艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

30 / 111
誤字報告ありがとうございます。


第30話

「……ん?」

 

 不意に俺の意識が目を覚ました。と言ってもまさに寝起きといった感じか。視界もぼやけ、まともに頭が回らない。

 

「ここ……は……?」

 

 体を起こそうとして、水音が耳に入り……そこで俺は水の中……いや、温かいからお湯か? その中に居るのに気づいた。

 

「これは……お湯? ……か」

 

 頭を振り、お湯を掬って顔を洗うとそこでやっと意識がはっきりして辺りの様子が目に入った。

 

「これは……入渠施設か」

 

 そこは以前俺も世話になった入渠施設だった。そして俺の体には腰のタオル一枚を除いて何も身に着けてない。なんで俺ここに居るんだ? 俺は確か……。

 

「目が覚めましたか?」

 

 不意に後ろから声をかけられ、俺は後ろを向く。そこには香取が居た……んだが、なんでバスタオル一枚なんだ? いや風呂場だから間違いじゃないんだが、なんで俺が居るのに香取が居るんだ?

 

「第一艦隊の皆さんに聞きましたよ。空母相手に一人で挑んだって。もう少しで轟沈するところだったとも」

 

 ……そうだ。俺は確かに海中に沈んでいったんだ。

 

「待ってくれ。確か俺は海中に沈んでいっていたはずだ。なんで俺はここに居るんだ?」

 

「まるゆちゃんですよ。沈んできた貴方を一所懸命海上に引き上げてくれたんですよ」

 

「……という事は、艦隊のメンバーは無事なんだな? 俺の救助なんかに手を回す余裕ができたって事は、それだけ戦闘が有利になったは……」

 

 そこまで言った俺の頭に香取の拳が叩きこまれた。特に痛くはなく、逆に香取のほうが痛がっていたが。

 

「……。チヌさん、どうして自分の事をそんなに低く見るんですか? あとちょっとでチヌさんは……死ぬところだったんですよ?」

 

「死ぬつもりはなかったが、あそこはああやって空母を抑える必要があると思っていた。そうしないと艦隊の被害はもっと大きくなっていたはずだ。俺が沈むよりも他への被害を減らすほうが大事だ」

 

 そう言ったらまた拳が叩きこまれた。

 

「チヌさん、戦車だとか艦娘とか関係ありません。貴方はこの鎮守府のメンバーなんです。そこに命の優劣なんてあると考えないでください。貴方が死んだら皆が悲しみます」

 

 いや、命の優劣がないとしても戦力の優劣ははっきりしてるだろ。俺よりも艦娘が生存するほうがよっぽどいいはずなんだが……と思ったが、正直言い合いする気力は今の俺にはなかった。それにヘタに香取の機嫌を悪くするわけにもいかないし、話を変えるか。

 

「……ところで、なんでお前はバスタオル一枚でここに居る?」

 

 俺の言葉に香取は少し溜息をついた。

 

「チヌさん、自分がどれだけの傷を負っていたか覚えてないのですか? 両腕はズタズタ。足もいくつも痣ができていました。おまけに気を失っている。そんな状態で貴方を一人で置いておけるわけないじゃないですか」

 

 まぁ、妥当な理由だな。取りあえず腕や足を動かしてみるが、傷の影響は残っていないようだ。

 

「じゃ、傷も治ったようだし出るぞ。いつまでもここを占拠するわけにもいかないからな」

 

 俺が入っている間は艦娘は使いにくいだろう。まぁ、第一艦隊のメンバーは先に使ってるだろうし戦力的にマズい状況ではないだろうが。

 

「キャッ」

 

 俺が浴槽から出ると、香取が視線を逸らし、胸元を手で覆った。……ああ、上から見られると思ったのか? なら別のを着ていれば良かったのに。ここには海中用の作業服ぐらいあったと思うんだが……。まぁいいか。

 

 そう思いつつ、俺は脱衣所に入る。そして目に付く位置に俺の服の入った籠があったので手早く体を拭き、服を着る。そして脱衣所を出ると……。

 

「チヌさん! 無事に体治りましたか?」

 

「チヌ! 心配したんだよ!?」

 

「チヌはん、大丈夫かいな!?」

 

「チヌさん、大丈夫ですか? 大丈夫ですか!?」

 

 脱衣所を出た俺に不知火、響、黒潮、まるゆが群がってきた。

 

「入渠したから大丈夫なのはわかるだろ……。まるゆ、俺を助けてくれたんだってな」

 

「うう……本当に危なかったんですよ。チヌさんが空母から引き剥がされて、沈んできて……」

 

「ああ、俺も正直あのまま死ぬと思った。感謝するぞまるゆ」

 

 そう言うと、俺はまるゆに頭を下げる。

 

「い、いえ! 当然の事をしたまでですから……あ、あの、でも、もうあんな無茶はしないでください……」

 

 そう言って、まるゆは悲しそうな表情で俺を見上げる。気づけば他のやつも同じような表情で俺を見上げていた。

 

「……戦争をしてるんだ。無意味に特攻するつもりはない」

 

 そう言って、俺は軽くため息をつく。

 

「取りあえず提督に回復の報告をしてくるから、後でな」

 

 俺はそう言って四人から離れると、提督室に向かって歩き出す。そして何事もなく提督室に到着すると、軽くノックして中に入る。

 

「おお、チヌ。無事に回復できたようで良かったよ」

 

 提督室に入った俺を迎えたのは提督に明石であった。

 

「はい。このたびは自身の力不足によって第一艦隊のメンバーには迷惑をかけてしまいました。申し訳ありません」

 

 俺はそう言って深く頭を下げる。

 

「頭を上げてくれチヌ、今回はあまりにも不運な遭遇戦だったと言えるだろう。普段はあの海域では空母どころか重巡すら遭遇する事はなかったからな。だが、その代わりに良い事もあったよ」

 

「良い事……ですか?」

 

「はい。あの戦闘のおかげで水上バイクのデータが思った以上に取れたんです。しばらくしたらもっと改良した水上バイクをご用意できますよ」

 

 そう言って明石が満面の笑みを浮かべている。楽しそうだなこいつは。

 

「で、もう一つ良い事があったんだよチヌ。……なんと、君が組み着いていた空母を鹵獲できたんだ」

 

「……!? 鹵獲ですか? 深海棲艦を!?」

 

 それは驚きだった。今まで俺の知っている限り深海棲艦の鹵獲どころか轟沈したものの回収する話を聞いたことがない。それを鹵獲できたなど、いったい何があったのか?

 

「君を無理やり剥がした後、あの空母も多少粘っていたが、艦娘達に包囲されて、そのまま轟沈させられると思ったんだが、なんと両手を上げ、残っていた艦載機を収納して降伏したんだよ」

 

「……それはとても信じられませんね。今まで深海棲艦の鹵獲とかなんて聞いたこともないですが……」

 

「ああ。だろうね、私達もこんな出来事は初めてでどう対応すればいいか困惑してるぐらいだ。取りあえず今は反省房に入れて足柄と川内に見張りを頼んでいる。会ってみるかい?」

 

「ええ。お願いします」

 

 俺がそう言うと、提督は戦闘に関しては他のメンバーに聞いているから、今日はもう下がって、彼女に会ってくると言い。俺は反省房に足を進めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。