現したのは俺の主砲。軍艦の使う砲に比べればあまりに小さいものであり、普通であれば軍艦に通用するはずもない……だが。
「その大口の中の砲身にぶち込めば、少しは効果あるよなあ!」
そう叫ぶと、俺は主砲を発射した。その砲弾は寸分たがわず敵の砲塔に命中し、敵の砲弾が次々と誘爆していく。
「……まさか、こんなまぐれ当たりをするとは……」
俺の困惑を余所に敵の口からは次々に爆炎と煙が上がっていき、やがて敵は動きを止めると、そのまま海に沈んでいった。
「……これで終わった……のか……?」
しばらく深海棲艦が沈んだ先を見つめるが、それ以降海は静かなままで、何も起きる気配はなく。俺はそれを確認すると急いでこの場を離れた。既に破壊された家から出てきた人達によって騒ぎはどんどん大きくなっている。これ以上この場に居て人目に付くのは避けるほうが良いだろう。