艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第91話

あの後俺とヲ級は榛名を旗艦とした不知火、黒潮、俺、ヲ級、足柄による第一艦隊として出撃。更に、残りの艦娘が支援艦隊として編成され、残りの艦娘が万が一のための鎮守府防衛に残ることとなった。そして今、俺は刀を背負いつつ水上バイクで海上を走っている。情報ではこの海路の先に酒匂が居るらしいが……。

 

「……チヌ、緊張してる?」

 

「……当たり前だ。これからの俺の行動で酒匂が助けられるかどうかがかかっているんだ……。緊張しないわけがないだろ」

 

 ヲ級の問いに返答する。だが、言葉に出すと一層、体が緊張するのがわかる。ハンドルを握る手に無意識のうちに力が篭り、呼吸のたびに喉の渇きを感じる。俺がしくじれば酒匂がどうなるか……。

 

「大丈夫ですよチヌさん。私達が全力でサポートします。ですから、チヌさんは自分を信じて行動してください」

 

「……ああ、頼む」

 

 横を並走している不知火の言葉に俺は頷く。緊張が解けたわけではないが……そうだ、こんな有様じゃ助けられるものも助けられない。気をしっかりしないと。

 

「! 皆さん、前方を!」

 

 榛名の言葉に俺達は前を改めて見る。すると……居た。遠目でまだハッキリとしたものは見えないが、深海棲艦がこちらに向かってきている。

 

「いよいよやでチヌはん。気張っていくで」

 

「救出戦なんて初めてよね。でも燃えるわ。さぁ行くわよ!」

 

 黒潮、足柄の言葉に背中を押されるかのように、俺達は深海棲艦に向かう。向こうもこちらに気づいたのだろう、こちらに向かってきている。

 

「榛名、支援艦隊からの援護は?」

 

「もうすぐです……支援艦隊より砲撃を開始したとの連絡が!」

 

 榛名の言葉を合図にするかの如く、俺たちと離れた場所を航行していた支援艦隊からの砲撃が敵に降り注ぐ。流石に距離があるからそんなに着弾しているわけではないが……それでも敵の駆逐艦が何体か沈んで行っている。よし、これで多少楽になったな。

 

「主砲、砲撃始め!」

 

 再度聞こえる榛名の声。今度こそそれを合図に俺達の、深海棲艦の主砲から放たれる砲撃が飛び交う。幸いというべきなのは敵の錬度がそこまで高くないのか、多少なりとこちらに余裕がある戦いになってる事だろう。

 

「……行って!」

 

 現に今も俺の後ろから発艦されていくヲ級の艦載機が次々に敵の艦載機を撃墜、更に敵艦隊に爆撃を浴びせている。……こいつが味方になってくれて本当に良かった。これなら……!

 

「……チヌ! あそこ!」

 

 ヲ級の指さした方向を見た俺は確認した。酒匂の姿を……。その姿はあの写真で見た通りの、深海棲艦の艤装に身を包んだ姿だった。

 

「酒匂!」

 

 思わず叫んだ俺の声が聞こえたのか……酒匂はこちらを向いたと思うと、その主砲を向け、容赦なく撃ち放つ!

 

「クッ!」

 

 咄嗟に回避した俺の後を追うように酒匂の攻撃が放たれる。その砲弾が海に着弾するたびに大きな水柱が上がり俺の体を濡らす。だが、躱せる。なんとか避ける事ができる。

 

(攻撃の正確性が落ちてる。深海棲艦になった影響か? だが、これならチャンスだ)

 

 俺の知っている彼女なら、既に俺に命中させていただろう。だが、今の彼女の攻撃にはその正確性はない。だが、一撃でも当たれば致命傷になる。それに周りの深海棲艦達も、いつの間にか酒匂の近くに集まってきている。もしも集中攻撃を食らえばどうしようもない。ならば。

 

「ヲ級! 援護を頼む!」

 

「……うん」

 

 ヲ級の艦載機が周りの深海棲艦を蹴散らし、俺に道を開けてくれる。そして俺は酒匂の攻撃を掻い潜り、そして……。

 

