セイボリーのヤドンが倒れ、セイボリーが次のポケモンを出す様子はなく驚愕している。つまり、俺とワンパチの勝利が確定した。セイボリーがヤドンをボールに戻したところで、俺はワンパチへと駆け寄る。ワンパチはフラフラになりながらも、俺が近づいてきたのが分かると嬉しそうにする。
「どうだ、ワンパチ? 」
「イヌヌワン! 」
ワンパチにバッグから取り出した傷薬を使い、調子を聞いてみると元気な返事が返ってきた。凄まじい効果だな。傷薬はスプレー式で、傷口にかけるとあっという間に傷が塞がった。これって人間にも使えるのかな?
「ありえぬ…… いや、アリ・エーヌ! いったいどんなトリックを……!? これほどの強者が道場に降臨なぞされましたら、ワタクシの存在がドわすれされてしまうのでは……!? 追いかえしたいですが、エスコートせよと言われてますし……」
セイボリーの方は、何かブツブツ言っている。負けたのが相当ショックなのかな。まぁ、相当プライド高そうだったし、初めてポケモンバトルする奴に負けたらショックか。
「……コホン! あなた、なかなかスジが良いですね。このワタクシに3パーセントの力をも出させましたよ。しかし、あなた程度の実力で道場の修行をやっていくのは難しいかと…… です・から! むこうにたたずむマスター道場は素通りし! 観光オンリーでお帰りを! …………こちらを差し上げますので」
急に喋り出したと思ったら、いきなりこっちの手を取って何かを握らせてきた。何なんだいったい。
「それは『おしゃれカード』といって、ブティックやヘアサロンで見せれば、ワタクシのようにエレガントなコーディネートを目指せるでしょう」
「そんなコーディネートは目指したくないです」
「というわけで.さようなら、二度と会わない人! セイボリー テレポート!! 」
テレポートと言いつつ走るのか……というか、おしゃれカードなぞ使わないのだが。あんな奇抜なコーディネートはしたくないし目指したくもない。気持ちをそのまま伝えてもまるで届いていなかったみたいだが。それに、勝手に入門生になれと言ったと思ったら、今度は観光だけして帰れとは。自分勝手がすぎる。いちいち言われずとも観光する予定だったわ。…………とりあえず、ワンパチをボールに戻す。
「でも、チャンピオンも学んでいたってのは気になるんだよなぁ」
チャンピオンが修行してた場所なら、ジムリーダーがいるかもしれないし。もしかすると推薦状をもらえる可能性もあり得そうなんだよね。あ、そうだ。ロトムに聞いてみよう。
「ロトム、聞きたいことがあるんだが」
『どうしたロ? 』
俺がそう言うと、ズボンのポケットからロトムが出てきた。
「マスター道場について何か情報はないか?」
『わかったロ、ちょっと検索してみるロト……………………出たロ! マスター道場はヨロイ島の一礼野原にある施設で、元ガラルチャンピオンであるマスタードが主と師範を務める道場らしいロト』
「元チャンピオンが運営してるのか。なら、上手くいけばその元チャンピオンから推薦状をもらえるかもしれないな」
『なるほど、そういう考えがあったロト! 』
「だろ? ジムチャレンジができそうならやってみたいからな。チャンスがあるなら挑戦したい」
『良い心意気だと思うロ』
「そっか。じゃあ、さっそく道場に行くか!」
マスター道場という施設に行くために、道を進む。
道中、浜辺で寝転がってるたくさんのヤドンたちと一緒にボーっとしたり、草むらから出てきたミミロップやクレッフィと戯れたりゲットしたり、道場っぽい建物がある場所につながる橋の前でディグダと一緒にいたおっさんに逃げ出したディグダを見つけて欲しいと頼まれたりした。え? ディグダに150匹近くも逃げられたってヤバくない? というかどうやって150匹も連れてたんだ。俺みたいに容量不明のバッグにボールを入れてたのかな? 150個も…………まぁ、気が向いたら探してあげようかと思う。
橋を渡り、道場の前まで来た。すると、道場の入り口付近で話している人が見えた。一人は女性で、もう一人はセイボリーだった。
「あら~、それじゃ新人ちゃん帰っちゃったの? 」
「そのようです…………。ワタクシのエスコートはパーフェクトでしたが、ポケモン勝負の後、忽然といなくなってしまい…………」
「せっかく家族が増えると思ってたのに残念ねぇ」
どうやら、俺がポケモン勝負のあと勝手に帰ったと説明しているみたいだ。その説明ができるなら、最初から正直に逃げられたと報告すればいいものを.
