第6話
鎮守府に到着した俺は、トランクケースを持って輸送車から降りて辺りを見渡した。
「なんていうか……基地じゃぁ、ないよなぁ」
そこに広がる光景は昭和の学校。とでもいえばいいのだろうか? ともかく、基地という重々しい空気もないし、そもそもの設備が違う。見える範囲の建物はほぼ木造だし、その建物にしても校舎という印象が強い。
「貴方がチヌさんですね?」
建物を見上げている俺に声がかかった。振り返ると、そこに居たのは、なんか巫女服を改造したようなのを着ている長い黒髪の女性であった。
「私はこの鎮守府で秘書艦を勤めています金剛型三番艦榛名です。貴方を提督室に案内するよう言われています」
「お願いします」
軽く頭を下げ、俺は榛名と共に建物の中に入っていく。しかし、榛名のこの格好はなんなんだろうか? 俺は一応用意された陸軍の服を着こんでいるが、彼女の着ているのが軍服とはとても思えない。それともあれは秘書艦専用の服装なのか? だとしたらここの提督は相当な変態なのかもしれない。
そんなことを考えている内に、俺は提督室と扉に書かれている部屋の前に到着していた。
「提督、チヌさんをお連れしました」
「ああ、入ってくれ」
中から返ってきたのは思ったよりも若い声であった。それに内心で首を傾げながら、俺は榛名に続いて部屋に入る。そこに居たのは20後半か……多くても30台ぐらいの男。提督としての白い軍服に身を包んでいるという事は確かに提督なのだろうが、いかんせん若く感じる。見た目も優男に見えるが、まぁ実際深海棲艦との戦闘に出るわけでもないし、体力が必要なわけでもないんだろうか。
「三式中戦車チヌ。本日付で当鎮守府に着任しました」
そう言って、俺は陸軍式で敬礼する、海軍の敬礼? 知らんな。少なくとも何か言われるまでは陸軍式にするつもりだ。
「初めましてチヌ。私がこの鎮守府を預かる提督だ。艦娘達からは司令官ないし、提督と呼ばれているので、君にもそう呼んでほしい……まぁ、とりあえず楽にして」
「ハッ」
そう言われ、俺は敬礼から休めの体勢に入る。
「さて、君の事は聞いているが、とりあえず君の兵装を見せて欲しい」
「わかりました」
まぁ、予想できたことだから、俺は特に何も思わず兵装を出現させる。
「なるほど、確かに艦娘と同じなんだな……。榛名、君は彼のような存在を見たことはあるか?」
「いえ、私も聞いたことはありません」
「そうか……チヌ君。君はなぜ自分がそうなったかわかるかね?」
とんでもない事を聞いてくるな。
「あいにく私自身にもわかりかねます。他の事例もありませんし」
「そうだな。特に君は実物のチヌから変化したらしいとも聞いている。その点だけでも艦娘とは違うわけだしな……まぁ、それに関しては私達が今検索する事ではないか」
そりゃそうだ。そんなのはお偉いさんに任せればいい。それより俺にとって重要なのはこれから俺がどういう扱いになるかだ。
「さて、君に関しては正式に私の部隊に指揮下に入ってもらうわけだが……君はこの鎮守府がどういった役割を担っているか知っているかな?」
俺がその問いに首を横に振ると、提督が長々と説明しだした。まぁ、纏めるとこの鎮守府は練度の低い艦娘の特訓や近海での作戦を担当しているようで、他の鎮守府に比べると所属する艦娘の練度も低く、数も少ないということだそうだ。その中で榛名が所属している事のありがたさをかなり熱弁されたが、それだけ少ないという事なんだろう……多分。
「……まぁ、そういうわけでだ。君には艦娘達が出撃している時のこの鎮守府の防衛や警備をしてもらう。まぁ、ここに敵が来るなんてことはそうそうないんだが、艦娘達に不埒なことをしようとする輩が来たりするから、警備の任務のほうが主な任務になるだろう。なにせ艦娘というのは全員が魅惑的な外見だから、不埒な輩が入り込むことがある。特に榛名は艦娘の中で最も美しいと言っても過言じゃない。その榛名が不埒な輩に襲われるかもしれないと思うと不安で仕方ない」
「提督、榛名は大丈夫です。そんな不埒な輩に負けたりなんかしません」
「榛名。そうは言うが、俺は心配なんだよ。榛名がもしもそんな輩の手で汚されでもしたらと思うと……」
「提督……」
おい、俺の目の前で何をやりだしてるんだこの二人は。
「……了解しました」
咳払いをし、俺は了承の言葉を伝える。ちょっと落胆したが、まぁ妥当な任務だろうな。
「さて、この鎮守府の案内だが、榛名は私の秘書艦だからな。他の者を呼んである」
提督がそう言った時、後ろの扉がノックされた。
「ちょうどいいタイミングだな。入ってくれ」
提督がそう言うと、扉が開かれて一人の娘……まぁ、艦娘なんだろうが、入ってきた。背丈は高くないが、どこか大人びた雰囲気を感じさせる何かがある。そして服装はまぁ、榛名に比べればまともだな。
「提督、何の御用でしょうか?」
「ああ、お前にはそこのチヌに鎮守府内を案内してほしい。既に聞いていると思うが、彼は艦娘を除いて唯一深海棲艦を倒すことができるという事で、陸軍からこの鎮守府に配属されたんだ。丁重に頼むよ。チヌ、君への正式な命令書はこれだが、今日は鎮守府の案内が終わったら自由にしてくれて構わない。明日からはよろしく頼むよ」
「畏まりました。では、こちらへ」
提督に一礼すると、不知火は俺のほうを向いてきた。
「わかりました」
俺も提督たちに一礼、命令書を受け取って懐に仕舞うと、不知火と共に提督室を後にした。