第52話
先日、やっと大和殿が他の鎮守府へ異動し、鎮守府の資材不足も解消された。それに伴って俺も訓練を再開できたし、当分はこのまま以前の日常を送ることができるかもしれない。
その思いはあっさりと否定されることとなった。
「……別の鎮守府の提督。ですか?」
訓練の途中で提督室に呼び出された俺は提督の言葉に首を傾げた。
「そうだ。この近辺の深海棲艦の拠点を叩くという作戦が本部より採決されたが、うちの鎮守府の戦力では足りないから、他の鎮守府より応援が来るようになった」
まぁ、この鎮守府の戦力は低いからなぁ。それも当然の処置だろ。しかし、他の鎮守府の提督や艦娘か……うまくやっていけるだろうか? まぁ、多分ほぼ関わり合いになることはないだろうが。
「その提督を迎えるのに君も加わってほしい。君は特殊な立場だからな、ちゃんと説明をしておく必要がある」
「了解しました」
まぁ、事情はわかったんだが、どうも提督の顔色は良くない。体調でも崩しているのだろうか?
俺がその理由を知ったのは、件の提督を迎えるときであった。
数日後、俺は提督、榛名、そして第一艦隊のメンバーと共に埠頭で待機していた。
「来たぞ」
不意に提督がそう言ったので、視線を沖合に向ける。すると、こちらに向かって来る一隻のクルーザー。そしてそれを囲む形で並走している艦娘達の姿も見えた。
しばらくして、クルーザーが桟橋に到着すると、中から提督服に身を包んだ女性が降りてきた。背中の半分ぐらいまで届くロングヘアーに170はあるであろう身長。それに凛々しい顔立ちをしている。痩せているという印象もないし、うちの提督より腕が立ちそうだ。
そして、その後ろに護衛していた艦娘達が整列する。一人は榛名と同じような服装をしてるから、姉妹艦なのかもしれないが……それより気になるのが別にいる。
(あれは……陸軍の服装か?)
そう、その艦娘の服装は陸軍のそれだ。背中には排膿とかも背負ってる。だが、艦娘が陸軍の恰好をする理由は……ん? そう言えば、確かまるゆとは別に一人陸軍出身の艦娘がいたはずだ。
「今作戦の為にこちらに派遣された朝野だ。今作戦が成功に終わるように全力を尽くさせてもらう」
整列を終えた朝野提督の挨拶を始めたので、俺も意識をそちらに向ける。
「こちらこそ、宜しく頼む」
そう言って、提督が朝野提督の前に行って手を差し出し、朝野提督も手を出して互いに握手をして……。
「まぁ、堅苦しいのはこの辺にしようか。久しぶりだな」
そう言って朝野提督は提督を抱きしめた。
「グエえ……ギブ! ギブ!」
あ、抱きしめられた提督が苦しさで身もだえしてる。なんだ、二人は知り合いなのか?
「飛鷹。あの二人は知り合いなのか?」
「ええ。なんでもお互いに明治から続く軍人の家系で、その頃から付き合いがあるらしいわ。だから、あの二人も幼馴染なのよ」
「なるほど」
それだけ親しい関係ならまぁ、ああいう態度にもなるんだろう。
「えーと、それで、あんたがチヌってやつなの?」
提督を解放した朝野提督が俺に視線を向けてきた。
「ハッ。三式中戦車チヌです」
俺が敬礼すると、朝野提督はジロジロと俺を見てくる。
「ふーん、あんたが敵を捕虜にしたねぇ。まぁ、いいわ。うちにも陸軍出身がいるから、仲良くしてやってくれる?」
「陸軍出身……彼女の事でしょうか?」
俺が視線を向けると、陸軍の服を着ている艦娘が敬礼してきた。
「そうよ。あの子の名前はあきつ丸。あきつ丸、挨拶しなさい」
「ハッ。自分、あきつ丸と申します。チヌ殿のお噂は伺っております。敵を鹵獲したなど、これまで誰にもできなかった事を成し遂げるとは、同じ陸軍として誇りに思っております」
「三式中戦車チヌです。貴方の事は竹下一等陸佐から伺っております。同じ陸軍出身、宜しくお願いします」
俺も敬礼して挨拶し返す。これで、今この鎮守府にはまるゆを含めて三人の陸軍出身が集まったわけか。
「まぁ、詳しい挨拶は後にしなさい。それで、私達はどこで寝泊まりすればいいかしら?」
「客室を用意している。まずは疲れをとってもらって、それから作戦会議を始めようか」
互いの提督の会話が進み、朝野提督は艦娘達を伴って鎮守府の中に入っていき、それを提督と榛名が案内していくのを見送った。