第81話
その日、俺は用事があって不知火と共に工廠に居た。だが、俺たちの他にも先着がいた。暁、提督、榛名の三人である。三人とも心配そうに工廠の奥を見ている。
「もうすぐ響の改造も終わるのね。どうなるのかしら」
そう言ってウロウロとしているのは暁であった。かなり落ち着かない様子だが、改造?
「不知火、俺は改造については詳しくないんだが、今回は何かあるのか?」
「はい。普段の改造と違って、今回の響の改造は、響からヴェールヌイへの改造となります。ですから暁も心配でしょうし、提督も様子を見に来ているんでしょう」
ヴェールヌイ……確か、ソ連に賠償艦として連れていかれた響の向こうでの名前だったな。と言うことは……もしかしたら響としての人格や記憶に何か影響が出るかもしれないということなのだろうか?
「ん? チヌに不知火か。どうしたんだ二人とも?」
俺たちの存在に気付いたのか、提督が声をかけてくる。
「明石に頼みたいことがあって来たのですが……、響をヴェールヌイに改造ですか。そんなに心配するような内容なのですか?」
「明石は大丈夫だと言ってはいたんだが何分心配でな、様子を見に来たんだよ」
「そうですか……何もなければ良いんですが」
そうやって話しているうちに工廠の奥から人の気配がした。俺たちがそちらを向くと、そこにはツナギを着ている明石と、彼女の後ろについてくる響……いや、ヴェールヌイの姿があった。
(服装と……多少雰囲気が変わった感じだな)
響の時に比べるとヴェールヌイは服装と、そしてどこか大人びた雰囲気に変わっていた。
「響、体大丈夫? 私の事わかる?」
一目散に暁が駆け寄りヴェールヌイの前に立つ。それを見たヴェールヌイは穏やかな笑みを浮かべながら暁を見つめ返した。
「大丈夫だよ暁。何もおかしくはなっていないさ」
そこで俺たちに気づいたのか、ヴェールヌイの視線がこちらに向く。
「提督に榛名に不知火、チヌ。皆そんなに心配だったのかい?」
「えー、私そんなに信用ないんですか? 酷いですよ」
そう言って明石は微かに頬を膨らませる。いかんな、変な誤解をされてる。
「いや、俺と不知火は別件で用事があってきたんだ。決して明石を信用してないとかそういうのじゃない」
「あ、そうなんですか? いやぁごめんなさい勘違いしちゃって」
俺が誤解を解いている間に会話が終わったのかヴェールヌイと暁がこっちに来た。
「チヌ、不知火、どうかな、変なところない?」
そう言って自分の服を撮んだりするヴェールヌイ。特におかしいところは見受けられないな。
「大丈夫ですよ響、よく似合ってます」
「そうだな、特に変なところはないぞヴェールヌイ」
俺がヴェールヌイと発言したとたん、暁が俺を睨んできた。
「違うでしょチヌ。響は響よ!」
そう言って響を抱きしめる暁。突然の態度に思わず俺は呆気にとられた。
「いや暁、私は一応ヴェールヌイに改造されたわけで……」
「ヴェールヌイでもなんでも響は響でしょ。さ、行きましょう」
そう言ってヴェールヌイの腕を引っ張る暁。それを止めようとして……不意に、俺の視界でヴェールヌイからぶれるように響の姿が見えた。
(え?)
驚き目をこすり再度見てみるが、そこに響の姿はなく、そうこうしている内に暁はヴェールヌイを連れて工廠を出て行ってしまった。
「暁ちゃん、心配なんでしょうか? 響ちゃんの事」
「そうだろうな、響からヴェールヌイになってしまうんじゃないかって心配してたみたいだし。まぁ、あの様子なら響は元のままだから心配ないだろう」
提督と榛名がそんなことを言っているのを聞く限り、どうやら二人にはぶれた響は見えていなかったのか? それじゃぁ、あれは単なる気のせい?
「チヌさん? 何をボーっとしているんですか?」
不知火に声をかけられて慌てて俺は気を取り直す。そうだ、用事をこなさないと。
さっきの光景はきっと単なる気のせいだ。俺はそう思うことにして明石に要件を伝えることにしたのだった。