艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第84話

あの訓練から一か月が過ぎた。俺はどうにもヴェールヌイの事が心配でならなかった。というのも、あれ以降も彼女の不調は続いていたからだ。

 

 海戦に出ても以前の……響の時に比べて戦果は下がり、被弾率も上昇し、彼女の中破大破が原因で撤退するケースも少なくない。俺も何回か一緒に出撃しているが、明らかに精彩を欠いている。

 

 それどころか鎮守府での日常生活にも支障が出ていた。香取の話では授業中にもボーッとしている事が多くなっているらしいし、鎮守府の中で見るときにも調子が悪そうにしている事が多々あった。そのせいか最近は暁が付きっ切りになっている。

 

 だが俺は更に気になることがあった。それは依然としてヴェールヌイからブレるように響の姿が見えることだ。最初の頃はそうでもなかったんだが、最近はかなり頻繁に見る。特に暁と一緒にいるときになるとより多く見るようになった。

 

 そして気になるのは、俺以外の誰もそれに気づかないことだ。艦娘はおろか、提督や軍人のような人間、工廠の妖精、ヲ級に至るまで誰も見ていないという。ここまでくると俺の気のせいだと思いたいが、それにしては頻度が多すぎる。もしかして俺が異常なのだろうかとも最近は考えそうになるが……。

 

 そんな中、今日はヴェールヌイ、暁、足柄、と共に近海へと出撃することになった。本来のヴェールヌイの錬度ならもっと別の海域に出撃するんだが、最近の様子を鑑みるととても別の海域に行かせられないという。

 

「艦隊、出撃!」

 

 足柄の号令と共に俺たちは出撃する。既に俺も幾度となく通ったルートだから行軍は問題ないはずだが……既にヴェールヌイが遅れ始めている。なんとか一回目の偵察機発艦ポイントまで到着はしたが……。

 

「響、大丈夫?」

 

「うん……平気だよ」

 

 暁の心配そうな問にそう答えるヴェールヌイの表情は明らかに悪い。戦闘に入る前からこれじゃ流石にまずくないか?

 

「足柄、ヴェールヌイの体調が悪そうだ。撤退はできないか? いくらこの辺の敵は強くないとはいえ、万が一もありえる」

 

「そうね……思った以上に悪そうね。ここは……」

 

「いや、大丈夫だよ……私はやれるから……」

 

 足柄が転進を口に出そうとするがとうのヴェールヌイが否定する。とても大丈夫そうではないんだが。

 

「いや、ヴェールヌイ本当に大丈夫なのか? 無理はせず撤退したほうが……」

 

「ハハ……最近はそれが続いてるからね……流石に毎回私のせいで撤退させるのも申し訳ないよ」

 

 そう言って乾いた笑みを浮かべるヴェールヌイ。その笑みからは生気を感じられず、ただでさえ白い肌と相まってもはや病人にしか見えない。

 

「……偵察機より報告よ。重巡一隻に駆逐艦三隻の小規模艦隊を発見。今ならまだ後退できるけど……」

 

「大丈夫……やれるから……」

 

 ヴェールヌイの言葉にしばし悩む足柄。そして結論を告げた。

 

「何かあればすぐに撤退よ。まぁ、この近海の敵なら私一人でも十分だから、暁は響をしっかり見てあげてね」

 

「勿論よ! 一人前のレディに任せなさい!」

 

 勇ましく返答する暁に頷くと足柄は出発し、俺たちもそれに続く。確かにこの近海の敵なら足柄一人でも問題はないんだが……何事もなければいいんだが。

 

 そんなことを考えつつ進んでいくと、やがて遠方に足柄が言っていた敵小艦隊を補足した。

 

「砲雷撃よーい! 始め!」

 

 足柄の声を合図に三人が魚雷を発射する。二本の魚雷はそれぞれに敵に命中したが、一本……ヴェールヌイのだけが外れる。

 

 それを気にする暇もなく互いの主砲から発射された弾が飛び交う。本来なら余裕なのだが、やはりヴェールヌイのフォローもあって攻めきれない。

 

「きゃあ!」

 

 敵の放った魚雷が暁に命中し爆発を起こす。幸い大した損傷じゃないようだが、その隙に敵の砲撃が暁に集中してヴェールヌイから離される。

 

 そして敵の攻撃をヴェールヌイが避けようとした時。

 

「響!」

 

 暁の声が響いた瞬間、今までよりも大きくヴェールヌイからブレた響の姿が見えた。その瞬間、動きが止まったヴェールヌイに敵の主砲の弾が直撃し、大きな煙を上げた

 

「ヴェールヌイ!」

 

 それを見た瞬間、俺は全力でヴェールヌイの元へ向かう。そして煙が晴れる中で見たのは、たった一撃で艤装を大きくやられたヴェールヌイの姿であった。

 

「クソ! ……掴まれ!」

 

 俺はヴェールヌイの近くに来ると問答無用でヴェールヌイを抱え上げて俺の前に座らせる。

 

「足柄! 俺は回避に専念する。敵の撃退は任せられるか?」

 

「勿論よ。さぁ、響を傷つけた事、後悔させてあげるわ!」

 

「そうよ! あんたたちなんか全員沈めてやる!」

 

 ヴェールヌイを傷つけられた怒りか、二人は一気呵成に敵を殲滅させてく。これならそっちは問題ないか、問題は……。

 

「ヴェールヌイ、大丈夫か?」

 

 俺の前に座らせたヴェールヌイの様子を見るが、もう俺の言葉に返答する余裕もなさそうだ。青白い顔で苦痛に表情を歪めている。

 

 しばらくして二人が敵を殲滅させたのを確認し、俺たちは急ぎ鎮守府へ戻った。

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