艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第89話

そんな事があったからか、俺は何かと酒匂に気を遣うようになり、しばらくして彼女は別の鎮守府に異動となった。なんでも彼女の姉が全員揃っている鎮守府らしく、これで姉妹全員が揃うらしい。その事を話す彼女はとても良い笑顔を浮かべていた。だから俺も残念な気持ちはあったが、気持ちよく彼女を送り出すことができた。姉妹で一緒か……羨ましいものだと、その時の俺は思った。だが……それからしばらくして俺は戦争の悲しさを今更ながらに味わうことになった。

 

「行方不明……? 酒匂が戦闘中に行方不明に!?」

 

 提督室で聞かされた言葉を、俺は信じられなかった。

 

「ああ。酒匂が着任した鎮守府の提督……あのクソッタレ野郎の作戦がまずかったらしい。作戦は失敗。酒匂は殿を務め、そして行方不明になったらしい」

 

「! 酒匂の最後の確認場所は!? すぐに捜索しないと……今の海上で行方不明などと!」

 

「ダメだ。酒匂が行方不明になった海域はここから相当な遠方になる。俺達が捜索の手を伸ばすには遠すぎる。二次遭難を起こすだけだ」

 

「! ……では自分だけでも! 私なら居なくなっても戦力上の影響はないに等しいです。どうか許可を!」

 

「……ダメだ、許可はできない」

 

 提督の言葉を聞いた俺は、身を翻して部屋から出るために歩き出す。こうなったら独断専行でもなんでもいい。処罰は受ける。だが、酒匂は放っておけない。

 

「いいかチヌ、独断行動を起こそうものなら、それは陸軍の竹下一等陸佐にも迷惑がかかることになるぞ!」

 

 その言葉に俺は体が止まってしまった。クッ……だが……!

 

「チヌ。向こうの鎮守府には酒匂の姉達が居るんだ。彼女たちなら文字通り死にもの狂いで捜索にかかるはずだ。……だから、今は彼女たちを信じて待っていろ」

 

「ッ! ……了解……しまし……た」

 

 辛うじて声を絞り出した俺は、振り向くことなく提督室を後にし、そのまま……人気のない倉庫の裏手に足を運んだ。……ここなら誰の目にもつかないな。

 

「……クソッ!」

 

 俺は近くにあった岩に思いきり右手の拳を振り下ろした。……ダメだ、こんなやり場のない怒りを抱えたままじゃ……だが、……だが!

 

「! チヌさん! 何をしているんですか!?」

 

 不意に右腕を捕まれた。視線を向けると、そこに居たのは不知火だった。

 

「不知火……? なんで……ここに?」

 

「チヌさんが凄い形相で歩いていたから追いかけてきたんです。それよりどうしたんですか? こんな……手が血だらけじゃないですか」

 

 そう言われて手を見てみると、岩を砕いた事では何もなかったが、握りしめていた両手の平に爪が深く食い込んだんだろう、その血が流れていた。

 

「……大丈夫だ、大した傷じゃない……医務室で処置しておけば問題ない」

 

 俺がそう言うと、不知火は俺の手を取って傷を見てきた。

 

「……そうみたいですね。では、一体何があったんですか? チヌさんがあんな形相で歩いているなんて……八つ当たりしてるなんて。何もないわけがないですよね」

 

 ……どうせ提督から連絡ぐらい入るかもしれない……隠しても意味はないか。

 

「……酒匂が戦闘中に行方不明になったらしい。その海域が遠くてここからは捜索は行えないと言われた」

 

 俺の言葉を聞いた不知火が一瞬息を飲むのがわかった。

 

「そう……ですか……。向こうの鎮守府からの捜索はどうなっていますか?」

 

「阿賀野型が捜索しているらしい……。だが……今の海で戦闘中に行方不明になるということは……」

 

「……そうですね。生存はほぼ不可能……でしょう。運よく無人島か何かに身を潜められればいいのですが……」

 

 俺たちの間に沈黙が流れる。……こんな時、俺は何と言えばいいんだろうか。不知火を安心させるような事を言えばいいのか? ……俺自身が何も安心できていないのに。さっきの八つ当たりを見られているのに。

 

「……チヌさん。ともかく傷を処置しましょう。このまま放っていても仕方ありません」

 

 そう言って俺の手を取り歩き出す不知火。それに引っ張られながら、俺の口からは言葉が零れ落ちていた。

 

「……不知火……俺は情けないな……先の大戦で多くの兄弟達を失ったのに……また……こんな気持ちになる……なんて……こんな感情……持っていても……」

 

 そうだ。俺は兄を、弟を、同じチヌ達を、親戚たちを失った。なのに……なんで今もこうして気持ちに流されてしまっているんだ……情けない。本当に……情けない。

 

「……チヌさん。その気持ちを捨ててはダメです。それを捨てる事は……ダメな事なんです」

 

 いつの間にか俺の両手を握り、俺を見上げる不知火。その表情はまるで泣きそうな……そんな表情を見た俺は、何も言えずただ頷くことしかできなかった。

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