「う……ぐ……」
俺が目を覚ますと、そこは見覚えのある車内であった。俺の声に気づいたのか、メンバー達が俺に視線を向ける。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな……グ……」
返答はしたが、痛みに顔が歪むのを感じる。体を改めてみると、両腕は簡易ギプスで覆われ、上半身も下半身も至るところに包帯が巻かれている。
「おとなしくしてろよ。重症なんだから、病院につくまで安静にしてろ」
「ああ、そうさせてもらう……作戦はどうなったんだ?」
「作戦なら成功だ。首謀者及び他の構成員の確保、および相手方の書類の確保にも成功した。これで今後もやりやすくなる……。お前が先陣切ってくれてなければてこずっていただろうな。感謝する」
そう告げるメンバーに、俺は充実感を感じずにはいられなかった。これまで鎮守府でやってきた作戦ではお荷物になってばかりだったからな……。
そして作戦成功から数日後、俺は鎮守府に戻ってきていた。怪我は録に治ってはいないが、どうせ入渠すれば一日もせずに治るのだからと、無理を言って戻して貰ったのだ。そして、入渠によって傷を治した俺は提督室へ足を運んでいた。
「チヌ。今回の君の活躍のおかげで陸軍から多少ながら資材を融通してもらえるようになった。感謝している」
「いえ、これもひとえに作戦を立案した陸軍本部と、私と一緒に作戦を実行したメンバーのおかげです」
俺がそう言うと、提督がなにやら苦笑いた。
「チヌ、毎回思うが、君は謙遜がすぎる。もっと胸を張ってくれ。少なくとも今回、鎮守府に資材が回るようになったのは君の存在なしではありえなかったのだからな」
「……そう……ですか」
謙遜も何も事実を言ってるだけなのだがなぁ。陸軍から見たら今の俺は単に頑丈なだけで、チーム行動に期待もできないはずだし。
「さて、今回の件で陸軍から回された資材のおかげで……まぁ、なんとか艦娘達の訓練も再開できそうだ。それでも大和が来る前の基準には及ばないが……練度の維持は十分できると思う。だが、申し訳ないがチヌの分までは……な」
「いえ、当然の事です。大和殿が他の鎮守府に異動するまでの間、私はこれまで通りの訓練と任務をこなしたいと思います」
申し訳なさそうに述べる提督に俺は当然と答えた。俺が優先されるなんてあってはならないからな。
「……すまないな、チヌ……。さて、話はここまでだ、下がっていいぞ」
「ハッ、失礼します」
提督の言葉に頷くと、俺は提督室を後にした。そして、取りあえず家に戻ろうと廊下を歩いていると。
「チヌさん」
不意に呼び止められ声のした方向を向くと、そこには大和殿の姿があった。
「大和殿、どうかされましたか?」
俺の問いに大和殿は申し訳なさそうな表情を浮かべると、突然大きく頭を下げた。
「このたびは申し訳ありませんでした!」
「や、大和殿? どうされたのですか?」
突然頭を下げられ、俺は困惑する。なんだ、あの大和殿に頭を下げられるなど、一体何があったんだ?
「提督からお聞きしました。今回私のために鎮守府の資材が少なくなり、それを解消するためにチヌさんが手を回してくださったと……本当に申し訳ありません」
……いや、そんな事で頭を下げられても困るんだが。ともかく、誰かに見られたらいらぬ誤解を招きかねない。
「大和殿、頭を上げてください。私はこの鎮守府の為となる事をしただけ。大和殿に頭を下げて頂くような事はしておりません。そもそも、貴女の練度を上げる事が最優先なのですから、当然の事をしたまでなのです」
俺がそう言うと、やっと大和殿が顔を上げて……おい待ってくれ、なんか涙目になってないか?
「……いつもそうです。皆さん、私の為にと言って色々としてくださって……それなのに私は何も返せていない。そもそも、私が建造されなければ他の船や、戦車等を作ることもできたはずなのに……」
「かつて、陸軍の方からホテルのようだと揶揄された時も、自分の不甲斐なさが情けなく思ったのに、今回もチヌさんにご迷惑をおかけして……」
ダメだ、何か変なスイッチでも入ったのか、完全にネガティブな状態になってる。まぁ、確かに彼女が建造されなければ、他に空母や重巡とかを複数作れただろうし、陸軍に回してくれてたら戦車を何両作れていたか……だが、そんなことを言えばますますネガティブになるよな……。
「大和殿」
取りあえず大和殿の両肩を掴み、大和殿に視線を合わせる。こういうときはともかく正面から言葉を重ねるしかない。と言うか、俺にはこれぐらいしか思いつかない。
「胸を張ってください。貴女は大日本帝国が建造した最大級の戦艦なのです。確かに先の大戦では貴女は活躍する事はできなかった。しかし、今は、深海棲艦を相手とする今ならば、貴女は存分に力を発揮できる。ですから、どうか胸を張ってください。貴女が弱気になったら、後に続く者達まで不安になってしまいます。微力ながら、私が今後も貴女を支えられるよう努めますから、どうか」
取りあえずそれらしいことを言って大和殿を励ましてみる。正直、こんな言葉で彼女の心に響くのか……。
「……そう……ですね。折角チヌさんに頑張っていただいたのに、弱気になってはいけませんよね」
そう言って大和殿が顔を上げ、俺を見てくる。どうやら効果があったらしい。そう思っていると、不意に大和殿が俺の胸に頭を置いて来た。
「……すみません。なんだか嬉しくて……少し、こうさせてください」
「は、え、……は、はい……」
突然の大和殿の行動に俺は心から困惑した。なんだ、どうなっているんだこの状況は? 何が起こっているんだ?
「……チ、チヌはん!? 大和はん!?」
「や、大和さん!? どうしたんですか!?」
俺が困惑している時、不意に後ろから声が聞こえた。振り向くと、そこには黒潮と榛名が驚きの表情でこっちを見ていた。それを見た俺はこれから起こることを考えて冷や汗を流す事しかできなかった。