……結局、あの後ヴェールヌイはガングートから逃げおおせたようで、広間に戻ってきたガングートを榛名が鎮守府の案内連れて行ったが……彼女は目に見えて消沈していた。まぁ……正直同情はしにくいんだが。
そしてそれから数日の間、彼女はヴェールヌイと方々で鬼ごっこを繰り返すのだが、地の利がヴェールヌイにあるせいでまったく捕まえることができていない。おまけにヴェールヌイの小柄な体格のせいであっちこっちに隠れられて見失うっている姿もしばしば見られた。……そして。
「ヴェールヌイ! 開けてくれ、ヴェールヌイ!」
今、ガングートは俺の家の戸を叩きながらヴェールヌイを呼んでいる。それを俺と、遊びに来ていたビスマルク、ローが辟易しながら聞き流し……呼ばれている当のヴェールヌイですらそうしている。
「……ヴェールヌイ、いい加減、ガングートに対応したらどうだ?」
「嫌だね。彼女からの謝罪があるまで私は今のままだよ」
「……彼女、それに気づくのかしらね?」
「うーん、ウルサイよぉ」
ローがしかめっ面をするが仕方ないだろう。突然ヴェールヌイが家に入ってきて鍵をかけたと思ったら外からガングートがしつこく呼びかけてくるんだからな。
「……だからと言ってこれは色々問題だぞ。鍵開けてくるからな」
俺はそう言って立ち上がり、鍵を開けると、途端にガングートが俺を押しのけて家に入ってくる……靴は脱いでほしかったんだが。
「ヴェールヌイ! どこだ!」
部屋に入った彼女は中を見渡す……って、ヴェールヌイどこ行った? さっきまで居たよな。
「彼女なら裏口から出て行ったわよ。と言うか靴脱ぎなさいよ、汚いわね」
「くっ……また逃げられたのか……」
ビスマルクの言葉を無視して悔しがるガングートの姿にビスマルクもローも眉間に皺を寄せる。……本当、どうすればいいんだろうか。
「おい、貴様。そこの戦車。よくもヴェールヌイを逃がしてくれたな」
突然肩を掴まれたと思うと、そのままガングートのほうを向かされて胸倉を掴まれる。どうやら俺がヴェールヌイを逃がしたと思われてるようだな。
「誤解です、ガングート殿。私は彼女を逃がしていません」
「そうよ、むしろチヌはヴェールヌイに会せようとして家の戸を開けたのよ」
「そうですよ、チヌさんは悪くありません」
ビスマルクとローの言葉にガングートは僅かに舌打ちしたと思うと俺から手を放した。
「まったく、ここに来てから碌な事がない。そもそも、貴様のような鉄屑がいる鎮守府に来たのが悪かったんだ」
ヴェールヌイに逃げられて機嫌が悪いんだろう。彼女はなおも俺に悪態をついてくる。さて、どうするか……早いところヴェールヌイを説得しないと、彼女が何か問題を起こしかねないな。
「ガングート」
そう思っていると、不意に家の窓からヴェールヌイの声が聞こえた。そっちに向くと、そこには家の外から覗き込んでいるヴェールヌイの姿があった。どこか行ったと思ったが、まだ居たのか。
「ヴェールヌイ!」
その姿を認めた途端、ガングートがヴェールヌイに近づくが、彼女からの一言がその動きを止めた。
「ガングート。今から君は私の敵だと認定した。覚悟しておくように」
「な、なんだ……と!?」
ガングートが呆然としている間にヴェールヌイがまたどこかへ行ってしまい、しばらくしてガングートは覚束ない足取りで家から出て行った。
「……どうすればいいんだあれは?」
ガングートが立ち去ってから、俺は思わずビスマルクとローに尋ねる。まぁ、当然二人も首を横に振るだけだったが。