「あら? 」
セイボリーと話していた女性がこちらの存在に気づいた。そして、女性と話していたセイボリーも俺の存在に気づいたのか「おゲェッ!? 」などという凄い声を上げながら変顔をする。セイボリーのリアクションが予想外過ぎて、思わず吹き出すところだった。あぶないあぶない。訪問してきた人が急に爆笑し始めたら怖いからな。心の中で笑ってやる。クハハハハハッ!
「もしかして、あなたが今日から道場に来てくれる新人ちゃんね? 」
そう言いながら女性が近づいてくる。
「いえ、違います。自分は道場を見学しに来たんです」
そう言おうとしたら、セイボリーが急に割り込んできた。
「そ、そそ、そのとーり! あなた、突然いなくなったのでテレポートかと思いましたよ! いやしかし! またお会いできてワタクシ嬉しみが深い! 」
こいつ…………「観光オンリーでお帰りを」とかほざいていたくせにずいぶんと調子がいいな。いっぺん、ぶん殴ってやりたい。
「あたしも会えて嬉しいよ。あんた、名前はたしか…………」
「勝です…………」
女性が名前を聞いてきたのでとりあえず返す。あの逃げ出した人と名前が違うなら気づくはずだろう。しかし、近くで見ると美人だな。
「うんうん! マサルちゃんだね! ん? 新人ちゃんってそんな名前だっけ…………?」
やはり、聞いていた名前と違うのか違和感を覚えているようだ。そうそう。俺は道場を見学しに来てあわよくば推薦状が欲しいだけなんだ。入門予定は無い。
「まぁ、いいか! 」
いや、良くない。良くないです。思考放棄しないで。俺は入門予定の新人じゃないんだってば。
そんな俺の思いも届かず、女性は話を続ける。
「あたしは、このマスター道場でおかみさんをやってるミツバだよ。気軽におかみさんって呼んどくれ」
「…………わかりました」
笑顔で「おかみさんって呼んどくれ」と言うミツバさんの美しさに思わず見とれてしまった。ちょっと入門してもいいかなって思えてきた。
「フンヌゥ!? 何故、ホワイここに!? みらいよちミスりました!? このままではワタクシのついたスイートな嘘がバレてしまう…………」
「もう知ってると思うけど、そこの変なのはセイボリー。ジムリーダー目指してうちで修行してるのさ。ほらっ、二人とも仲良くするんだよ! 」
「フッ、よろしくお願いしますよ」
爽やかな笑顔でよろしくしてくるセイボリー。うわぁ、よろしくしたくねぇ。その整った顔面に拳を叩き込んでやりたい。
「あっ。やだよあたしったら、遠くからいらしたお客様をいつまでも外にいさせちゃって! ちょっと汗臭いかもだけど、どうぞ中に入って入って! 」
ミツバさんはそう言った後、道場の中に入っていった。なんかもう、いいや。とりあえず道場に入ろう。いちいち人違いですって言っても意味なかったし、発言が先回りして潰されたりもして疲れた。
「駅でのやりとり、ミセスおかみに密告したら…………ポンッ!! ですよ」
道場に入るために歩き出そうとしたら、耳元でセイボリーがそう言って道場の中に入っていった。
話をどこで区切ればいいのか分からなくなってきてしまった。