イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。   作:ウツマ

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救出大作戦

 

 目が合った。

 

 ヤバイ、殺される。

 

 

☆☆☆

 

 

 作戦は最初の方は順調だった。

 

 試合が始まる3時間前に駅に着いた僕は、豪炎寺の家へと向かった。

 円堂のように豪炎寺とも顔なじみだったりするわけじゃない。それなのにどうして家を知っていたか、一言でいうと尾行したからだ。

 

 ひと月ほど前、尾刈斗中が創立記念日で休みの日に僕はこの駅に来た。入学式の日のアレを含めると、ここに来るのは今日で3回目ってことになるね。

 フットボールフロンティアスタジアムから北へ5分程のところに大きく開放的な校舎が見える。それが名門木戸川清修中学だ。元プロサッカー選手の二階堂監督が教えるだけあって、全国大会常連の強豪校である。

 そんな木戸川の特訓内容を偵察しつつ豪炎寺の住所を探るため、フェンスの隙間から観察していた。僕の体が中学生でなければ、もっと犯罪的な臭いがしていたところだった。そして下校する豪炎寺の後を追いかけ、家の場所を知ることができた。

 

 木戸川から北にさらに5分ほど歩いたところにある豪炎寺の家は、広い庭のついた豪華な一軒家だった。豪炎寺が木戸川に通うことになったからこの家を買ったって可能性もある。医者の息子め、羨ましい。

 

 3時間早く着いた僕は家から豪炎寺の妹、夕香ちゃんが出てくるのをずっと待っていた。うーん、これはたとえ僕が中学生でも犯罪の臭いがプンプンする。人助けのためならセーフってことで。

 小学一年生に1人でスタジアムまで行かせる豪炎寺家はどうなのかとも思うが、歩いて10分ほどの距離だから大丈夫だと判断してしまったのだろう。

 

 夕香ちゃんが家政婦のフクさんにいってきます!と大きく挨拶をして門を出たのを確認して、僕は隠れながら後ろを着いていった。人生2回目の尾行だ。

 

 夕香ちゃんは僕が地図を見ながら予想した通りのルートでスタジアムまで向かった。

 スタジアムの少し手前にある大通り。夕香ちゃんがトラックに轢かれそうになる場所も、僕の予想通りだった。

 

(ここで夕香ちゃんはトラックに轢かれて、一年間目を覚まさない。そのおかげで豪炎寺は雷門に来て、雷門は日本一になる。

 でも、そんな未来は絶対に認めない)

 

「きゃーっ!」

 

 ちゃんと手を挙げて横断歩道を渡っていた夕香ちゃんを、信号無視したトラックが襲った。

 バレないように注意して尾行していたせいで、夕香ちゃんとは少しの距離が開いてしまっていた。トラックは一切ブレーキもせずに突っ込んでいて、普通なら諦めてしまっていたかもしれない。

 でも、不可能を可能にする方法を僕は知っていた。

 

クイックドロウ!」

 

 必殺技の超加速で一瞬でその距離を縮め、ボールをくすねる代わりに夕香ちゃんを抱えて向かいの歩道まで運んだ。

 正直めちゃくちゃ怖かった。トラックが後ろを通り過ぎる風をしっかりと感じた。後一歩後ろにいたか、後一瞬反応が遅れていたら轢かれていたに違いない。

 

「おにいちゃん、助けてくれたの? ありがとう!」

 

 でも僕は感謝してくれる少女を目の前にして、人生のこれまでにないほどの達成感を味わっていた。

 僕にも誰か救えた。

 それを知ったことはものすごく僕にとって意義のあることに思えた。

 

「今のわざってクイックドロウ? ゆうかのおにいちゃんが使ってるのを見たことある。

 おにいちゃんもサッカーやってるの?」

 クイックドロウから話が広がり、なりゆきで夕香ちゃんと一緒にスタジアムまで行くことになった。

 影山の仕込んだ罠がこのトラックだけとは限らず、また未知の何かが夕香ちゃんを襲うかもしれないと考えると、その方が安全だと判断した。

 その判断が間違いだったわけだけど。

 

 

 結局何事もなくスタジアムに到着した。心配は杞憂だったようだ。

 

 

☆☆☆

 

 

「おにいちゃんだ!」

 木戸川の選手入場。兄の姿に喜ぶ夕香ちゃんを横目に、僕は歴史を変えられるということを強く実感して満足していた。

 

 フットボールフロンティアスタジアムには鉄骨を落とせるような天井もないし、決勝戦というだけあって満員の観客に囲まれている。いくら影山といえど、試合が始まれば下手に手出しはできないだろう。

