第66話
先日の敵の襲撃より数週間。鎮守府が受けたダメージも回復し、既に通常任務を行えるようになっていた。
そんな中、俺はある衝動を持て余していた。それは……戦闘への衝動だった。
(資材も補充できたみたいだし、そろそろ出撃ができると……いいんだがなぁ)
家で本を読みつつ俺は軽くため息をつく。明石によって改造を受けた事で俺自身強化されたらしいんだが……あれから一度も出撃することもできず、その力の確認もできていないし、俺自身から湧き上がる衝動の解消もできない。勿論状況が状況だったのだから仕方がないのだが……。
「チヌはん、なんや難しい顔しとるけどどないしたん?」
そんな事を考えていると黒潮が俺の背中にしがみつきつつ話しかけてきた。
「いや、なんでもない。黒潮こそ何か用か?」
「別になんもないで。ただチヌはんに引っ付こう思っただけや」
そう言って腕に力を込めて更に引っ付いてくる。暇なのか? そんな事を思っていると扉がノックされた。
「すみませーん、チヌさんいますか?」
「明石か? ああ、いるぞ」
声をかけると扉を開けて明石が中に入ってきた。
「お邪魔しまーす。あら、相変わらず仲良しさんですね」
「へへー、そやろー」
俺たちの様子を見た明石の言葉に黒潮は笑顔を浮かべて更に俺にしがみついてくる。
「それで、何か用なのか?」
「あ、そうそう。実はですね、チヌさんの水上バイクに武器を追加したんです! お時間あるみたいですし見に来てください!」
……そう言えば、あの水上バイクにも将来的に武装を付けたいとか最初の頃に言ってたな。
「わかった、すぐに行こう。黒潮、そう言うわけだから離れろ」
「ほいほい……あ、そうや。明石はん、うちもそれ見に行ってもええやろか?」
「勿論です!」
明石から了解を得た途端黒潮はいそいそと俺から離れて外に出る準備をする。俺も軽く身支度を整えると二人と共に工廠へ向かった。
工廠に着いた俺たちを明石は奥の作業場へ案内する。そしてそこで見たのは鎖で宙に釣り上げられている水上バイクだった、そしてその側面には二本ずつ魚雷がセットされている。
「新しい武器って……魚雷なのか?」
「はい。53cm連装魚雷を左右に装着しました。いやぁ苦労したんですよ。魚雷を装着しても全体の重量の増加を防いだりバランスが悪くなったりしないように、防御力をそのままの薄い装甲を作ったりしないといけませんでしたからね」
そう言って得意げに胸を張る明石。全身で自分はいい仕事ををしたと主張している。
「……その情熱はこれより艦娘の艤装のほうに向けるべきだと思うんだが……というかなんで魚雷なんだ。主砲はまだなんとかなったが……魚雷の事なんて俺はまったくわからないぞ」
「いやぁ、機銃じゃ流石に敵に損傷を与えるのは難しいですし、かと言って主砲を装着するにしてもチヌさんが以前使って12cm単装砲ぐらいでしたから……今のチヌさんなら14cmを装備できますから、あんまり意味はないかなぁと」
「ああ、そこは改造の恩恵だな。……で魚雷なのか?」
「はい。これなら攻撃の手段も増えますし、悪くないかなと」
確かに攻撃の手段が増えることは悪くない……悪くないんだが。
「明石、さっきも言ったが、主砲ならまだしも魚雷の扱いなんか俺はまったくわからないぞ。概要的なものぐらいは勉強したが、流石に使えと言われると……」
そこまで言ったとき、後ろから背中を叩かれる。振り向くと黒潮が俺を見上げていた。
「チヌはん、安心しーや。ここのメンバーはほとんどが魚雷使えて、香取先生もおるねんで。いくらでも練習に付きおうたるがな」
「……そう言ってくれるのはありがたいが、良いのか?」
「大丈夫や。それに例え不知火や響が見捨ててもこの黒潮はチヌはんの事見捨てたりはせーへんからな」
そう言って胸を叩く黒潮。確かにそう言ってくれると自然とありがたみを感じてしまう。……見た目とのアンバランスさは気にしないでおこう。