艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第78話

刀を受け取った後、俺たちは一度ここの鎮守府に戻り、一夜を過ごした後に元の鎮守府へ戻った。その間、不知火達がどこか余所余所しかったが、恐らくはこの刀のせいだろうと考える。俺自身、正直これを持て余している所があるのは否めなかった。

 

 そう言えばこの刀の名前は御影命之緋緋色金だと藤村さんは言ってたな。まったく、本当に俺なんかには過ぎたものだ。そんな刀は現在箪笥の中にしまわれている。普段から外に出しておくようなものでもないからな。

 

 それはさておき、今俺は竹下一等陸佐の元にいる。陸軍の要請で新たに国内で活動している新しいテロリストの検挙のための人出がほしいとの理由であり、また大和殿の時のように陸軍から力を借りる必要ができた時のためにと言うことで俺が赴くこととなったのだ。そして陸軍に出向してから一か月、先日そのテロリストの検挙も無事に終え、俺は事後処理の為に陸軍の事務所で書類を書いていた。

 

「ふぅ……これで大丈夫かな」

 

 疲れた目を擦り、俺は書類を確認する。これでここでの俺の仕事はいったん仕事は終わり、明日には鎮守府に戻ることになる。名残惜しいが仕方ないな。

 

「もうこんな時間か……」

 

 腕時計を見ると既に時刻は二○○○を指していた……どうも書類関係は時間がかかる。書き慣れていない陸軍の書類なら余計にだ。

 

「チヌ、書類のほうは書けたかね」

 

 不意に声がかけられ、そちらに視線を向けるとそこには竹下一等陸佐がいた。俺は慌てて立ち上がり敬礼する。

 

「楽にしてくれチヌ。しかし、今回も君のおかげで助かった。ありがとう」

 

「いえ、これも作戦内容とチームのメンバーのおかげです」

 

「相変わらずだな。まったく、君の謙虚さを海の上層部連中にも見習ってほしいものだ」

 

 そう言って竹下一等陸佐はため息をついた。海の上層部とはどういうことなのだろうか?

 

「竹下一等陸佐、海の上層部とはどういうことでしょうか?」

 

「ああ、連中は自分たちがこの国の支配者だ。とでも思っているのだろう、最近は軍内部どころか政治のほうにまで口を出してきているらしい。鎮守府を纏める提督の身分にある者はそうでもないんだが、それ以上の将官クラスがそういう態度をしていてるようでな。我が陸軍も対応に困っているのだ」

 

 確かに今の世界情勢を考えれば仕方ない部分もあるんだろうが……軍部の権力増大か。何もないといいんだが。

 

「幸い君のところの提督やその友人達はそういう事に興味がないのか、そういう態度は見られないのが幸いというべきか。まぁ、だからこそ君をあの鎮守府に所属させようと思ったわけだがな」

 

 俺があの鎮守府に所属するようになったのはそういう経緯もあったのか……。確かにあきつ丸殿も提督の幼馴染である朝野提督の鎮守府所属だからなぁ。

 

「さて……書類は書けているようだね。これは私のほうで処理しておこう。君はもう休みなさい」

 

「! そんな、竹下一等陸佐のお手を煩わせるようなものでは……」

 

「君は明日には鎮守府に帰る身だ。深海棲艦との戦いに備えて少しでも体を休ませておきなさい」

 

 それを言われれば何も言えない。俺は竹下一等陸佐に頭を下げ、礼を述べると、宛がわれている自室に戻り眠りについた。

 

 

 翌日、俺は鎮守府に戻ってきた。帰還の報告を提督にする時についでに俺がいない間の事を聞いたが特に大きい出来事は起きてないらしい。その事に多少の安堵を感じつつ、俺は家に戻り陸軍の軍服から海軍の軍服へ着替える。名残惜しいが仕方がない……と、そこでふと気づいた。

 

「……誰もいないな」

 

 普段なら不知火なり黒潮なり、誰かが俺の家に居たりするのだが今日はいない。それどころか鎮守府に戻ってきてからは秘書艦をしている榛名以外艦娘自体を見ていない。まさか全員が出撃や遠征をしているわけでもないが、何かしているんだろうか?

 

「……あいつらが居るのが当たり前になってたからなぁ」

 

 ここに来てからはなんだかんだであいつらと一緒にいる時間が一日の大半を占めるようになっていた。訓練では誰かが付き合ってくれたし、家にいればヲ級が大抵居たし、あいつが居なくなってからもたいてい駆逐艦の誰かは遊びにきてた。陸軍に出向しているときには感じなかったが、こうして鎮守府に戻ってから誰にも会わないと、なんとも言えないものを感じてしまう。……ここに来るまではそれが当たり前で、は何も感じなかった、感じずに済んでいたいたのに。

 

「まったく……ここに来てからどんどん弱くなってるな、俺は……あいつらが俺に好意を寄せていたのも、あくまでもあの性質のおかげだというのに」

 

