深海棲艦襲撃から数日後、久しぶりの休日の朝、俺は定食屋で朝食を食っていた。
「しかし、軍の連中はいつまで町に居座るつかりだろうねぇ」
「仕方ないさ。轟沈したはずの船が消えてるってんだろ? 必死で探してるんだろうさ」
深海棲艦の襲撃以降、町の中での話題はこれ一色だ。その日の内に到着した軍の連中によって現場は封鎖され、深海棲艦の引き上げ作業を開始しているようだが、沈んだはずの深海棲艦が見つからないという事で現場は混乱しているようだ。それに、深海棲艦による攻撃を許した事に対する非難の声も上がっているそうだし、当分軍の連中は町に居座るんだろう。
「わかめそば定食お待ち」
目の前に出されたわかめそばを、俺は手を合わせてから食べる。あれから職場も町も騒がしくなったが、俺自身は特に何も変わらず過ごしている。ただ、たった一度だけ……たった一度だけだが、お国の為に戦えたという満足感のおかげか、俺の心は充実感に溢れていた。これで、少しでも俺の生まれた意味があったというものだ。
そんなことを考えながらそばを食べていると、突然店の扉が開かれる。そして、中に入ってきたのは軍服に身を包んだ数名の男性。その内の一人は胸に一つ、勲章をつけている。
「ぐ、軍人さんがいったい何の御用で……?」
突然の軍人の出現に、客は全員驚きと困惑の表情を浮かべて軍人達を見る。そんな中、店主は声を震わせながらも声をかけた。
「騒がせてすまないな店主。私達が用があるのは彼だけだ」
そう言うと、胸に勲章をつけた男は俺の前に立った。
「初めまして、田中さん。私は飯田次郎一等陸尉だ。貴方にはこれから東京の軍部に来ていただく」
突然の言葉に俺は言葉を失い、飯田一等陸尉を見上げる事しかできなかった。
「……なぜ、私が軍へ? 自分で言うのもなんですが、私は軍に連れていかれるほどの何かをしたことはないはずですが」
俺の言葉に飯田一等陸尉は表情を変えることなく答える。
「無論だ。むしろ、君がしてくれたことを評価しているからこそ、来てもらわねばならんのだ」
そう答える飯田一等陸尉は俺の肩に手を置いてくる。どうやら、どうしても俺を連れていくつもりらしい。
「……食事だけ、終わらせてもよろしいですか?」
「ああ、構わない」
了承を取ってから、俺は手早く食事を終える。そして、店主の前に代金を置くと、軍人たちと共に店を出ようとする。
「あんた……いったい何をしたんだい?」
後ろから聞こえた店主の不安そうな声に、俺は振り向くことなく答えた。
「大したことのない……ちょっとしたことだ」
そう言って、俺は背中に客たちの無遠慮な視線を感じつつ、店を出た。