出撃を終えた俺は取りあえず提督に相談するが、特に有効な内容も出る事はなく、結局いつも通りに過ごすしかなかった。その間にもビスマルク殿は俺に会うたびに厳しい態度をとり続け、更に艦娘達から悪い感情を抱かれているようだ。
そんな中、今日は明石と一緒に工廠で作業をする事になった。
「それにしても、ビスマルクさんって本当にチヌさんに喧嘩売ってますよねぇ。チヌさん、よく我慢できますよね」
作業をしている中、明石が俺に話しかけてくる。話題はあれだが。
「俺としては特に気にしてないからな。ビスマルク殿が言ってることは正鵠を得ているんだし。そもそも、いくら戦力不足だからって戦車を出撃させる事自体おかしい事だろ」
「うーん、でも、一定の戦果は出てるんですよねぇ。だからこそ、私もビスマルクさんの態度好きになれないんですが」
そんなことを話しつつ作業を続けていると、ふいに工廠の扉が開き、件のビスマルク殿が入ってきた。噂をすればなんとやらか。
「明石、艤装の点検を……ふん、戦車風情が、こんなところにもしゃしゃり出てるのね」
その言葉に明石が眉間に皺を寄せる。だから、お前が怒るなと言うに。
「……艤装の点検はこちらで行いますので、こっちに来てください。チヌさんは、向こうの棚での作業をお願いします」
俺が何かいうよりも早く明石が指示を出して来た。取りあえずそれに従い、俺は明石に言われた場所の棚での作業を始めた。まぁ、作業と言ってもやることは在庫の確認ぐらいだが。
まぁ、ビスマルク殿と顔を合わせていても仕方がない。取りあえずリストにある通りに在庫があるかどうかを確認していく。たまに妖精達が勝手に資材を使って主砲とか作ってるからなぁ……。
しかし、そろそろ棚も新調したほうがよくないかな、普段からけっこう重い物ばっかり載せてるし、耐用年数も心配だが……。
そんなことを思いつつ確認をしていると、ふいに後ろに気配を感じた。振り向くと、そこにはビスマルク殿が立っていた。
「ビスマルク殿? どうされました?」
俺が尋ねると、ビスマルク殿は酷く眉間に皺を寄せて俺を睨み付けてきた。
「本当にうっとおしいわね、戦車風情が!」
そう言うと、ビスマルク殿は足元にあったバケツを蹴り飛ばした。備品は乱暴に取り扱わないでほしい。
「まったく、ここの艦娘は本当におかしいわよね。あんたみたいな戦車を戦力として運用して、それを信用してるなんてさ。本当にイラつくわ」
「あんたみたいな戦車風情が私達の領域まで出てくるんじゃないわよ! あんたらはおとなしく陸の上を走ってればいいのよ!」
そう叫ぶと、ビスマルクは近くの棚に拳を叩きつけた。
「おっしゃりたい事はよくわかります。しかし、一兵器である私には提督の命令を拒む権限は持っていません。私の行動に関しての進言は提督にしていただければ……」
そこまで言った時、ビスマルク殿が俺の胸ぐらを掴んで棚に押し付けてきた。
「その態度も癪に障るわ……! 何、私がどう言ってきても構わないとか思ってるのかしら? 本当にイラつくわね……! 私をバカにしているのかしら?」
これはマズイ。艤装があったら主砲を撃ちかねないな、なんとか穏便に済ませないと……。
そう思っていると、不意に地面が揺れ始めた。どうやら地震のようだが、そこそこ大きい。足に力を入れ、こけないようにするが……。
「な、なにこれ!?」
ビスマルク殿が尻もちをついた。ああ、そう言えば欧州では地震そのものが起きる事がほぼないんだったか。地面が揺れる。という感覚に慣れてないんだろう。
と、不意に俺の頭に何かが当たり、床に転がった。それは、一本の大型のネジであった。それを見た瞬間、俺が後ろを振り向くと、そこには更にいくつかのネジが外れ、こちらに向けて傾いている棚であった。
「!? 危ない!」
尻もちをついているビスマルク殿は茫然とこちらに倒れかかってくる棚を見上げている。それを見て、俺は咄嗟にビスマルク殿の上に覆いかぶさる。その上に棚の天板や艤装のパーツ、資材等々が降り注ぐ。
「……ッ」
しばらくして衝撃が収まる。が、どうもかなりのものが俺の上に降り注いだらしく、動くことができない。細々したものが重なっているせいか、電光もほとんど遮られ、ビスマルク殿の様子も確認できない。
「……! あなた、血が!」
俺の下に居るビスマルク殿が声を上げる。そしてその段階で俺は背中に尖った鉄の棒が刺さっているのに気付いた。幸いそこまで深くも刺さってはいなさそうで行動に支障はない。
「これぐらいの傷なら問題ありません。ビスマルク殿はお怪我はございませんか」
「! ……私は平気よ。それより、動くことはできないの?」
「申し訳ありませんが、今の体勢を維持するのが精いっぱいです。明石が気づいてくれれば……」
そこまで言ったとき、耳に慌てて走ってくる誰かの足音が聞こえた。
「わ!? 倒壊して……チ、チヌさん! ビスマルクさん! どこですか?」
どうやら明石がここまで来たようだ。彼女のほうはどうやら無事だったようだな。
「明石、俺とビスマルク殿はここだ。自力で動けそうにない。そっちからどうにかできるか?」
「うーん、ダメです。私だけじゃどうしようもないです。すぐに人手を集めますので、持ちこたえてください」
そう言うと、明石が去っていく足音が聞こえた。どうやら、これで無事に出る事はできそうだな。
「……グッ」
重なった物の重さに耐えきれず体が少し下がる。まだビスマルク殿の体に触れてはいないが、今の体勢をどこまで維持できるか……。
「……どうして?」
不意にビスマルク殿が俺に声をかけてきた。
「どうして私を助けたのよ。私があんたにどういう態度をとっていたのか、わからないほど脳みそが錆塗れなわけじゃないでしょ」
酷い言いようである。これでも明石に定期的なメンテナンスを受けているというのに。
「貴方は艦娘です。俺が負傷する事に比べれば、貴方が負傷するほうが大きな損失となります」
「ふん、模範的な回答ね。本当、イラつく。私があんたを嫌ってるのに、よくそんな事言えるわね」
「……貴方の言う事は正しいですから」
「……ただ、せめてこの鎮守府に居る間だけ、我慢して頂きたい。貴方のその態度によって他の艦娘が厳しい目で貴方を見ている。私の事で貴方方の間に溝を作っては、出撃の時にやりにくくなってしまうでしょう」
「……ふん」
ついでに頼んだが、そっぽを向かれてしまった。いや、真面目に聞いてほしいんだが。