 そうだ。藤村さんの仮説が正しいなら、あいつらが俺に好意を向けてきているのは俺自身を見ているものじゃないんだ。俺自身じゃなく、俺の依代に無意識のうちに惹かれているだけ……まぁ、提督と榛名は違うだろあれは。あれはもうそんなので片付けられないほどのバカップルだ。

 

「チヌさん、お帰りなさい。お待ちしていましたよ」

 

 物思いにふけっていると、家の扉が開かれ不知火が入ってきた。

 

「不知火か、ああ、戻ったよ。俺が居ない間は特に大きな事はなかったと聞いている。明日からは元通りに任務に就けれそうだ」

 

「そうですか。では今日はお時間がありますね?」

 

「ん? ああ、訓練か勉強ぐらいしかないが、どうかしたのか?」

 

「はい、実は少々やりたいことがありますので、チヌさんに是非来てほしいんです」

 

 やりたいこと? 何なのか想像つかないが、行けばまぁわかるだろう。

 

「わかった、行こう」

 

 俺は立ち上がると、そのまま不知火についていく。だが、俺たちが向かった先にあったのは艦娘の寮であった。

 

「不知火、寮で何かするのか? 俺は砲撃は食らいたくないんだが……」

 

「砲撃? 何を言ってるんですか?」

 

 俺の言葉に不知火が首を傾げる。いや、お前が言った事だろ。

 

「ここに来た初日の案内の時に言ってただろ、ヘタに入れば砲撃が飛んでくるって」

 

 それを聞いた不知火はしばらく考え込み……そして、思い出しはしたんだろうが、何か焦った表情をしだした。

 

「すみませんチヌさん。あれはその……私の冗談なんです。まさかずっと信じて……?」

 

「まぁ、あり得ない事ではないと思っていたからな。そもそも入る用事なんて何もなかったから本当でも嘘でも変わらなかったんだが」

 

 まぁ、冷静に考えればいきなり砲撃をしてくるのは流石にないよな。艦娘以外なら間違いなく大けがやないし死亡だからな。

 

「……いえ、これは不知火の落ち度ではありません。ずっとあんな冗談を信じていたチヌさんの……いやでも……」

 

「……何を言ってるのかわからないが、ともかく砲撃が飛んでこないなら入るぞ」

 

 不知火が青い顔をして何か言っているが、取りあえず俺は寮の中に入る。そしたら慌てて不知火も入ってきた。

 

「こ、こっちです。ついてきてください」

 

 不知火に先導されて俺は入り口から右の廊下を進んでいく。しばらくすると、談話室と書かれた掛札のついている扉が俺たちの前に現れた。

 

「この中です。入ってください」

 

 そう言われ俺が何か入ると、途端にクラッカーの炸裂する音が響き、クラッカーから飛び出した紙吹雪が俺に向かって落ちてくる。

 

「……は?」

 

 呆気にとられる俺の目に映るのは、色とりどりの飾り付けがされている談話室。そして、その中で俺のほうを向いている、この鎮守府所属の艦娘達だ。全員……20名近い艦娘が俺のほうを向いている。

 

「な、なんだこれ……は?」

 

「なにって、チヌさんがこの鎮守府に来てから一年が経ったお祝いですよ」

 

(……そう言えば俺がここにきて一年か……いや、でも、だからって……)

 

 未だ混乱が収まらない俺の腕を取って不知火が引っ張る。そして俺はされるがままに近くの椅子に座らされた。

 

「チヌはん、おめでとうやで」

 

「おめでとうチヌ」

 

 俺の隣に座る黒潮と響がそんな事を言ってくるが、どう対応すべきなのかわからない。こんな事、された事なんてないぞ。

 

「あら、もしかしてチヌさん緊張しているんですか? リラックスしてくださいね」

 

 そう、香取に声をかけられるが、緊張も何も、状況についていけないんだぞ。

 

「か、香取、榛名。これはどういうことだ? 俺の着任してから一年って……」

 

 取り敢えず艦娘の纏め役である二人に声をかける。

 

「あれ、チヌさん、もしかして自分が着任した日を忘れたんですか?」

 

「いや、それは覚えている。だが、だからってこんなお祝いになるような事では……」

 

「いいえ。十分お祝い事ですよ。ねぇ皆さん」

 

 榛名がそう言うと、全員が賛同の意を示す。

 

「チヌさん、よく聞いてください」

 

 香取が俺の正面に立つと、まっすぐに俺を見てくる。俺もそれに答え、彼女と視線を合わせる。

 

「私たちは最初、貴方がここに一年も居るとは思っていませんでした。貴方は陸軍の戦車、いくら深海棲艦を倒す力があるとはいえ、貴方とここは相性が悪いですから、いずれは陸軍へ異動するだろう……そう思っていたんです」

 

「でも……貴方は私たちのそんな予想を色んな意味で裏切りました。貴方は戦車でありながら海で戦うようになり、ヲ級さんを鹵獲するという艦娘の誰もできなかった事を成し、更に、私達全員が貴方が異動することを快く思わなくなりました。それどころか、貴方には絶対に残っていてほしい。そう皆思うようになったんです」

 

「香取……だがそれは……」

 

 違う、その好意は……あくまでも特性に惹かれているだけだ。……言わないと……すぐに誤解を解かないと。

 

「チヌさん、まさか……私たちの好意が、貴方の特性に惹かれてるからだけって思ってませんか?」

 

 不知火の言葉に俺は思わず彼女の顔を凝視する。知っていたのか!? いつから? 提督が話したのか?

