訓練を始めてから2週間。香取と話し合いつつ加古の訓練を続ける。やはり艦娘である事から体力的な問題は少なく、順調に経過している。……と思っていたが。
「あー、もうダメ……もう動けない……」
朝の訓練の途中、加古が突然グラウンドに倒れこんだ。一緒に訓練していたまるゆと不知火が傍に駆け寄り様子をうかがう。
「加古、まだ訓練は残ってるぞ! 起きろ!」
倒れこんだ加古を起こすが、加古は半分以上を意識を手放していて起きる気配がない。仕方なく俺は用意していたバケツを持ち上げると中の水を勢いよく加古にぶっかけた。
「うわ! ゲホッ! ゲホッ!」
水が鼻に入ったのか、加古がむせながらも起き上がる。
「立て! まだ訓練は残ってるぞ!」
俺が声を上げると、加古が鋭い目で俺を睨み付けてきた。
「あーもう! 訓練訓練うるさいよ! 私はこんなに訓練とかやる気ないんだよ! 寝て過ごしたいのに邪魔しないで!」
その言葉に、俺は加古の胸ぐらを掴み、そして加古の頬を引っ叩いた。甲高い音がして加古が涙目で俺を睨む。だが、俺は逆に思い切り睨み返した。
「ふざけるな! 戦える力があるのに! 守れる力があるのに! それを発揮せずに腐らせる気か! それだけの力がある癖に!」
そこまで怒鳴り、俺は加古の表情に驚きと、そして怯えが浮かんでるのに気づいた。それにまるゆ達も同じような表情で俺を見ている。
「……すまない、頭に血が登った。今日の訓練は中止する」
俺は加古から手を離すと、グラウンドを後にした。
グラウンドを後にした俺は、そのまま見回り等の任務をこなしていたが、加古に対してやった事が頭から離れず、任務に集中する事ができなかった。それでもなんとか任務を終えたが、家に戻ればまるゆ達と顔を合わせかねない。正直今の気持ちのまま会うつもりになれず、間宮の食堂で日本酒を飲む。
「ここにいらしたんですかチヌさん」
不意に声がかけられ、そちらを向くと、香取が間宮に入ってきていた。そして俺の向かいに座ると間宮に俺と同じ酒を注文している。
「まるゆさん達に聞きましたよ。加古さんに手を上げたそうですね」
「……ああ。完全に俺の個人的な怒りによるものだ。だから香取、俺は加古の訓練から外すよう提督に願い出る……。私情を挟むような指導をするわけにはいかない」
私情で指導をすれば相手に対して適切な指導をできるとは俺は思っていない。そして艦娘は他に代わりの居ない存在だ。俺のヘタな指導でその力を発揮できなくするわけにはいかない。
「……私はそうは思いませんよチヌさん」
香取の言葉に俺は眉をしかめた。
「香取、慰めのつもりなのかもしれないが……」
俺が全て言う前に香取が手を出して俺を制する。
「チヌさん。私だって多かれ少なかれ、皆に教えるときには個人的な感情があります。私の場合は、無事に帰ってきてほしいとか、怪我がないようにとか、そう言うのですけど……。チヌさんは、どういう想いで教えていたんですか?」
俺の感情。それは……。
「……立派に戦ってほしい。俺と違って加古には艦娘として、深海棲艦に対抗できる力があるんだ。だから……力をつけて欲しい。加古自身に、彼女が出陣した時の他の艦娘達になにかが起きてしまう前に」
俺の言葉に香取は深く頷く。
「とてもいいと思います。ですから、明日加古さんともう一度話してみてください。今日のところは加古さんは私の部屋に泊めますので、私からも加古さんと話はしておきます。結論を出すのはそれからでいいと思います」
香取の言葉に俺は頷いた。それを見た香取は安心したように表情を綻ばせた。それを見て俺は続きが言えなかった。俺の中にあるもう一つの感情「艦娘への嫉妬」を。
(……情けない。俺は兵器。兵器は使用者の動かすままに動くべきはずなのに。こんな人間的な感情はまるであの人たちのような……)