イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
河川敷。
「紫藤、久しぶり!」
「久しぶり、円堂」
電話で話すことは何度かあったが、僕が部活に忙しくして鉄塔にも行かなくなったせいで会うのはあの入学式以来だ。円堂はあの日の記憶がないらしいからもっと会ってないことになるのかもしれない。
「こいつが紫藤ってやつか。ずいぶんちっこいけどほんとにサッカーできるのか?」
「尾刈斗中1年、紫藤幻斗。よろしくね。まあそれなりにはサッカーできる方だと思ってるよ」
「まあいい、FWの染岡だ。よろしくな」
まるでカタギとは思えない強面のストライカー、染岡竜吾。身長差もあってか萎縮してしまった気持ちをなんとか隠して自己紹介した。
「紫藤、俺のことは覚えてるか?」
「半田でしょ。小学の頃に何回か戦ったはず」
「へえ、覚えててくれたんだ」
半田のいるチームと戦ったとき、原作キャラである半田の姿に少し興奮して記憶に残っていた。でも、正直目立った活躍をしていたとは言えない半田のことを名前も含めて覚えてるっていうのはちょっと不自然だったかも。
「紫藤くん、久しぶり」
紅一点、マネージャーの秋が話しかけてくれた。秋とはあの入学式の日に初めて会って……
あれ?
「あれ? 木野は紫藤と会ったことがあるのか?」
「紫藤くんとは挨拶を交わした記憶があるんだけど……それっていつだっけ?」
「ま、まあいつでもいいじゃん」
半田が時空の闇に触れてしまいそうになったのでなんとか誤魔化す。
「ボクは松野空介。マックスって呼んでね。ボジションは未定かな」
「そして俺が風丸一郎太で全員だ。今日はよろしくな、紫藤」
雷門中サッカー部全員の自己紹介が終わった。
原作の時期にはサッカー部にいなかったマックスこと松野空介。円堂の使うゴッドハンドを見て「キミとなら退屈しなさそう」と入部を決めてくれたらしい。その日の夜に円堂が電話で教えてくれた。
そしてもう1人、本来なら陸上に打ち込んでいるはずの男、風丸一郎太。風丸が陸上部に行かず円堂が作ったサッカー部に入ることにした理由は、多分僕にあるのだろう。
風丸は円堂と小学校の頃からの友達で、つまるところ僕と円堂と風丸は一緒に鉄塔で遊んでいたことがある。
でも僕と円堂が雷門でサッカーをする夢を語り合う中、風丸は中学で陸上部に入るんだと1人離れて見ていた。
僕が雷門中には行けないと円堂に伝えた夜、風丸は鉄塔にいなかった。後でそれを円堂から聞いて、もしかしたら円堂を心配に思って助けてあげたいと考えたのかもしれない。
「紫藤、ボーっとしてどうしたんだ?」
「あ、ごめん」
風丸に注意されて回想を抜け出す。最近昔を顧みることが多い気がする。前世を足すともう30才近いから心がオッサンになってしまったのかな。
「キミが必殺技を教えてくれるって話なんだよね?」
マックスの言うとおり、ここに来た目的はみんなに必殺技を教えることだ。
「そうそう、俺達も円堂みたいに必殺技が欲しいと思ってな。でもなんていうか、円堂は人に教えるのにはあんま向いてないだろ?」
「風丸の言うとおり、ギューンとしてドンだ!みたいなのばっかでさ」
円堂の相変わらずの語彙力の無さに半田も苦労しているらしい。
「それで俺が紫藤を呼んだらどうだって提案したんだ」
「なるほどね」
どうやらこの場を整えてくれたのは風丸のようだ。わざわざ尾刈斗中サッカー部が休みの日を調べて日程を調整するなんて円堂にしてはしっかりしすぎているなと思っていたところだった。
「それで? お前はどんな必殺技が使えるんだ?」
染岡が僕の使えるの必殺技を聞いてくる。当然気になることなんだろうけど、やっぱりちょっと怯えてしまう。まあいつかは慣れるさ。
「僕が今使えるのはドリブル技のイリュージョンボール」
その場にあったボールを踏みつけるように分裂させ、くるくると3つを漂わせる。
「ブロック技のファントムミスト」
左手を掲げ、そこから黒いもやを出して辺りを覆う。
「ドリブル技の残像」
もやがちょうど晴れてくるころに、残像を残して後ろへ下がる。
「シュート技のファントムシュート」
ボールを分裂させ円堂に必殺シュートを放つ。
「これだ!」
キーパーとしての勘なのか、円堂は幻に惑わされることなくキャッチしてみせた。
(これでも一応必殺シュートなんだけどなあ)
まあ円堂の実力なんてとっくに分かってたことだし、気にせずに最後の技を使う。円堂のいる方向へ一瞬で加速。通り過ぎる瞬間に円堂が足元へ落としたボールを奪い取る。
「最後がディフェンス技のクイックドロウ。これは動作もシンプルで現実的だから、初めに必殺技の感覚を掴むには最適だと思う」
僕が初めに覚えたのはイリュージョンボールだけど、やっぱり刃也の言う通りシンプルな既存の必殺技から始めるのが正攻法だ。
他人に何かを教えるってのは初めての経験だけど雷門の強化は必須。できる限りの魔改造を施そう。僕が抜かれてしまうまでね。