「うおおお!」

 

 俺は水上バイクから飛び出すと、そのまま酒匂を勢いのまま海面に倒し、その上に馬乗りになる。以前、ヲ級に対してやったのと同じ状態だ。この状態なら、酒匂も自爆の可能性があるから主砲は打てないし、魚雷も意味はなさない。そして酒匂の腕力や技術ならこの状態の俺をどうにかする事はできない。

 

「! ……!」

 

 俺を見上げる酒匂が何かを叫ぶ。それは俺には理解できない言語だったが。だが……俺には助けを求めているような、そんな気がした。

 

「酒匂……今、助けるからな!」

 

 背中に背負う刀を抜き、俺は酒匂の目を覆う艤装に突き刺した。硬い金属を貫くような感触が伝わり、刃先が食い込む。……すると、そこを中心に艤装が……刺しているものだけじゃない、主砲も、魚雷も、他の全ての艤装にヒビが入っていき、そして音を立てて崩れ、海中に沈んでいった。

 

「チヌ……さ……ん……?」

 

 崩れた艤装から現れた酒匂の顔。それは俺のよく知っている彼女の顔であり、その瞳から流れる涙が、彼女が元のままであるということを如実に物語っていた。俺はそれに安堵の息を漏らし、刀を鞘に仕舞う。

 

「酒匂……助けに来た。戻ろう、俺達の鎮守府へ」

 

「う……あ……うああああああ! チヌさん! チヌさん!」

 

 俺の言葉に酒匂の目から更に涙が溢れたと思うと、彼女はそのまま俺に抱き着いてきた。おい待て。この戦闘中にそれはマズイし、落ちる、落ちる!

 

「さ、酒匂! 落ち着け! このままじゃ敵の良い的に……!」

 

「大丈夫やでぇチヌはん。もう敵は撃退しとるで」

 

「成功したんですね。酒匂さん……戻ってこられたんですね」

 

 聞こえてきた声に振り向くと、そこには黒潮と不知火が誇らしげな顔をして立っており、周りには深海棲艦の影も形も存在していなかった。

 

「ふっ、この私にかかればあれぐらい何ともないわね。さぁ、凱旋するわよ!」

 

「お帰りなさい酒匂さん。さぁ帰りましょう、鎮守府へ」

 

 更にその後ろから榛名と足柄も現れて酒匂の手を取る。そして酒匂は立とうとして……動きが止まった。

 

「ピャッ……チヌさんどうしよう」

 

「……悪い、誰か水上バイクを探してくれないか? あれがないと……」

 

「……大丈夫。回収してきた」

 

 そう言ってヲ級がいつも何か水上バイクを回収してくれていたので急いでそれに乗る。そして酒匂は榛名達の手を借りて立ち上がると……なぜかそのまま俺の水上バイクに乗り込んで俺の背中にしがみついてきた。

 

「……いや、酒匂。なんでこれに乗る?」

 

「ピャァ……だって凄い疲れてるんだもん。ねぇチヌさん。乗せてちょうだい。ちょうだい」

 

 そう言われればどうしようもない。彼女が消耗しているのは確かだ。だが、だからと言って一番弱い俺に背負われたままでは俺の巻き添えでやられる可能性もある。

 

「……榛名、足柄。問題はないか?」

 

「ええ。大丈夫です。もし敵が出ても私達で撃退してみせます」

 

「私達を舐めてもらっちゃ困るわ。ここまでやったんだもの。最後までキッチリ終わらせるわよ」

 

「なんやチヌはん。そない心配いらんで。ウチらがちゃんと護衛するからな」

 

「ここまで来て失敗なんてしません。どうぞご心配なく」

 

「……大丈夫」

 

「……わかった。頼むぞ」

 

 榛名と足柄だけでなく三人にまで言われては仕方がない。俺はそのまま酒匂を乗せたまま、皆と共に帰路に就く。背中から伝わる彼女の存在が、俺にこの任務が成功したのだと、改めて実感させてくれた。

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