酒匂を連れ帰った翌日。俺は酒匂と共に家で過ごしていた。彼女を連れ帰った後、彼女は入渠し、明石にチェックしてもらったが特に異常はなかった。だが、彼女はどう言うわけか一人で居るのを嫌い、あれから俺の家で一泊することになった。今も彼女は寮の、以前彼女が使っていた部屋へ戻ろうとせず俺と一緒にいる。
「なぁ、酒匂。なんでまだ俺と一緒にいるんだ? ……深海棲艦に捕らえられていて、一人でいるのが怖いというのはわかるが、ここに居るより寮で誰かの部屋にでもいるほうがいいだろ」
「……迷惑だったらごめんなさい。でも、今はチヌさんと一緒に居たいから。お願い、今は一緒にいさせてほしいの」
そう言って彼女は俺から離れようとしない。理由を聞いてもこの有様で教えてくれる様子もないし……。どうするかな。
そんな事を考えながら過ごしていると、俺と酒匂に提督室への出頭が命じられた。それに応じて二人で提督室の前に到着し、扉をノックしようとしたとき、中から怒号が聞こえてきた。
「ふざけんじゃねえぞ! 酒匂を返還しろだ!? お前の作戦ミスで彼女は危うく死ぬところだったんだぞ!」
そんな言葉を皮切りに、中から怒号が断続的に聞こえてくる。最初の声だけがかなりでかかったのか、後の言葉は断片的にしか聞こえてこないが……恐らくは酒匂の所属している鎮守府の提督だろう。だが、平和とは程遠いやり取りだ。
しばらくして怒号が止んだのを確認すると、俺は扉をノックする。そして榛名がどうぞと言ったので入ったが。
「ともかく、酒匂はこちらに所属させる! お前の所に所属させて轟沈させるような真似なんかできるか!」
執務机の上にある固定電話に全力の怒鳴り声と共に受話器を叩き付ける提督の姿と、それを困った顔で眺める榛名の姿があった。まだやってたのか。
「まったく……ああ、チヌ、酒匂。みっともない所を見せてしまった」
「ぴゃっ……それより提督さん……もしかしてさっきの電話って……」
「ああ。酒匂が所属していた鎮守府との連絡だよ」
それは話の内容でわかっていた。だが、どうにも穏やかとはとても言えそうにない会話の内容だったな。……だが、当然だ。
「提督、ある程度の話は聞こえていましたが、酒匂に関しては、こちらに所属させるということでよろしいのでしょうか?」
「当然だ。あの野郎、言うに事欠いて酒匂が行方不明になったのは酒匂の責任であり、彼女に処罰を下すためにも早期に返還しろと抜かしやがった。艦娘を道具と勘違いしてんじゃないぞあんの野郎!」
「ぴゃっ!」
提督の怒号を聞いた酒匂が俺の後ろに隠れる。完全に怯えてるな。
「……提督、酒匂が怯えています。どうか落ち着いてください」
「……ああ、そうだな、すまない酒匂」
酒匂の様子に気づき、提督は大きく息を吐いた。少しは落ち着いてくれただろう。
「さっきも言ったが、君は今後この鎮守府に正式に所属することになる。と言うか絶対にそうさせる。阿賀野型の姉妹と離れ離れになる事には心苦しいと思うが……。私には君をあの鎮守府へ戻すという判断を下すことはできない」
「……いえ、大丈夫です。確かに皆と離れるのは辛いけど……あたしはあそこよりここが良いから。だから……宜しくお願いします」
そう言って頭を下げる酒匂。そして頭を上げたときに横から見えたその表情は、何かを決意したような、そんな引き締まった表情であった。