翌週、俺たちを乗せた護送車は愛知に向けて出発した。流石に距離が距離なので途中で新幹線に乗る事になったが、グリーン車を一両貸し切りにしたりと中々に豪勢な手段を使って移動する。まぁ、護衛の事を考えればこれぐらいはするんだろう。そして名古屋駅で降りると再び護送車に乗り、なんとか無事に目標の鎮守府に到着した。
鎮守府に付いた提督以下、作戦に参加するメンバーは向こうの村中提督とメンバーと顔合わせ等をするために作戦室に籠った。その間俺は客室に案内されたが、驚いたこと案内してくれたのは以前うちの鎮守府に所属していた利根であった。
「久しぶりじゃなぁチヌよ。提督や榛名達も元気そうで何よりじゃ」
「ああ、久しぶりだな利根。そっちも元気そうで何よりだ。ここではうまくいけてるのか?」
「うむ。村中提督は少々厳しいところもあるが優しくもあってのう。艦隊の指揮も手馴れておるし、特に大きな問題はないぞ」
そこまで言った所で、利根が俺の座っているソファーの向かいの椅子に座り込んだ。
「ところでチヌよ……あの例のヲ級じゃが……本当に大丈夫なのか? 吾輩はどうにも心配でな」
ああ、まぁ当然の反応だよな。俺が利根の立場でも間違いなく同じ心配をする。
「信じにくいとは思うが、鷲鷹は俺や明石を助けるために鎮守府に襲撃を仕掛けてきた敵を攻撃。その時に軽空母を一体轟沈させている。それから何回か出撃してそのたびにかならず敵を轟沈させている。裏切ったりはしないはずだ」
「ふむ……そうじゃな、裏切るつもりなら絶好のチャンスを逃したわけじゃし、吾輩もあの鎮守府で一緒に何回も寝泊りをした仲じゃしな。うん、チヌの言うことを信じよう」
そう言ってくれた利根に俺は軽く息を吐いた。利根は実力のある艦娘だし、彼女が信じるのなら……と言う艦娘も居るだろう。まさか鎮守府でヲ級の監視のために家に泊まり込みをさせたのが役に立つとはな。
「ところでチヌよ。話は変わるんじゃが……お主、好きな女性はできたのか? お主の周りには大勢艦娘がおるじゃろ」
突然の利根の問いに俺は呆気にとられる。いきなりなんなんだ?
「あのなぁ、俺は戦車だぞ。戦車が船を好きになると思うか? 逆もまたしかりだ、俺にはその手の話はない」
「何を言っておる。吾輩はお主を好いているぞ」
「! ッ……ゴホッ……突然何を……」
気を取り直す為に茶を口にしたところでのこの発言に俺は思わず咽る。
「チヌよ。お主の一途に強くなろうとする姿勢、艦娘の為に色々と頑張る姿勢は実に吾輩の好みじゃ。まぁ、自分を卑下する態度は好きにはなれんが……他の艦娘もけっこうお主を好きな者はおるぞ。特に不知火や香取は間違いなくお主が好きじゃろうな」
「……それは同僚としての好きだろ、異性としての好きじゃない」
「いやいや、少なくとも吾輩はお主をそういう意味で好きじゃと思っておる。そこでじゃチヌ、吾輩とケッコンカッコカリをせぬか?」
「……ケッコンカッコカリって……あの、錬度を極めた艦娘に提督が指輪を送る事で限界を超えるというあの制度の事か? あれは提督じゃないと無理だろ」
「それがそうでもないのじゃ。あれは指輪を渡すという形をとっておるから、提督と榛名のように一人にしか指輪を渡す気がない提督もおるし、重婚という形になって揉め事になるケースもあるという。そこで、ある鎮守府が、ある艦娘とその恋仲の軍人とで試した結果、成功したという。つまり、あれは提督と艦娘でなくてもできる。ということじゃ」
……なんというか、よくわからない制度だな。上層部は何を考えてこんな制度を作ったんだろうか。本当に海軍上層部の考えはわからない。
「そう言うわけでじゃチヌよ。吾輩とケッコンカッコカリをせぬか? 先も言ったように吾輩はお主を異性として好いておる。お主も今はそういう気持ちはないのはわかっておるが、何、いずれ吾輩のことを好きにさせるのでな。まずは形からじゃ」
そう言って椅子から身を乗り出し俺の前に来る利根。突然の行動に俺の反応が遅れる。そんな俺の顔に利根が両手を近づけてきて……。
「何をしているんですか利根さん」
「利根姉さん、何をしてらっしゃるんですか?」
不意に聞こえた声の方向に視線を向けると、そこには冷たい視線をこちらに向ける不知火と筑摩の姿があった。
「ぬ! ち、筑摩……不知火……違うんじゃ、これは別にチヌに手を出そうとしたのではなく、あくまでその前段階で……」
「問答無用です。こんな行儀の悪いことをするなんて、利根姉さんにはお仕置きです」
そう言って筑摩は利根の襟首を掴むとそのまま強引に引きずっていく。
「ぬおお! やめるのじゃ筑摩、ちくまー!」
叫び声をあげる利根を引きずりつつ筑摩は部屋を出て行った。後に残ったのは不知火と俺だけだが、不知火の視線は相変わらず冷たい。
「チヌさん……利根さんに言い寄られてそんなに嬉しかったんですか?」
「そんな風に見えたのか? ……突然の事でで頭が追い付かなくて行動が遅れたんだ。しかしまぁ……告白のほうは本気じゃないだろう、流石に」
気を取り直すため、俺は再度茶に口を付ける。まったく、変に疲れてしまった。
「……そうですね、チヌさんはそういう人でしたね」
「……何がだ、不知火」
「別に何でもありません」
そう言ってそっぽを向く不知火に俺はため息が出す。
「……ところで、ここに居るって事はここの提督との顔合わせは終わったんだろう? この後はどうなるんだ?」
「それでしたら、今日は体を休めて、明日から数日の間合同訓練を行います。それが終わり次第私たちの鎮守府へ帰還。それから後日改めて作戦の遂行だそうです」
「そうなのか。それじゃぁ俺は護衛の面々と一緒に過ごしておこう。不知火はしっかり体を休めてくれ」
「あ、待ってください」
部屋を出ようとした俺を不知火が呼び止めてくる。
「提督と相談したのですが、合同訓練が終わった後に一日だけここで観光をしても大丈夫という事になりました。それで……確か藤村さんがいらっしゃる神社はここから比較的近い所にあるそうなので、一緒に行きませんか?」
不知火が御上神社の事を覚えていたことに軽く驚く。しかも、そこに行こうと誘っているのだから尚更だ。
「それはありがたいんだが……良いのか? 折角の観光の機会だぞ」
「構いません。それに、実は提督を始めとした全員がそこに行きたいと言っているんです。なんでも、御上神社に祭られている天之御影命は武神や災いや悪霊から身を守ってくださる面があるということなので今回の作戦の成功を祈っておきたいとの事なので」
「そう言えばそうだったな。確か元々は鍛冶の神で、特に戦国時代に広まったとかだったな。……明石も連れてくれば良かったかもしれないな」
鍛冶の神様だから、明石とは相性が良さそうだ。
「機会があればそうしましょう。それでは、私はこの辺で」
「ああ」
こうして不知火と別れた俺は護衛の面々の元へ向かう。しかしこんな形で御上神社に行けるとはな……世の中何があるかわからないものだ。