不知火と響の二人とともに街中を歩き、彼女たちの買い物や食事に付き合う。だが、その間も俺の頭の中には今朝に見た夢の内容が残っていた。
(陸軍に見捨てられ、海軍からは必要とされず……か)
それはまさに俺にとって悪夢である。かつて置いて行かれた時と同じ……いや、それ以上となるだろう。
(……恐れているのか、口では色々言っておきながら、結局俺は見捨てられる事に怯えている……その恐怖が夢に出たのか。だが、最近の俺は鎮守府でも少しは役に立ててるはずだし、先の陸軍での作戦でも役に立てたはずだ……そのはずだ)
そう考えようとするが、あの夢の内容がそれを否定する。なんで今あんな夢を見たのかはわからない。だが、そうだ。俺はいつああなってもおかしくはないんだ。俺は戦車。海上では艦娘程の実力もなく、陸では先の大戦で使われる事がなかった遺物であり、今の陸軍の作戦行動にもついていけるかどうかすらわからないような存在。
そして、そんな俺の活躍なんて、今国のために戦っている者達、先の大戦で散っていた者達、国家復興のために働いた者達の功績に比べれば塵芥に過ぎない。そうだ、俺は所詮その程度の存在なんだ。
……なんて身勝手な気持ちなんだろうか。先の大戦で置いていかれた俺がこうやって戦えるだけでありがたいというのに、使えない兵器は捨てられて当然なのに、捨てられることに怯えるなんて……いつから俺はこんな弱い気持ちを抱いてしまうようになったのだろう、こんな弱くなってしまったのだろう。
(俺は弱い、俺は役に立たない、俺に存在価値はない、俺に生きる価値は……)
思考が同じところを回り続ける。俺自身を否定し、俺自身を拒否し、俺自身が……
「チヌ、チヌ。私の話を聞いているかい?」
不意に声をかけられ慌てて視線を動かすと、そこには不機嫌そうな顔をしている響の姿があった。
「さっきからずっと声をかけてるのに返事もしないなんて。人としてどうかと思う」
「悪い響、ちょっと考え事をしてた。それで、何の用なんだ?」
「この先のお店でちょっと買い物をしたいからついてきてほしいんだ。不知火も良いって言ってくれてる」
「そう言うわけです。行きますよチヌさん」
そう言って不知火は歩き出し、それを響が追いかけ、更に俺がそれを追いかける。いかんな、今朝の夢の事をいつまでも引き摺っていても仕方ないっていうのに。
「そ、そこの人!」
不意に後ろから声が聞こえ、俺が振り向くと、そこには老年の男性が立っていた。髪は白くなっているが、しっかりとした足取りでこちらに歩いてきている。……なんだ? 何か、見覚えが……。
「貴方は……もしかして、木村勝彦さんの親戚の方でしょうか?」
木村勝彦。その言葉に俺は目を見開く。俺の中にある戦車として作られた時の記憶、その中には俺に配属される予定であった小隊のメンバーの顔があった。そして……。
「貴方は……もしかして、藤村二等兵……!?」
そう、その記憶の中の顔の一つが、今俺の目の前に居る老人の顔立ちと重なった。
「どうしたんですかチヌさん? お知り合いなのですか?」
「でも、木村って……チヌの知ってる人なのかい?」
俺の後ろから不知火達が声をかけてきた。それを聞いたのか、老人が少し落ち着いた様子になった。
「チヌ……。では、貴方は鎮守府に配属されたという……」
「ええ。三式中戦車チヌです。貴方は……藤村二等兵の……」
俺の言葉に藤村二等兵は頷いた。
「……はい、息子の藤村純一です。しかし、父の名前と階級を知っているという事は、貴方は父が乗る予定であった、あのチヌなのですね」
「ええ……今でも忘れはしません。貴方のお父上たちと初めてお会いした時の事は」
俺達がそう会話していると、不意に不知火が俺の袖を引っ張ってきた。
「チヌさん、なにやらお知り合いのようですし、ここはどこか落ち着ける場所でお話しませんか? 私や響も聞いておきたいですし」
「そうだね。往来でいつまでも立ち止まっているのも迷惑だし、そうしないかい?」
二人に言われ、確かにその通りだと気づいた。