艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第62話

 目を覚ますと、そこは暗闇の中であった。体を動かそうにも横たわっている状態からまったく動かない。

 

 無様な。

 

 声が聞こえ、そちらに視線を向けると、そこにいたのはチヌ……俺が見送っていった兄弟の一人が居た。

 

 無能者よ。

 

 反対側から聞こえた声に視線を向けると、そこには陸軍の服装をした人たちが立っていた。そしてそれを皮切りに、俺の周りには陸、海を問わず人、兵器が囲み、俺を見下ろす。

 

(俺は……死んだのか……?)

 

 俺の最後の記憶……ヲ級と空母の艦載機との闘い……あの時点で確かに俺は致命傷を負っていた。そして、戦闘の最中に入居施設が爆撃を食らっていたのも覚えている。

 

(明石は……皆は生き残れているのか? 俺は……少しは役に立てたのか?)

 

 死んだ事は仕方ない。だが、何の役にも立てずに死んだのであれば無念の極みだ。だが……。

 

 無能者 恥知らず 役立たず。

 

 周囲から聞こえる声が俺を責め立てる。……俺はどうやら、役に立てなかったようだ。

 

(……俺は結局、役に立てなかったのか……)

 

 周囲の声に責められ、視界が滲み、涙が零れ落ちる。俺は……戦車として、兵器として……道具として……あの時と同じように何もできずに終わってしまったのか……。

 

「ちくしょう……! ちくしょう!」

 

 悔しい。俺は、弱いなりに、役立たずなりに力を尽くしたはずだった。だが、何の役にも立てなかった! 俺に存在する意味はなかった! ただいたずらに艦娘たちの足を引っ張るだけでしかなかったのか!

 

 声をあげ、涙を流す俺を、周りは変わらず見下ろす。そして、徐々に彼らの姿が暗闇に掠れていき、俺の視界が再び暗闇に覆い隠されようとしたとき、不意に目の前に光が現れ、それは人のような形をして、俺に向かって近づいてきた。

 

「なん……だ?」

 

 そちらに視線を向けるが、未だ動かない体では涙を拭えず、ぼやけた視界のままでは人影がだれなのか判別できない。

 

「帰るんだチヌ。お前にはまだやれる事がある。俺は、俺たちは、お前を認めているんだ」

 

 人影が声をかけて俺に手を伸ばす。そして俺の意識は光の中に落ちていった。

 

 

 

「!」

 

 目を覚ました俺は勢いよく体を起こす。そこは色々な機材が置かれた薄暗い室内……恐らくは工廠の中の部屋の一つだな。なんで俺はここに?

 

 自分の体を見回すが、あの時に受けたはずの傷もなければ体を動かすのに不便もない。どころか、むしろ体から活力が溢れている。

 

「チヌさん?」

 

 声の聞こえた先に視線を向けると、そこには何かの機材を詰め込んだ箱を持っている明石が立っていた。だが、少ししてその箱を床に落とすと、俺に向かって走り出してきた。

 

「チヌさん、大丈夫なんですか!? 体……平気なんですか?」

 

 俺の服を掴んで聞いてくる明石の表情に俺は気圧される。

 

「あ、ああ。特に問題はなさそうだが……」

 

 俺の言葉を聞いて明石は大きく息を吐くと、そのまま俺に向かってしな垂れかかってきた。

 

「良かったー……本当にうまくいって良かった……」

 

「明石……その……事態を説明してくれると助かるんだが……」

 

 事態が呑み込めず、困惑する俺に気づいたのか、明石が顔を上げて説明を始めてくれた。

 

「えっとですね……チヌさん、どこまで覚えてます?」

 

「あーと……ヲ級が艦載機を飛ばしてた時だな、その後からは記憶がない」

 

「わかりました。ではそこからの説明ですね」

 

 軽く咳払いをし、明石は説明を始めてくれた。

 

「えっと……あの時ヲ級さんが艦載機で敵に攻撃したことで敵も動揺したんですよ。で、何とかヲ級さんがその隙をついて時間を稼いでくれてる間に第三艦隊が鎮守府に戻ってきたので敵は撤退。施設のほとんどが爆撃で被害を受けてしまったのでチヌさんを入渠させることもできず……最後の手段として、チヌさんを改造したんです」

 

「改造は言ってしまえば一つ上の段階へ上がることです。改造を行ったときにその時点で受けていた傷が治るのは確認されていますので、チヌさんが助かったのはそのためです」

 

「そう……だったのか、運が良かった……のか?」

 

 明石の説明を受けて俺は疑問を浮かべる。だが、それよりも次の瞬間に泣き出した明石に意識を奪われた。

 

「本当……危なかったんですよ。あれだけの重傷を受けてる状態での改造なんて私もした事ないですし……そもそも、昨日までチヌさんは改造ができなかったんですから! もし、もしもチヌさんが改造できないままだったら、そのまま死んでいたんです……死んでいたんですよ……! なんでもっと自分の命を大切にできないんですか!」

 

 そう言って泣きながら明石は俺を睨む。

 

「……心配をかけたし、手間をかけさせたのも悪いと思う。だが、俺にはあの時お前をかばわないという選択肢はなかった。絶対に、お前を死なせたくなかった。例え何度同じようなことが起きたとしても、俺はお前を庇い続ける」

 

 そう、明石に比べれば俺の存在なんて価値はないんだ、明石が死ぬことに比べればなんて軽微な損害で済むんだ。それは俺自身よくわかっている……わかっているんだ……。

 

 一瞬夢のことが脳裏をよぎり、暗い考えが浮かぶ。だが、それより意識を奪われたのが、明石の顔がみるみる赤くなっていく事であった。

 

「う……あ…… チ、チヌさん! いきなりそんなこと言わないでください!」

 

 そう言うと、明石は俺からそっぽを向いてしまった。その反応に俺はどう対応すればいいかわからず困惑してしまう。

 

「チヌさんが変な意味でそういうのを言ってるわけじゃないのはわかるんです……でも、私だって女ですから、面と向かってそんなの言われると恥ずかしいです……」

 

「あ、あーと……悪かった……」

 

 謝りはするが、明石はそっぽを向いたまま顔を向けないし、俺もどうすればいいのかわからず、なんとも微妙な空気が漂うのを感じる。

 

「明石さん、チヌさんは大丈夫なんです……」

 

 部屋の扉が開かれると不知火、まるゆ、飛鷹の三人が入ってきた。そして俺を見て、全員が目を丸くした。

 

「チ、チヌさん!? 瀕死だって聞いたのに、何してるんですか!?」

 

「明石さん……まさか、チヌさんの治療にかこつけて粉をかけておこうと?」

 

「チヌ、明石、もうちょっとね、時と状況を弁えてね……」

 

「ち、違うんです。違うんです!」

 

 三人の白い目に明石は顔を真っ赤にして否定する。まぁ、実際変な空気にはなったが何もなかったしな。

 

「別に変なことはしてない。それより……今の事態はどうなっているんだ? それにヲ級はどうなってる?」

 

 俺が話を切り替えると、飛鷹があからさまにため息をついた。

 

「……まぁ、チヌなら確かに変なことしないでしょうね。で、今の状況よね」

 

「えっとですね……敵の撃退には成功したんですが、爆撃で入居施設を含めて施設の多くが損傷を受けています。それで、他の鎮守府から、工廠での作業を得意とされる夕張さんをお呼びして応急で施設を修理してもらっています。その間は他の鎮守府から来てもらった応援の艦隊によって防衛してもらっている状態です」

 

 まるゆの説明を聞き、俺は改めて今回の被害の大きさにため息をついた。いくら訓練を基本とした鎮守府とはいえここまでやられるとはな……。

 

「そう……か。艦娘たちの被害は?」

 

