疑問に思いつつ俺は提督室の中に入った。中ではいつもの如く提督が椅子に座り、俺に視線を向ける。
「呼び出してすまない。少々、頼みたいことがある」
「なんでしょうか?」
「……今この鎮守府の資材がかなり少なくなっているというのは、重々承知していると思う。上層部とも掛け合ってはいるが、他の鎮守府の作戦のほうに優先的に回されていて、こちらに回ってきていないのが現状だ」
ああ、他の鎮守府で何かしらの作戦が行われているのか。大和を回した以上、上層部からも資材を優先して回して貰っている可能性はあったが、それもなかったのか。
「それで……だ。他の鎮守府にも掛け合ったが、碌に回してもらえなくてな……。かと言って大和の訓練が終わるまでこのままでは艦娘の練度や士気を維持するのも難しい。それが今の鎮守府の現状だ」
まぁ、うちにいる黒潮たちを見てたらそうとしか思えないな。問題はそれをどうするかだが……。
「提督、それで、何か方策はあるのでしょうか?」
俺の問いに提督は少し溜息をついた。
「あまり使いたくはないのだがな……。チヌ、君には竹下一等陸佐の元に行き、彼の所で管理されている資材をこちらに回してもらうように打診してほしいのだ」
「……なんですって? それは流石に……」
提督の言葉に俺は言葉を詰まらせる。その言葉はあまりに予想外だし、そして正直非現実的だ。
「ああ、言いたいことはよくわかる。今の陸と海とでは流石に……な。だが、他に当てがないのも事実なんだ。頼む、今この鎮守府で陸と繋がりがあるのは君とまるゆだけであり、まるゆにこういうことを頼むのは酷な事だと思う」
まぁ、まるゆにはなぁ……。実年齢はさておき、精神年齢がなぁ。
「……わかりました。微力は尽くします……が、当てにはしないでください」
ともかく上からの命令であり、この鎮守府の為でもあることから、俺は命令を受諾した……。正直うまくいくとは思ってはいないのだが。
その日のうちに俺は竹下一等陸佐と連絡を取り、数日後にアポをとる事ができた。そしてアポの当日、俺は初めて竹下一等陸佐と会ったあの部屋で再び彼と対峙した。
「久しぶりだねチヌ。君やまるゆの活躍は耳にしている。特に深海棲艦を鹵獲したという知らせは大きかったよ。おかげで我々陸も少しは海に対して胸を張れるようになった」
「ハッ。お言葉有難うございます。これもあの鎮守府への派遣を決定された竹下一等陸佐のおかげでございます」
このやり取りを皮切りに、俺と竹下一等陸佐は多少の世間話をする。そして頃合いを見て竹下一等陸佐が話を切り出した。
「さて、まさか私に褒めてもらうために今日来たわけでもあるまい。電話では私に願い事があるとの事であったが、内容を聞かせてもらえるかな」
「ハッ。実は……」
俺が現状を説明し、資材を鎮守府に回してもらえないかを打診すると、竹下一等陸佐は非常に渋い表情を浮かべて俺を見てきた。
「なるほどな……確かに、艦娘の練度や士気を維持できないのは問題だし、功績を考えれば君の願いを無下にしたいとは思わん」
「それでは」
「だが、知ってのとおり、今現在我々陸に回される予算や人材はとても限られている、勿論資材もだ。深海棲艦が跋扈する世の中だ、それもまた仕方がない。だが、これ以上その資材が減るとなればもはや現状の活動すら更に縮小せねばならん。そうなれば国内における他国のスパイや深海棲艦を心棒するカルト共の検挙も満足に行えなくなる。陸の治安を預かる者の一人としてそのような状況を良しとはできんのだ」
竹下一等陸佐の言葉に俺は心の中で溜息をつく。当然だ、バイオ燃料や核のおかげでなんとかエネルギー確保はできているが、それでもかつての化石燃料を海経由で大量に輸入できていたころとは違う。国内で使えるエネルギー資源は限られており、その中で艦娘を初めとした海関係に多くを費やしそれ以外を削るのは極当然の事だ。そこから更に融通してくれと言ってはいそうですかとできれば苦労はしない。
「……だが、それでも融通するとなれば、一つ方法がある」
「!? なんでしょうか、それは」
竹下一等陸佐の言葉に俺は自然と体が前のめりになる。
「実は近々、ある国のスパイ共が深海棲艦を信仰するカルト共を扇動する集会を開くという情報を入手した。大方、この国を内部から崩壊させ、その混乱に乗じて艦娘を奪おうとでもしているのだろう。まったくばかげた話ではあるが、ちょうどいい機会でもある。そいつらを検挙できれば、長い間とは言えないがしばらくの間そちらの鎮守府に多少の資材を融通する余裕はできるだろう」
「そこで、君には奴らを検挙するための作戦に参加してほしい。君が手柄を立てれば他の連中を説得する材料にもなるだろう……どうだ、受けるかね?」
竹下一等陸佐の提案に、俺は拒否をする理由はまったくなかった。
「私がお力になれるのであれば、全力を持って参加させて頂きます」
そう言って俺は竹下一等陸佐に敬礼する。それを見た一等陸佐も同じように敬礼してくださった。