艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第87話

翌日、午前の見回りを終えた俺が昼食を取りに間宮へ向かうと、そこには朝の出撃や任務を終えた艦娘が食事を取っている姿があった。その中には暁とヴェールヌイの姿もある。

 

「あ、チヌ。こっちに来て一緒に食べないかい?」

 

「ああ、構わない、ちょっと待っていてくれ」

 

 そう言うと、俺は受付でサンマ定食を用意してもらい、それを受け取ってから二人の前に座る。

 

「あれからどうなんだ? 体のほうは大丈夫なのか?」

 

「うん、何人かにはもう話してあるし、後は徐々に浸透していくのを待つだけだよ」

 

「これで響も大丈夫よね」

 

 そう言って嬉しそうに笑うヴェールヌイの姿に暁も安心したような表情を浮かべていた。

 

「そうか、なら良かった」

 

 俺はそう言うと食事に手を付け始める。だが、ふとヴェールヌイの顔を見てみると、何か言いたそうな感じでモジモジしていた。

 

「ヴェールヌイ、どうかしたか?」

 

「あ、ああ……チヌには昨日とてもお世話になったから……お礼を……したいんだ……」

 

「お礼? 別に構わん。困ってる仲間の相談に乗るなんて普通のことだろ」

 

「うん、チヌはそう言うと思っていたよ。だけど、それじゃ私の気が済まないんだ。どうかお礼をさせてほしい」

 

 ……まぁ、その気持ちはわかるが。

 

「それじゃ有り難く頂くとするが……どうするつもりなんだ?」

 

「ん……チヌ、ちょっと顔を近づけてくれないか?」

 

 ヴェールヌイの意図はわからないがとりあえず身を乗り出して顔を近づける。その瞬間、ヴェールヌイは俺の頬に顔を近づけ。

 

「ひ、響!?」

 

 俺が止める暇もなく、俺の頬にキスをした。それを見た暁が驚きの声を上げている。

 

「……まだ唇は恥ずかしいから……これがお礼。前からチヌの事が好きではあったけど……昨日の件でもっと好きになったから……」

 

 俺から離れ、顔を真っ赤にしてそっぽを向くヴェールヌイ、かくいう俺も突然の事に反応ができず固まってしまった。

 

「どもー、青葉です。青葉、見ちゃいましたし聞いちゃいましたよ」

 

「あ、青葉!?」

 

 突然後ろから青葉が声をかけてきて慌てて後ろを振り向く。いったいいつの間に後ろに居た!?

 

「いやー、チヌさんがまさか響さんとそういう関係になるとは……今まで不知火さんやヲ級とそうなるんじゃないかと噂になっていましたがまさかねぇ。お二人はいつからそんな熱々な関係になったんですか?」

 

「おい待て青葉。誤解だ誤解。これは……」

 

「関係が一気に進んだのは昨日だよ。昨日私はチヌに認められて、互いに抱き合って……」

 

 そう言って顔を赤くしながら横を向くヴェールヌイ。おいこら、間違ってはないが曲解しろと言ってるようなもんだろやめろ。

 

「……チヌはん……まじかいな」

 

 ふと青葉の後ろから黒潮が出てきたが、顔色が青ざめている。

 

「不知火ならまだあり得るかもと思っとったけど、響が先を越すなんて……予想外すぎるで……」

 

「おい黒潮、いったい何を考えてるか知らないがこれは……」

 

 と言ったところで不意に黒潮が俺の顔面を両手で挟んでそのまま顔を近づけ来ようとしたので咄嗟にガードする。

 

「なにガードすんねんチヌはん! 響とキスしたならウチとキスしてもえーやろ! ウチかてチヌはんの事が好きやねんで!」

 

「ヴェールヌイのキスは頬だったし、あれは単なる礼だ! 恋愛的な意味はない!」

 

「そんな……酷いよチヌ……昨日はあんなに愛してくれたのに……」

 

「ヴェールヌイ! しれっと嘘をつくな!」

 

「あわわ……響が……響が大人の階段を……」

 

 混乱するやり取りの中、更に周りにいた艦娘まで加わってきて、俺は事情を説明するのに苦労する羽目になった。

 

 

 

 

結局あれから多数の艦娘に事情を説明する事になったのでヴェールヌイの事情は一気に全体に伝わった。まぁそれは悪いことではないんだが、おかげで一部からロリコンと渾名をつけられた。真にもって遺憾である。

 

「……チヌ、怒ってる?」

 

「逆に聞くが、怒っていないと思ってるのか?」

 

 騒ぎを片付けた俺は家でようやく一息ついていたが、その後ろからヴェールヌイが申し訳なさそうに声をかけてくる。そう思うなら最初からするな。

 

「ごめん……でも嬉しかったんだ……だからつい……」

 

「……お前の気持ちが嫌いとかじゃない。だがな、時と場所を弁えろ。おかげで俺はロリコン呼ばわりだぞ……まったくもって遺憾だ」

 

 まったく……非常に不名誉な渾名だ。そもそもヴェールヌイもそういう意味でのキスをしたわけじゃないんだから、まったく。

 

「取り敢えずお前はもう他に行っておけ。また青葉らへんに騒がれるのは勘弁願いたい」

 

「うん、わかったよ。今日はおとなしく引き下がろう」

 

 そう言うとヴェールヌイは家を出ようと玄関に向かい、そして扉を開けて出ようとした時、俺のほうを向いてきた。

 

「チヌ、本当に……本当にありがとう」

 

 そう言うと、そのまま俺の返事も待たずに彼女は家を出て行った。まぁ、不名誉な渾名をつけられてしまったが、彼女が元気になったことだし良しとするか……。そう思うことにしておこう。


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