香取に怒られてから一か月。俺は時間こそ減らしはしたものの、変わらず魚雷の訓練を続けていた。俺自身最初のころに比べれば上手になっては来てると思う。少なくとも的当てなら外すことはなくなった。だが相変わらず対人訓練になるとまったく当てる事はできなかった。
「……はぁ……」
家で本を読みつつ、俺はため息を出してしまう。まさかここまでまともに運用ができないとは思わなかったな……そろそろ明石に魚雷を外すよう頼むべきか……。
「なんやチヌはん、ため息なんてついてたら幸せが逃げてしまうでー。ほれ、スマイルスマイル」
「……笑顔を浮かべられる状態ならそうするよ……」
俺の背中にしな垂れてきた黒潮が俺の顔の横から笑顔を浮かべてくる。黒潮が俺を慰めようとしてくれてるのはわかるんだが、とても笑顔を浮かべる気分にはなれなかった。なにせ一か月の訓練で未だに実戦で使えるほどの上達が見込めてないんだ。対空機銃の訓練ではもっと早い時間で実戦で使える程度には扱えてきた事を考えたら上達の遅さが際立ってくる。
そんな事を思っていると、家の扉がノックされ、不知火が中に入ってきた。
「黒潮、やっぱりここに居ましたね。探しましたよ」
「ん? なんや不知火、どうかしたんか?」
俺にしな垂れたまま黒潮が不知火に視線を向ける。それを見た不知火が僅かに眉間に皺を寄せたように見えたが、まぁ気のせいだろう。黒潮が俺にこうしてスキンシップを取ってくるのも前々からだしな。
「秋雲の着任の報告が来ました。近いうちにこの鎮守府に来るそうです」
「え、秋雲が来るんかいな。そうかー、楽しみやなー」
黒潮がそう言って嬉しそうに笑う。なんだ、知り合いなのか?
「二人とも、秋雲って言うのはどういう艦娘なんだ?」
「秋雲は私たち陽炎型の艦娘です。……と言っても当時は陽炎型と夕雲型がかなりごっちゃになっていたので、秋雲自身も夕雲型だと思っていたのですが……」
「そうやったなぁ。まぁ秋雲自身特に気にもしとらんからうちらも気兼ねのー接してるけどなぁ」
「なるほどな……まぁあの頃は戦争のせいで色々と混乱があったわけだからな。で、その秋雲がこの鎮守府に着任すると」
「はい。悪い子ではないのでチヌさんとも仲良くできると思います。チヌさんも仲良くしてやってください」
「そやでー、可愛い可愛いうちらの妹や、悪いことしたらうちが許さへんからな」
「わかってる。変なことはしないよ」
新しい艦娘か……さて、どんなのが来るのか。俺は訓練のことは一時おいて、秋雲という艦娘について考えるのであった。