初日から一種間、あれから黒潮だけでなく不知火、響、暁のような比較的付き合いのある駆逐艦だけじゃなく香取や足柄、羽黒と言った巡洋、重巡のメンバーにも手伝ってもらってるが、成果は相変わらずだ。かすらせる事すらできない。
まぁ、それでも最初のころに比べればマシにはなってるだろう。というよりも流石にあれだけ訓練して何も成長できなかったら明石に魚雷を外すよう頼むつもりではあったが……。
「うわあ!」
そして今日も不知火に海面に叩き落される。なんとか浮上して水上バイクにしがみ付くが、体が疲労でうまく動かせず中々這い上がれない。
「チヌさん……大丈夫ですか? もう五十回落ちてから数を数えてませんよ」
「そんなにか……悪いな、そんなに付き合わせて」
なんとか俺を引き上げてくれた不知火に礼を言う。
「それは構いません。ただ……流石に訓練の度が過ぎています。少し控えめにされるほうがいいと思いますが」
そう言って不知火は心配そうに俺を見下ろしてくる。言いたいことはわかるんだが……。
「そうしたいんだが……折角明石が付けてくれたからな。それに魚雷が使えれば少しは役に立てるかもしれないだろ。せめて牽制にぐらい使えればないよりマシだろ」
「それはそう……ですが」
不知火が何かを言いよどむ。なんだ、何か言いにくいことでもあるのか?
「……あ、そうか。俺みたいな戦車の訓練で使う魚雷が勿体ないか。そこは失念してたな、それに不知火の時間も使わせてしまって……」
そう口にした途端、不知火に横から突き飛ばされて再び水の中に落ちる。
「ゲホッ! 不知火、何を!」
「チヌさん、その発言は看過できません。いい加減にその辺りの発言は控えてください」
そう言って俺を冷たい目で見降ろしてくる不知火。いや、こうも上達しないんじゃ無駄使いと言われても……それより……。
「ゲホッ……ああ、悪かった、悪かったから引き上げてくれ……腕が……」
水上バイクを掴んでこそいるが、力がうまく入らない。救命胴衣を着てるから水没はしないが、このままじゃ浮いてるだけで登れそうにない。
「……わかりました」
まだ冷たい目をしているが、不知火は不承不承ながら俺を引き上げてくれる。たが、引き上げられた俺はもう動く気力もなく水上バイクに倒れ伏す。
「あの……牽引したほうがいいですか?」
「……悪いが頼む……さっきので本当に体力を使い果たした……」
その言葉に不知火が少し眉間に皺を寄せるのが見えたがもう反応する気力もない。それに気づいたのか、不知火は何も言わずにそのまま水上バイクを牽引してくれた。
出撃ドックまで戻ると、ちょうど手の空いていた明石に水上バイクのことを頼んで俺は家に戻る。道中不知火が俺を支えてくれなかったら道の途中どころか出撃ドックの中で寝てたかもしれない……。その証拠に、俺は家に帰り着くとそのまま着替えも何もせずに床に倒れ伏してそのまま寝てしまったのだから。
「う……ん……」
薄ぼんやりと視界が開けていく。最初に視線に入ったのは見慣れた天井であった。
「あれ……俺は……」
体を起こすと上半身から布団がずり落ちる。確か俺は家に帰ってきて……。
「ようやく起きましたか」
左から声が聞こえたのでそちらを向くと、そこには香取の姿があった。淡々としているが……なんか怒ってないか?
「香取? なんでここに?」
「不知火さんから連絡を受けてきたんです。あの子は任務がありましたし、放っておくのは忍びないとの事なので。それより、何をやっていらっしゃるんですか、連日過剰な訓練を続けているなんて。他の子との訓練でも私の時同じようになっていたなんて」
そう言って俺を睨み付ける彼女の視線からは、俺が起きた直後に感じたものよりも怒気が込められているように感じた。
「仕方がないだろう、戦車の俺には魚雷の使い方は馴染みがなさすぎる。体が覚えるまで何度でもやらないと……とは言え、流石にこれじゃぁ他のことに支障をきたすし……そうだな、訓練の時間は減らすようにしよう」
流石に連日寝落ちする程の訓練はやめておくか。実戦でミスをやらかすほうが怖い。
「はい、そうしてください。ところで、お腹は空いてないですか? もう二○○○を過ぎてますよ」
そう言われて近くの時計を見ると確かにもう二○○○時を過ぎている。どうりで外が暗いわけだが……言われたら確かに空腹感を感じる。
「確かに……腹が減ったな。間宮で何か食べるか……。香取も起きるまで居てくれてすまなかったな、もし食事がまだなら間宮で奢らせてもらいたいんだが、構わないか?」
「ええ、遠慮なく頂かせてもらいます……ですが、チヌさんはまずお風呂に入ってください。海水を浴びたまま寝ちゃってるんですから、まずは体を洗ってくださいね」
「ああ、わかった、ちょっと待っててくれ」
香取に言われ、俺は風呂に入って体をしっかりと洗う。そして風呂から出ると香取と共に間宮で食事をとり、その後は特に何事もなく翌日を迎えることができた。