響がヴェールヌイになった翌日、不知火と共に訓練を終えた俺はそのまま一緒に間宮で昼食をとっていた。俺はざるそば定食、不知火は少々辛目のカレーを食べている。
「前から思っていたんですけど、チヌさんってお蕎麦が好きなんですか? よく食べてるのを見る気がするんですが」
「まぁ好きなほうだな。特に理由はないが、取りあえず迷ったらこれでいいか。って感じではあるが」
そんな事を話していると食堂の扉を開けて暁とヴェールヌイが入ってくるのが見えた。二人も俺たちに気づいたのかこっちに近づいてくる。
「あら、チヌに不知火じゃない。二人とも昼食?」
「ああ。さっき訓練を終えたところでな。そっちは?」
「私たちは出撃の帰りだよ。ヴェールヌイになった事でどれだけ強くなったかを確認するためだったんだけど……」
そこまで言ったところでヴェールヌイが口を閉ざした。
「? どうかしたんですか?」
「ああ、ごめん……どうも調子が悪くてね、戦闘でも大した戦果を挙げることができなかったんだ」
「大丈夫よ響。改造してすぐだから本調子が出てなかっただけよ。響はやればできる子なんだから」
そう言ってヴェールヌイの頭を撫でる暁。だがその瞬間、俺は昨日見たようにヴェールヌイからブレるように響の姿が一瞬見えた。
「!?」
それを見た俺は三人に視線をやるが……三人のやり取りに変化はない。あれは、やはり俺にしか見えていないのか?
「チヌさん? どうかしたんですか?」
「あ、いや、なんでもない……そうだ、ヴェールヌイには改造まで行けたお祝いをしていなかった。今手元にあるのはこんなものしかないが、これでいいか?」
そう言って俺は以前間宮の仕事を手伝ったときにお礼にと貰った特製甘味チケットを二枚取り出してヴェールヌイに手渡す。
「こんなものって……これ、特別な時にしか買えない特別なチケットじゃないか。しかも二枚も。いいのかい、こんなの貰っても?」
「俺が持ったままでいても仕方ないからな。いらないなら別のにするが」
「いらないわけがないじゃないか。暁、今日のおやつはこれで決定だね」
「え、いいの? だってそれは響が貰ったものでしょ」
後ろから羨ましそうに見ていた暁はそう言って断ろうとするが、ヴェールヌイは小さく首を横に振った。
「折角二枚あるんだから一緒に食べるほうがいいじゃないか。それとも暁は私と一緒に食べるのが嫌なの?」
「そんなわけないじゃない! ありがとう響!」
そんなやり取りをしつつ二人は俺たちから別れて昼食を注文しにいった。相変わらず仲はいいな、あの二人は。
「……チヌさん。私もあのチケット欲しいです」
ふと前を見ると、不知火も羨ましそうに俺を見てきた。俺はあんまり甘味は食べないが……艦娘、特に駆逐艦やまるゆはやけに好んでるな。
「手に入れたらな……ところで不知火。ヴェールヌイを見ていて何かおかしなところとか、変に感じた事とかってないか?」
突然の質問に不知火は大きく首を傾げる。まぁそうだよな。
「なんですか突然? 私が見ている限りでは響に特におかしなところはないですが……そう言えばチヌさんって今でも響の事をヴェールヌイって呼ぶんですね」
「ん? まぁヴェールヌイに改造したわけだからな。ヲ級みたいに嫌がってるわけでもなさそうだし、暁も最初の時は怒ったが、今では容認してるようだしな」
「それはまぁそうなんですが……多分鎮守府の皆は響で呼び続けると思いますよ。そっちのほうが呼び慣れてますし」
まぁ、そうだろうな。それに……ヴェールヌイという名前はロシア語。賠償艦として連れていかれた響に与えられた名前だ。嫌なものを感じるのが居ても仕方ないことだが。
「本人が嫌がるようならやめるよ。もしそういうのを感じたら伝えてくれ」
「……わかりました」
そこから俺たちは食事を再開した。しかし……なんなんだろうか、あのブレた響は。単なる俺の気のせいならいいんだが……。