香取と話した翌日。俺は家で加古と相対していた。俺も加古も正座し、加古の後ろには心配そうに見ているヲ級をまるゆと不知火。そして加古の隣には香取が居る。
「……加古、まずは前日の非礼を詫びる。俺は自分の感情に任せてお前を怒鳴りつけ、手を上げてしまった、申し訳ない」
そう言って、俺は深く頭を下げた。しばらくそのままだったが、加古からの反応がない。これはどうやら相当嫌われているな。
「提督に進言し、俺はお前の教育役を降りる。同じ鎮守府内に居る以上、顔を合わせることはあるだろうが、できるだけ最小限の接触で……」
そこまで言ったとき、不意に俺の言葉が遮られた。頭を上げると、そこにあるのは、俺を見る加古の顔であった。
「その……私も悪かったよ。……チヌが一所懸命なのに寝てばっかりだったからさ」
「あれからさ……香取先生と話して色々考えたんだよ。で、寝る癖は中々治らないと思うけど……チヌに指導してもらいたいんだ」
……俺は加古が言ってることが理解できなかった。俺に指導してもらいたい? 大丈夫か? もしかしてどこかで頭でも打ったのか?
俺がそう思っていると、香取が声をかけてきた。
「チヌさん。加古さんもこういってることですし、教育係を続けてもらえませんか?」
「……加古がそれでいいと言うなら……」
正直、加古の心境がどうなっているのかは理解ができない。だが、本人から頼まれた以上はやるしかないのだろう……。
翌日より、加古は再び俺の訓練を受ける事となった。意識して寝る癖を治そうとしているおかげか、以前よりも訓練の調子も良くなり、目に見えて寝る癖も収まってきた。ただ、その分普段の睡眠がかなり深くなっているのか、朝に起きるのが更に苦手となってしまった。とぼやかれはしたが……。
そんなこんなで一か月が経過し、俺と香取の報告を受けた提督は、加古を元の鎮守府に戻す事を決定した。その決定から数日後、加古は帰り支度を整えて鎮守府の正門の前に立っていた。見送りとして提督と香取、そして俺が居る。
「いやぁ、今回は本当にお世話になったよー。感謝してるよー」
「感謝してるなら、もうここに戻ってくるような事にはなるなよ……お、来たな」
加古と提督が話していると、護衛用の戦闘車両2台に挟まれた護送車両がこちらに向かって来るのが見えた。しばらくして車が到着すると、中から恰幅の言い提督が降りてきた。
「加古、久しぶり。元気にしてたかい?」
「提督久しぶりー。元気にしてたよー」
降りてきたて遺徳に向かって加古が走りだすと、その胸に飛び込み互いに熱い抱擁を交わしている。どうやらこの提督は人目を気にしないようだ。
「革元。お前の希望通り、加古の再訓練は終わったぞ。次はちゃんとお前のとこでなんとかしろよ」
「ハッ。このたびは先輩のお手を煩わせて申し訳ありません」
「……香取、お二人は知り合いなのか?」
互いに慣れた様子なのと、革元提督が先輩と呼んでいる当たり、軍学校の先輩後輩関係なのだろうか?
「はい。革元提督は、うちの提督の後輩にあたります。軍学校を卒業後も何かと一緒に行動する機会も多かったらしく、けっこう親しい関係を維持されているとか」
「なるほど」
俺が香取から説明を聞いている間に提督と革元提督の話にひと段落がついたのか、革元提督の視線がこちらに向いていた。
「君がチヌか。先輩から話は聞いているよ。今回の加古の再訓練にあたって協力してくれたんだってね」
「自分の協力など微々たるものです。全ては香取の指導、そして加古自身のやる気によるものであります」
「ふむ、確かにそれはあるかもしれないが、加古のやる気を出してくれたのは君の指導によるものと聞いている。その点では感謝しているよ……ただね……」
不意に革元提督が凄い形相で俺を睨んできた。今までの態度からは想像もつかないような怒りに満ちた形相……。俺、何かしただろうか?
「加古の胸ぐらを掴んだとか、水をぶっかけたとか……そう言うのは勘弁してほしかったなぁ。それになにより、加古と同じ屋根の下で寝泊りとか……うん、とても容認できないんだよ私にとって」
……ああ、わかった。提督と榛名の関係と似たような関係って事か。
「革元。同じ屋根の下での生活は俺の命令によるもの。胸ぐらを掴んだりは指導の一環だ。現に加古は再訓練が終われたんだからそういう態度はやめろ」
「そうだよ提督。私はチヌに感謝こそすれ怒ってなんかないんだから」
二人に宥められ革元提督の表情が徐々に元に戻っていく。どうやらこの二人には流石に逆らえないようだ。
「あー……まったく。先輩たちがそう言うなら我慢しますが……次はないですよ」
そう言ってくぎを刺すならそもそも加古を再訓練に出させるような状態にしなければ良いものを……。
「ハッ。了解いたしました」
取りあえず俺が返答をすると、革元提督は提督と香取に挨拶をして加古と共に護送車両に乗り込んで去っていった。やれやれ。
「すまなかったなチヌ。あいつは加古の事になると見境がなくなってなぁ」
「あら、提督も榛名さんの事となれば見境がなくなるじゃないですか。他人の振りを見てなんとやら。ですよ?」
「さーて、仕事しに戻るかなー」
香取のツッコミに提督があからさまなとぼけた態度を取りながら鎮守府の中に戻っていく。それを見た俺と香取も苦笑しながら鎮守府の中へ戻っていった。