☆☆☆
クイックドロウの動きやコツを教えていると、僕の3年間の努力も嘲笑うようにすぐにみんな必殺技の感覚を掴んでいった。スポンジのようにってのはこういうときに使う言葉なのかもしれない。
全員僕からしたら信じられないくらい習得が早いのだが、一番初めにクイックドロウが使えるようになったのはマックスだった。原作でも自力で習得していただけあって、僕の真似をしていたらなんかできたらしい。
マックスに続いて風丸も覚えた。半田と染岡はまだだが、もう数日したら覚えてしまうのだろう。GKであり今のところディフェンス技を覚える必要のない円堂は少し離れて1人タイヤ特訓に励んでいる。なんか申し訳ない。
「クイックドロウ!」
目にも留まらぬ速さで僕からボールを奪う風丸。悔しいことにそのスピードは僕よりもはるかに速い。
「もう完璧だね。教えられることなんてなんにもなくなったよ」
「そうか、ありがとうな紫藤」
「どういたしまして」
もういつ追い抜かれるかも分からないから、感謝はありがたく受け取っておく。
「そういえば紫藤、あの技について教えてくれないか?」
「あの技って?」
「風のように走るドリブル技、疾風ダッシュ。昔お前が言ってただろ?」
「ああ、そういえば」
それぞれの必殺技を練習する僕と円堂を保護者のように見守ってた風丸に「風丸も必殺技を覚えたらどう?」って提案したんだった。薦めた必殺技は当然疾風ダッシュ。原作云々を抜きにしたとしても足の速い風丸にぴったりな技だ。
結局あの後どうなったんだっけ? まあ俺には要らないって断られたんだろう。
「僕も使えるわけじゃないし、見たことがあるだけだからあんまりちゃんと教えられないかもしれないよ」
見た、というのは画面の中での話だけど。
「それでも構わん。紫藤、頼んだ」
「とりあえず、全速力でドリブルしてみて」
「ああ、分かった!」
競技前の陸上選手のように少しストレッチしたあと、僕の言ったとおりに全力でドリブルした。さすが風丸、もしかしたらボールなしで僕が走るよりも速いかもしれない。
でも……
「なんか違うね。速さのためにコントロールを犠牲にしてるから簡単にボールを奪われるし、それに……」
「クイックドロウのほうがもっと速かった」
「そう。超次元って言われるだけあって、必殺技は簡単に常識を打ち破るんだ。今のはただのドリブルでしかない」
もし風丸が陸上で日本一の足の速さを持っていたとしても、サッカーグラウンドの上では疾風ダッシュなどのスピード系の必殺技を持っている選手に勝つことはできない。
「クイックドロウの加速する瞬間の感覚を再現してみて。それから、緩急つけて加速と方向転換を繰り返すイメージで」
「ああ、やってみる」
☆☆☆
「なあ紫藤、何か強いシュート技は知らないか?」
雷門の点取り屋を自称する染岡はクイックドロウだけで満足できないらしい。
「走り込みをさらに速く、足のふりあげをさらに高く、キックの瞬間天をまうドラゴンをイメージしてヒネリを加える……」
この世界でこの技が昔からあるのかなんてどうでもいい。原作でも染岡の代名詞であったこの技は、きっと雷門を強くしてくれるだろう。
強くならないと、いけないから。
☆☆☆
夕方。
「今日はありがとうな、紫藤」
「円堂には教えられるようなことがなかったけどね。でもほんとに楽しかったよ。うん、本当にね」
「落ち込んでたのはやっぱりFF2回戦で負けたからか?」
あまり他の学校の対戦結果などを知ろうとしない円堂でも、さすがに友達の戦績は知っていたらしい。
円堂はあんまりデリカシーがない。いや、今の今までこの話題を避けていたのは気を遣ってくれていたのか。
「あんまりそうは見えないようにしてたつもりなんだけどね」
結局あれが道化先輩達の引退試合になって、部長は月村先輩に引き継がれた。そして僕は最後まで何が見えていないのか分からないままだった。
「来年こそ雷門中もFFに出れるように部員集めなきゃ」
多呂斗先輩の予言を覆すことは出来なかった。僕に未来を変えるだけの力なんてなかったのかもしれない。
「それに円堂、おじいさんの特訓ノートも大切だけど、強くなるためには他人のプレーを盗むのも大切だよ。FFに出場しないにしても見に行ったりした方が良かったんじゃないの?」
でも、僕にだって変えられることは何かあるはずだ。
「FFの決勝は明日でしょ? テレビでもやるらしいし見てみたらどう?」
いい方向に変わるとは限らない。取り返しのつかないことが起きてしまうかもしれない。それでも……
「ちなみに僕はもうチケットを予約してるからね。当日スタジアムまで行くつもりだよ」
次話、救出大作戦。
〈原作との相違点〉
マックス・風丸が既に雷門加入。全体的に底力アップ。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる