ヲ級の名前が決まってから1週間が経過した。結局、ヲ級の希望通り彼女の呼び方が変わらないため、鷲鷹の名前はほぼ書類上だけのものとなっている。まぁ、それで特に問題は起きてないようだから、俺が何かを言うべきではないのだろう。
「まるゆ、お茶をとってもらえるかしら?」
「あ、はい。どうぞ」
そんな事を考えながら腕立て伏せをしている中、不知火とまるゆがちゃぶ台でやり取りをしている。今日は勉強というよりは雑談をしに来てる感じだな。
「……チヌ、ただいま」
そんな中家の扉が開かれ、ヲ級が入ってきた。その後ろからは飛鷹の姿もある。取りあえず俺は腕立て伏せをやめて二人に向き直った。
「ヲ級、ここはお前の家じゃないからそれはおかしいぞ」
「……だって、ずっとここで過ごしてたんだもん。チヌも居るし」
「前半はわかるとして、後半の認識はおかしいと思うが……まぁ取り敢えず上がれ。飛鷹も上がるか? お茶ぐらいなら出せるが」
「ありがたく貰うわ。はぁ……疲れた」
家に上がった二人はちゃぶ台の近くに座るとまるゆが出したお茶を口にする。
「疲れたって……あ、そう言えば今日は飛鷹さんとヲ級さんで訓練されたんでしたっけ、どうだったんですか?」
まるゆの質問にヲ級が少し胸を張り、飛鷹が大きくため息をついた。
「……私の負けよ。それも、運が悪かったとかじゃなくて実力でよ……」
「……飛鷹に勝てた」
二人の言葉にまるゆも不知火も驚きの表情を作る。それは俺も同じだ、まだ艦娘として1か月ちょっとしか経っていないヲ級が飛鷹に勝ったなんて信じられない。
「……チヌに鹵獲された時の戦いの時から飛鷹には勝ってた。あれから飛鷹も錬度を上げて、あの頃の私より強くなってたたけど、元々の地力は私が上だったし……軽空母と正規空母の差もある」
「くぅ……確かに防御力は低いけど、それでも正規空母並の活躍はしてきたはずなのに……悔しい!」
「……飛鷹はスピードが遅いから回避に難がある。防御力はそこそこあるほうだし……無理に回避して隙を作るより、最小限の被弾で動くようにするほうがいいかも」
拳を握り悔しがる飛鷹をヲ級が慰める。これは……驚きだな。ヲ級……いや、深海棲艦にそれだけのポテンシャルが秘められているということなのか? だとすればこの先の戦いどうなるか……。
「……チヌ、チヌ」
そんな事を考えていると、ふと隣にヲ級が来ていて、俺を見ていた。
「……私頑張って飛鷹に勝った……褒めてくれると嬉しい」
「ん? あ、ああ。よくやったなヲ級、この調子で頑張ってくれ」
そう言って俺はヲ級の頭を撫でる。するとヲ級は嬉しそうに笑顔を浮かべると俺に抱き着いてきた。こうしてみると、さっきまで戦いの事を考えてたのがバカらしくなってくるな。深海棲艦が全員こうなってくれれば……いや、こういう考えはやめよう。実戦の時に迷いが生じる。あくまでヲ級が特別なだけなんだ。
「……羨ましいなぁ」
「くっ……もっと強くならないと」
「私も……頑張らないと」
そんな俺たちを見ながら三人は何かを決意してるようだが、いったい何を決意してるんだろうか? まぁ、恐らくはヲ級に負けないようにとの事なんだろう。