 

「チヌ、あの時藤村さんが君と提督に目配せしたのには皆気づいてたんだよ。私達だって軍所属だ。素人の藤村さんのやることぐらいすぐに気づける」

 

「そもそも、提督が榛名を連れて行かない時点で怪しさ満点よ。だから、不知火と響に後をつけてもらったのよ」

 

 響と飛鷹の言葉に俺は言葉を失う。それじゃぁ、最初から……気づかれていたのか。

 

「いやー、しかし驚いたよねぇ。私たちとチヌにそんな関係性があったなんてさ」

 

「そうよね。確かに言われてみれば納得よねぇ。私たちの感情表現が激しいのとかも含めてね」

 

 川内と足柄がまるでなんでもない事のように話しているが……気にしていないとでもいうのか?

 

「チヌさん。貴方が陸軍へ出向している一か月の間に飛鷹さんは全員にこの事を伝えたんです。理由はわかりますか?」

 

「……俺への好意で勘違いしないためなんじゃないのか? 俺に惹かれるというのはあくまで俺と艦娘の特性によるものであって、人格的なものとかじゃないって事を……」

 

 そう言った途端、香取が俺の頭に拳骨を振り下ろし、だが、逆に香取のほうが痛がる。なんか前にもこんな事があった気がする。

 

「イタタ……。ち、違いますよチヌさん。その特性を聞いたうえで皆さんがチヌさんをどう思っているのかを考えてもらうためです」

 

「つまり、その特性を聞いたうえで貴方に好意を持っているかどうかという事です。皆さん……私も最初は戸惑いましたが、一か月という時間は考えるには十分でした」

 

 痛がる香取から引き継ぎ榛名が説明してくれる。確かに、一か月あれば困惑が収まるには十分な時間だ。

 

「それで……結論はどうなんだ?」

 

 俺の問いに榛名は変わらぬ笑顔を浮かべたまま、告げた。

 

「私たちはその特性を置いても……貴方が好きです、チヌさん。それが全員の出した結論です」

 

 その言葉に俺は呆気に取られ言葉を失った。

 

「あのなぁ、チヌはん。一年やで一年。この一年の間にうちらどんだけ一緒に過ごしたと思っとるんや」

 

「黒潮のいう通りだよ。私たちは公私をほとんど共に過ごしてきたんだよ。最初に惹かれただけでそんなに過ごせるわけがないじゃないか」

 

「チヌ、貴方はいつも一所懸命よね。戦いに備えて常に己を鍛え、仲間の為なら命だって捨てられる。プライベートの時もなんだかんだで私たちに付き合ってくれる。特別な理由なんて必要ない、一年という歳月の中で好きになったのよ」

 

「チヌさん。私達が今言っている言葉が私たちの総意です。……どうせ貴方の事ですから中途半端に伝えても変な曲解をしかねないので、こうして全員に集まってもらいました。もう一度はっきり言いますよ。私たちの貴方への好意は、貴方と私たちの特性によるものだけじゃない。いや、そんな特性以上なんです。理解してください、曲解したり難しく考えたりしないでください。素直に受け取ってください」

 

 黒潮、響、飛鷹の三人の言葉に続き、不知火が一際多くの言葉を並べてくる。俺はそれに圧倒されるしかなかった。

 

「……で、チヌ。返事は? 理解した? できたの? 私たちの好意は、貴方の特性とは別にちゃんとあるって事。理解できたの?」

 

「あ、ああ……わかっ……た」

 

 飛鷹が俺のすぐ目の前に顔を持ってきて睨んでくる。俺はその勢いに押され、頷くしかなかった。

 

 それから俺は皆から改めて俺の就任一年経過を祝うパーティーに参加することになった。皆が俺の事を祝ってくれている。こんな……置いていかれただけの時代の遺物を。俺は……こんな歓迎を受けていい物じゃないのに。だが、彼女たちの気持ちは先ほどハッキリと伝えられた。いくら俺でも流石にあれを否定する事はできない。……例えその好意がどういう種類のものなのかはわからなくても、少なくとも彼女たちが俺の特性ではなく、俺自身を見てそう言ってくれてるんだと言う事だけはハッキリと伝わったのだから。……あ、榛名だけは間違いなく同僚としての好意だな、それだけは間違いようがない。

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