艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第九章
第43話


 

 この日、俺はこれまでにない程の衝撃を受ける事となった。その理由は、提督の言葉によるものだ。

 

 その日、俺を含む鎮守府内全ての艦娘が会議室に呼ばれていた。これまでもそういった事はあったが、そういうときが大抵何かしらの大きな出来事が起きるときであり、艦娘達も緊張していた。

 

「皆、今日は重大な報告がある」

 

 会議室のスクリーンを背にして提督が全員を見やる。

 

「この鎮守府に……大和が配備される事となった」

 

 この言葉に艦娘達は大きくざわめく。ある者は信じられないような表情を浮かべ、ある者は周りに居る者達と話し出す。かく言う俺もその衝撃に目を見開いていた。

 

 大和。大日本帝国における最大級の戦艦。この日本の名を背負う者。この名前は大日本帝国時代の出身である俺達にとってあまりに特別なものであった。

 

「皆静かに! 気持ちはわかるが話はまだ終わっていない!」

 

 提督の言葉に艦娘達は次第に冷静を取り戻していく。そして会議室が静かになったのを確認して、提督が話を再開した。

 

「簡単な話だ。例え大和と言えでも訓練を積まなければ十全の力を発揮はできないということだ」

 

 まぁ、確かにその通りだ。おまけに大和は第二次大戦時には大した戦果を上げる事もなくアメリカ軍に撃沈されている。実戦経験も豊富とは言えない。

 

「我が鎮守府は当面の間、大和の訓練を無事に終了させ、彼女を前線の鎮守府に配属させる事を目的として動く。皆には不自由をかける部分もあるだろうが、どうか協力してほしい」

 

 提督の言葉に艦娘達は了解の返答を返していく。そして当然俺も同じ返事を返した。

 

 

 

 

 提督の説明より数日後、大和が護衛の艦娘達と共にこの鎮守府に到着した。その出迎えには全ての艦娘が集まり、俺も一番端で大和を迎えた。

 

 港に到着した大和の姿は近くで見ることは叶わなかったが、遠くからでもその立ち居振る舞いから溢れる気品を感じる。あれがこの国の名を冠する戦艦か……。

 

 その時ふと、大和がこちらを向いた……いや、正確には俺の居る方向であって、俺ではないな、あれは。そして、その顔に笑みを浮かべる。そして俺の視界の端で、俺の隣で敬礼をしていたまるゆの顔が笑顔になっていた。なんだ、この二人は面識があるのか?

 

 そう思っている内に大和は提督に連れられて鎮守府の中に入っていった。後は提督や榛名の仕事だ。

 

 

 

 

 出迎えが終わり、艦娘達が解散した後、俺とまるゆと不知火は家に戻ってヲ級の監視の任務についた……まぁ、正直ほぼ形骸化してるような気はするんだが。今も拘束具を付けていたとはいえ、布団で寝ているヲ級の姿を見ていると脱走とかを起こすとはとても思えない。

 

「……オ帰リ……」

 

 俺達が戻った音で目を覚ましたヲ級が布団から体を起こす。それを見たまるゆがヲ級の拘束具を外しヲ級を起こすと布団を片付ける。

 

「そう言えばまるゆ、大和殿がお前のほうを見て笑ったように見えたんだが、大和殿とは面識があるのか?」

 

 俺がそう聞くと、布団を押し入れに押し込んでたまるゆが照れくさそうに笑った。

 

「はい、大和さんが沖縄に向かうときに一度だけお会いしたことがあるんです。覚えてくださってるとは思いませんでしたけど」

 

「あれ、それじゃぁまるゆさんはあの陸軍所属なのに海軍贔屓になったという艦長が乗っていたというまるゆさんなんですか?」

 

 不知火の言葉にまるゆが苦笑いする。

 

「あ、いえ、私は四十程建造されたまるゆの全員の記憶があるんです。だから、不知火さんの問いにはそうでもあって、そうではないって感じですね」

 

「……なるほど、そうだったんですか……、それじゃぁ、チヌさんもそうなんですか?」

 

 その問いに俺は首を横に振る。

 

「いや、俺は俺自身以外のチヌの記憶はないな」

 

 そう、俺には他のチヌの記憶はない。同じ陸の出身であるまるゆもそうなのかと思っていたが違うそうだし、やはり俺は異質なんだろうな。

 

 そんなことを思っていると、不意に家の扉がノックされた。

 

「どなたでしょうか?」

 

 不知火が声をかけると、扉が開かれるとなんと大和の姿がそこにあった。

 

「初めまして皆さん、本日よりこの鎮守府に配属された大和です。宜しくお願いします」

 

 そう言って大和は頭を下げる。それを見た俺達もつられて頭を下げる。そして顔を上げると、先に顔を上げていた大和がまるゆに向けて歩き出した。

 

「まるゆさん、お久しぶりです。ご無沙汰をしておりました」

 

 まるゆの傍まできた大和が再び頭を下げる。それに対してまるゆは困惑と驚きの表情を浮かべた。

 

「は、はい。こちらこそご無沙汰しています。……覚えていてくださったんですね」

 

「もちろんです、あの日、沖縄に向かう私の為に礼をしてくださった事、忘れて等いません」

 

 そう言ってほほ笑む大和の姿にまるゆも不知火も、そしてヲ級からも感嘆の息が漏れる。俺自身も漏れそうになったが実際に出る事はなかった。

 

「それにしても……深海棲艦を鹵獲したという話は聞いておりましたが、まさかこんな無防備な状態で置いているとは……」

 

 そう言って大和はヲ級に厳しい視線を向ける。ああ、そうだよな、普通に考えたらこんな普通の一軒家に対した拘束器具もなく捕虜を置いとくなんてしないよな、本当に何を考えているんだろう、うちの提督と上層部は。

 

「私ハソコニ居ルチヌに鹵獲サレタ身、チヌノ意向ニ沿ハナイ行動ハシナイ」

 

 大和の視線を真っ向から受け止めつつ、ヲ級は答える。その答えを聞いた大和は不意に俺のほうに向いてきた。

 

「貴方の噂は聞いております。戦車でありながら艦娘と共に海に出て戦い、そして深海棲艦を鹵獲した唯一の存在と。こうしてお会いできて光栄です」

 

 そう言って頭を下げて挨拶をする大和、まさか俺が大和と直接言葉を交わす事になるとはな……緊張しているのが自覚できる。

 

「初めまして大和殿、こちらこそ大日本帝国海軍の象徴、大和殿にお会いできるなどと、ましてこうして言葉を交わす事が出来るなどとは思いませんでした。こちらこそ光栄です」

 

 そう言って俺は頭を下げる。これが俺と大和殿との出会いとなった。

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