「連合艦隊、支援艦隊共に小破、中破が複数。足柄さんと黒潮さん、響さんが大破しましたが、轟沈した人はいません」

 

「ただ、今は入居施設も碌に使えないから、修復は進んでないわ。明石はチヌの改造に昨日からずっとかかりっきりだったし」

 

 二人の言葉を聞いて、俺は大きく安堵の息を漏らした。轟沈を免れたのなら……死んでいないのなら本当によかった。

 

「昨日……か。まぁ、一日であの怪我が治ったんなら早いほうか」

 

「そうです! 私頑張ったんですよ! チヌさん、今度お礼ぐらいしてくだいよ」

 

「わかってる。……と言ってもお前が喜びそうな事かぁ……」

 

 困ったなぁ、命を助けてもらったわけだし十分なお礼をしたいが、何分明石の好むものはわからない。工具一式でも送ればいいのだろうか?

 

「別に急ぎませんし、ゆっくり考えてくださればいいですよ」

 

「それでいいならまぁ……」

 

 さて、どうするか。取りあえず香取か提督にでも相談するか……。

 

「ゴホンゴホン……それで……チヌさんが治ったなら明石さんにも施設の修復をお願いしたいんですけど……明石さん、チヌさんは大丈夫なんですか?」

 

 不意に不知火が咳払いをしてから明石に聞いてきた。いかんいかん、今は明石への礼の事を考えている場合じゃないな。

 

「いやぁ、正直うまくいくかどうか不安でしたけど、うまくいきましたよ! 改修を施したおかげでチヌさんの傷は全部治療できましたし、さらにパワーアップもしました!」

 

「……ということらしい。パワーアップに関しては正直実感はわかないんだが、ともかく傷は治ったみたいだ」

 

「そう……本当良かったわ。心配したんだから」

 

「ああ、心配をかけてしまってすまなかった……。ところで、ヲ級がどうなっているか知らないか?」

 

俺が聞くと四人は互いに顔を見合わせる。そして不知火が軽く頷くと、部屋の外に声をかける。すると扉の近くで待機していたのかヲ級がすぐに入ってきた。

 

「チヌ……無事でよかった。もう、傷は平気なの?」

 

「ああ、それは大丈夫みたいだ。ヲ級、助けてくれたこと感謝する」

 

 俺が頭を下げると、ヲ級は首を横に振った。

 

「私はチヌのものだから……助けるのは当然」

 

「だが……これでお前は深海棲艦を明確に裏切った事になる。今更だが……良かったのか?」

 

「確かに彼女たちを裏切ることになったのは辛いけど……貴方のものになってから覚悟はしていたから」

 

 そう言って俺を見るヲ級になんとも言えない気持ちになる。

 

「? なんかヲ級……話し方が流暢になってないか?」

 

 ふと、ヲ級の話し方が気になった。敵の襲撃を受ける前はもっとこう、片言のような感じだったはずだが。

 

「それは私も気になりました。ヲ級、いったいどうしたんですか?」

 

「私もよくわからなくて……。飛鷹の甲板を使ってからなんというか……。こっちの話し方に自然となったの」

 

 ヲ級自身もよくわかっていないのか、首を傾げている。

 

「まぁ、いいか……明石、俺はもう大丈夫なんだな? それじゃぁ、提督に復帰の報告をしにいきたいんだが」

 

「あ、それもそうですね。でも、何か体に不調があったら絶対に無理しないでくださいね。いいですか、絶対ですよ」

 

「ああ、わかってる」

 

 俺はそう返事したが、四人ともどこか信用してないのが彼女たちの視線から感じられる。

 

「……三人とも、チヌさんが無理しないかどうか見ててもらえます?」

 

「いいわよ。どうせヲ級を提督のもとに連れて行こうとも思ってたしちょうどいいわ」

 

「私もいいですよ。確かにチヌさんは心配なので」

 

「任せてください!」

 

「……まぁ、よろしく頼む」

 

 こうして俺は四人を連れて提督室に向かうことになった。

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