竹下一等陸佐との会談を終え、鎮守府に戻った俺はすぐに提督に事の次第を報告し、陸の作戦に参加する許可を得た。不知火や黒潮たちにも事情を説明し、仕事の引継ぎを終えた俺は竹下一等陸佐の元を再び訪れた。
そして検挙の予定の日までの間、俺は今の陸軍における訓練を受ける事となった。戦車である俺にとっては人間向けの訓練の大半は水準を遥かに上回る数値を出す事はできたが、チーム訓練ではやはり足を引っ張るところが多く、結局訓練のほとんどをそこで費やす事となった。
そして訓練を終えてから三日後、俺は部隊の者達と共に装甲車に乗って現場に向かう事となった。メンバーと共に装甲車に乗りこんだ俺は、揺れる車内で奇妙な感覚に陥っていた。
(戦車である俺が装甲車に乗って、人間のチームメンバーと共に外国のスパイの検挙……海軍に所属する事になったのも奇妙な事だが、今のこの状況も、考えてみればおかしなことだ……)
「どうかしたのか?」
不意にメンバーの一人が俺に声をかけてきた。いかん、気が集中できてないな。
「いや、なんでもない」
俺が短く返事すると、声をかけたメンバーが肩をすくめた。
「ま、あんたの普段の戦場とは勝手が違うだろうが、あんたの本分はこっちだろ、頼むからヘマはしてくれるなよ」
「ああ、わかっている」
まぁ、本分とはいえ、今回が初実戦ではあるんだが、そうも言ってはいられない。俺のミスが結果としてどう悪い方向に転ぶかもわからないんだ、気を引き締めなければな。
そうこうしている内に、車が止まった。どうやら目的地に到着したようだ。
「目的地に到着した。これより作戦行動を開始する」
その言葉に俺達は即座に車を降りる。降りた俺達の視界に入ったのはうっそうとした木々、そして目の前にある古い建物であった。元々は研究所として使われていたらしく、4階建ての地上部分に、地下も3階まであるらしいという事はブリーフィングで聞いていたが。
「行くぞ、チヌ」
メンバーの一人に声をかけられ、俺はメンバーに混じって建物に近づく。そしてメンバーが手際よく入り口を指向性の爆薬で爆破し、突入するのについていく。その途中で見張りと思しき人物を幾度か発見したが、そのたびに手際よく処理されていく。
「情報では地下3階で集会をしてるみたいだからな。こんなザコに構ってる時間はないぜ」
メンバーの一人が倒れ伏す見張りを横にどけながら言う。まぁ、それもそうだろう。こんな木端を相手にしている暇はない。そういうわけで、俺もメンバーと共に足を進め、目的地に到着した。
「さて、ここが集会をやってる広間だ。手筈通り、一気に突入して連中を取り押さえるぞ……何を準備しているかわからないからな」
先頭の言葉に全員が頷く。そう、今回俺が参加する事になった大きな理由の一つがこれだ。外国のスパイである連中はともすれば重火器や生物兵器すら持ち込んでいるのだという。事実、それらの情報に乏しかったころは幾人もの殉職者を生んだらしい。
「3……2……1……GO!」
隊長の合図と共に、俺達は扉を突き破り中に突入する。中には高台の上でマイクをもつ白人たちと、それを見ている観客たち数十人が、驚きの視線でこちらを見ていた。
「動くな! 陸軍の命令により、お前たちを拘束する! 投降するものは床に寝て頭に手を乗せろ! それ以外の者は銃殺とする!」
その言葉に観客たちが慌てて地面に伏せる。だが、一部の観客と、高台の白人たちは懐から拳銃やサブマシンガンを取り出して、こちらに狙いをつけてきた。
「撃て!」
短い命令の後、連中よりも先に俺達は銃を撃つ。だが、観客たちならともかく、距離が遠い白人たちのほうへは流石にうまく命中させる事ができない。そうしている内に白人たちも俺達に応射しながら後ろに下がっていく。
「チヌ!」
「了解!」
メンバーの呼びかけに答え、俺が先頭を走る。たまに白人たちの弾丸が当たるが、戦車である俺には当然そんな豆鉄砲など効果はない。
「逃がすか!」
先頭を走りつつ、銃撃を加える俺の後ろから、更に数人のメンバーが銃撃を続ける。それによって白人の内何人かが倒れたが、生き残りたちは後ろのドアから奥へ逃げ込む。
「追うぞ!」
メンバーの言葉に頷き、俺が先頭でドアを開ける。そして、驚きに目を見開いた。
「! 下がれ!」
ドアを開けた俺の目の前に飛んできたのは、白人が投げた手りゅう弾であった。咄嗟にメンバーに怒鳴ると、俺は扉を閉める。その途端、轟音と共に手りゅう弾が破裂し、扉を破壊し、扉の残骸と手りゅう弾の破片が俺に襲い掛かる。が、俺はその中を突き進んだ。元々の俺であればキャタピラに損傷したりしてたかもしれないが、明石の元で何回も改良を加えられている今の俺にはこの程度の爆発ではダメージは受けない。そこに、慢心があったと気づいたのは数時間後だが……。
「! しま!」
爆風を突破した俺の目の前に次に飛んできたのは、数発のロケットランチャーの弾頭であった。まさか、こんなものまで用意しているとは……。
頭で考えるよりも早く、俺は回避……はしなかった。両腕を広げ、ロケットランチャーの弾を全てもろに食らう。そして、流石にそれには耐えられず、俺は意識を失った。