艦これの世界で三式中戦車が人となったら   作:雨宮季弥99

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第十七章
第95話


 最近この鎮守府も人の賑わいが多くなってきた。理由は簡単だ、戦力拡大を掲げた事によってここに留まる艦娘が増えたことだ。秋雲や酒匂と言った新しい仲間も居れば、ビスマルクとローのように他所から戻ってきた艦娘も居る。そんな中、更に新しい艦娘を迎えることになった。

 

「……それで、今度迎えることになったのは……ソ連艦なのですか?」

 

「そうだ。名はガングート。戦艦だ」

 

 提督室でその話を聞かされた俺は……正直困った。なにせ前回ビスマルクとローが着任した時、俺のせいで一悶着があったんだ。今回もそうならないとは限らない。しかも、相手はソ連……終戦の間際には敵となった国であり、ヴェールヌイを初めとしてソ連に賠償艦として連れていかれた艦は何人か居る。そこに複雑な気持ちがないとは言えないだろう……。

 

「チヌ、今回はソ連……かつての敵国の戦艦だ。君は、大丈夫か?」

 

「私は問題ありません。確かにノモンハンのように、ソ連によって陸軍が攻撃され、日本人や兄達が死にましたが……それは向こうも同じであり、少なくともガンクート殿に対して何かを思うこともありません」

 

 それは正直な気持ちだった。俺が何かを思うとすればそれは当時陸軍と直接戦った向こうの陸軍に対してになるし……そんな感情をぶつけて嫌な空気にしたところでなんの利益もない。

 

「そうか……だが、何か思うところがあれば言ってくれ。チヌはそういう気持ちを押し殺す傾向にあるようだからな」

 

「……承知しました」

 

 押し殺すも何も、俺のせいでロシアと関係悪化になるような事は俺自身が嫌なんだが……。とは言え、ビスマルクとの事もある。注意しないとな……。

 

 

 

 

提督からそんな話を聞かされてから数日後、俺達はガングートを迎えた。前にビスマルクとローを迎えたときと同じように広間に集められ、壇上でガンクートが挨拶をする流れとなった。

 

「日本の艦娘の諸君。私がガングートだ。宜しく頼むぞ」

 

 壇上に上がったのは……銀色と言えばいいのかな。そんな色のロングヘアーの女性。ビスマルクの時のように強い軍人としての気質がはっきりと見える。喋り方も明朗ではっきりとしているし……今のところ態度に問題はなさそうだがさて、どうなるか……。

 

 ガングートが軽い自己紹介を終えた後、こちらからも挨拶が行われる。……さて、ヴェールヌイとビスマルク、ローがどう反応するか……。

 

「初めましてだね、ガングート。私がヴェールヌイだよ」

 

「ふむ、お前が同志ヴェールヌイか。ソ連では会うことがなかったが、同志が居るのは心強いな、宜しく頼む」

 

 ……ヴェールヌイはまず問題なさそうだな。ガングートの顔にも他の艦娘に挨拶をしたときにはなかった笑みが浮かんでいる。暁も、ヴェールヌイと呼ぶことに対して許容してるし……前の騒ぎがなければここで一悶着あったかもしれなかったが、この様子ならこっちは大丈夫か。さて……次はビスマルクとローか。流石にビスマルクも喧嘩を売るような真似はしないと思うが……。

 

「初めましてガングート。私の名前はビスマルクよ」

 

「ほう……まさか、日本でドイツの艦娘と挨拶する事になるとは思わなかったぞ」

 

「それは私も同じよ……。安心なさい、わざわざ他国で問題を起こすほど私も馬鹿じゃないわ。大戦のときの遺恨はお互い、いったん置いておきましょう」

 

「……ふ。喧嘩を売られれば買わねばと思っていたが、理性的な判断をしてもらえて何よりだ。宜しく頼むぞ戦艦ビスマルク」

 

 ビスマルクから差し出された手を取る形で握手をする二人。その後ローとも同じように握手したし……こっちも問題はなさそうか。さて……いよいよ俺か。

 

「三式中戦車チヌです。宜しくお願いします」

 

 そう言って握手を求めたが……ガングートは訝しげな表情を浮かべたまま提督に視線を向けた。

 

「提督よ。これは何の冗談だ? 男がいるのがおかしいと思っていたが、戦車だと言ってくるとは思わなかったぞ」

 

「冗談ではないさ。彼は三式中戦車チヌ。れっきとしたこの鎮守府の所属であり、大切な仲間だ」

 

 ガングートの問いに提督が真正面から答える。それで冗談ではないと判断したのだろうが……。反応はやはり予想通りだった。

 

「ふ、あの日本海軍が戦車を使わなければならないほど人手不足だとは思わなかったぞ。それに……日本の戦車なぞ使えると言うのか? ノモンハンではわが赤軍相手に一方的に叩かれただけの軟弱な日本陸軍。そこが作った戦車など、ただの鉄屑よりましという程度ではないか」

 

 ……俺はともかく大日本帝国陸軍をバカにされるのは流石に来るものがあるが……。ここで俺が暴発するわけにはいかない。

 

「ガングート」

 

 そんな中、不意にヴェールヌイがガングートに近づく。そうだな、彼女ならやんわりとガングートに意見もできるだろう。

 

「ん? どうした同志ヴェールヌイ」

 

「ガングート。今日……いや、たった今から、君を私は同志とは認めない。以上だ」

 

 ……俺は今何を聞いた? ヴェールヌイの口から発せられた言葉はなんだ? ……認めない?

 

「な! ヴェールヌイ!? それはいったいどういう!」

 

「それじゃぁ失礼するよ」

 

 動揺するガングートを他所にヴェールヌイは素早く壇上から降りて広場から出ていく。それを慌ててガングートが追っていき……後に残された俺たちは呆然とするしかなかった。

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