演習を終えたあたしは艤装を明石さんに返却した後、チヌさんと一緒に家で本を読んでる。はぁ……落ち着くなぁ。
本を読みながらチヌさんを横目で見てみるけど、彼はあたしの視線に気づかずそのまま本を読んでる。
(はぁ……やっぱり前の鎮守府よりここのほうがお家って感じがするなぁ)
あたしが派遣された先はお世辞にも良い場所とは言えなかった。阿賀野姉や能代姉や矢矧ちゃん。姉妹揃う事ができたのはとても嬉しかった。でも、あの提督は怖かった。私を道具としてしか見てないような……そんな感じだった。
そしてあの戦い。提督の無理な命令のせいで艦隊は危機に陥って、そして届いた作戦は私を殿とした撤退戦。矢矧ちゃん達を危険に晒したくなんてなかったから了解したけど……とても怖かった。怖い中戦って、深海棲艦の砲弾を受けて……そのまま沈んでいったのを覚えてる。
でも、気付いたら私は海の上に居た。まるで自分が自分じゃないような、そんなフワフワとした意識の中で私は動いていた。後から聞いた話だと、阿賀野姉達とも戦闘をしていたみたい……よく覚えてないけど。
そんな中、私の中にあったのは……帰りたいという気持ちだけだった。ただ、帰りたい……その気持ちのまま動いて……そしてチヌさん達と戦ってた。必死の形相で私に向かってくるチヌさんを見た時、あたしは叫んでいたのをよく覚えてるよ……助けてって、叫んでたんだ。
それでチヌさんの刀が目の装甲を貫いて……それであたしは元に戻れた。元に戻ったあたしはただ嬉しくて、チヌさんに抱き着いていて。それで皆と一緒に鎮守府に帰った。見慣れた鎮守府の建物を見た時、あたしは本当に帰ってこれたんだと思って……チヌさんの背中に顔を埋めて泣いちゃった。
それから阿賀野姉達が来てくれたけど……、あたしはこっちに残る事を伝えた。それは勿論ここの提督さんがそういう風にしてくれたと言うのがあるけど……あたしにとって帰る場所はここなんだよ。あの怖い提督が居る鎮守府じゃなくて、皆が暖かく迎えてくれるここが、あたしの帰る場所なんだ。それに……。
「……酒匂、さっきから俺のほうを見てないか? 何か用事があるなら言ってくれるほうがいいんだが」
「ん~? ないよ~、チヌさん見てたいだけだから気にしないで」
チヌさんにそう返すと、彼は困惑した表情を浮かべて、また本を読み始める。その一挙一動を見ているけど、飽きることがない。
(……ヲ級さんは、チヌさんに鹵獲された影響でこんな考えになってるんだろうって言ってたけど……それだけじゃないよぉ)
元々、チヌさんには親しみを感じていた。同じ、戦いに行けなかった身として。でも、今はそれ以上、あの戦いでチヌさんに助けてもらってから、その気持ちは先に進んでいって……。
(……チヌさん、恋人とか居ないから、あたしにも可能性あるよね)
彼にそう言う関係の人が居ないのは知っている。でも、それを狙ってる人が多いのも知ってる。……他所の鎮守府だと提督さんが複数の艦娘に恋をしたりされたりってあるみたいだけど、ここの提督さんは榛名さん一筋だし。
(あたし、絶対に負けないからね)
チヌさんの顔を見ながら、あたしは心の中で宣言した。