 

(後は、木戸川のプレー次第か……)

 

 1年のブランクがあってもあれだけの実力を見せつけた豪炎寺なら、帝国に勝ってしまってもおかしくない。そう思っていたが、試合が進むにつれてサッカーは1人でする競技ではないということを実感した。

 

 豪炎寺の実力は確かに高い。でもあの王者帝国がそれを警戒していないはずがなかった。

 DF3人がかりのマークで豪炎寺は完全に動きを封じられていた。

 

 木戸川の最大の問題、豪炎寺に頼りすぎた攻撃がそんな馬鹿げた戦術を帝国に許してしまった。

 FWは豪炎寺の他にも武方三兄弟の1人(多分勝)ともう1人がいたのだが、彼らは積極的に攻撃に参加しなかった。

 

「みんなもちゃんとシュートしてよ!」

 ひたすら豪炎寺にパスを繋げようとして帝国にカットされるという展開が繰り返され、夕香ちゃんですら不満に感じたようだった。

 

 素人でも分かるその問題に二階堂監督が気づいていないわけではなかった。ハーフタイムに何か指示があったのか、後半になると勝(仮)もシュートを狙うようになった。

 だが今まで攻撃を豪炎寺に任せて自身の攻撃参加を怠っていたツケが回ってきたらしい。豪炎寺にDFが集中してできた隙を攻め、勝(仮)はバックトルネードをゴールへとうち込んだが、源田に必殺技すら使わずに止められてしまった。

 

 防御面もまた苦しかった。西垣らDFの洗練されたチームプレーでなんとか攻撃を凌ごうとしていたが、帝国のドリブル技には合体技であるハリケーンアローしか通用せず、かなり不利な状況であることは間違いなかった。

 そして木戸川の攻撃陣とは対照的に、帝国の全てのFW(と恐らくMFも)が木戸川GKのタフネスブロックを破ることができるだけのシュート技を有していた。つまり、どのような選手に対しても、シュートを許すと即失点してしまう可能性があるという危険な状態だった。

 

 合体技でのディフェンスを強いられた木戸川は、前半に1点と後半はDFの疲弊のせいかさらに3点と大きく失点を許してしまった。

 

 試合終了間近。4点差を覆すだけの時間はなかったが、木戸川の闘志は消えたわけではなかった。

 帝国だってずっとマークをしていて集中力が途切れないはずがない。鋭いスルーパスが奇跡的に豪炎寺のもとへと届いた。

 

「おにいちゃん!がんばって!!」

 

「夕香……ファイアトルネード!」

 夕香ちゃんの応援が届いたのか、渾身のシュートが炎を纏い帝国ゴールへと突き進む。

 

「止める!パワーシールド

 源田の作った衝撃波の壁も、ファイアトルネードには敵わなかった。

 木戸川の執念が、帝国から一点を奪った。

 

 

 そしてその直後、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。

 

 シュートを決め、すぐにホイッスルが鳴る。イナズマイレブンではよくあった展開だ。

 いつもと違うのは、そのシュートは4点差を3点差に縮めることしかできなかったということと、帝国がFFの決勝戦を棄権するはずがないということだった。

 

 

 木戸川清修 1 ー 4 帝国学園

 

 木戸川は大敗した。たとえ一矢報いられたとしても、到底満足できる結果ではないだろう。

 

 スタジアムを去りながら観客席へ視線を向けた豪炎寺は何を思っていたのだろうか。妹にカッコいいところを見せられた喜びか、ほとんど何もできずに負けた悔しさか。

 ただひとつ言えることは……

 

(豪炎寺、こっち見んな!)

 

 

 豪炎寺と目が合った。

 

 

☆☆☆

 

 

「つまり、お前は偶然トラックに轢かれそうになっていた夕香のことを助けてくれたってことだな?」

 

「なんどもそう言ってるじゃん」

 何度も何度も繰り返し説明して、やっと豪炎寺は納得してくれた。

 

「この人はゆうかのいのちのおんじんなんだよ!」

 夕香ちゃんが僕のことを庇ってくれるのだが、その度に豪炎寺からの殺気が強くなるからちょっとやめて欲しい。

 

 

 僕の姿を見た豪炎寺は何を思ったか試合後のミーティングもすっ飛ばして観客席の僕と夕香ちゃんのところへやってきた。

 明らかに僕のことを睨みつけてやってきたのを「豪炎寺選手、試合は残念でしたね」とただの観客のふりをしても、「てめぇ、夕香に何をした!」と睨みが強くなっただけだった。睨まれ死しそう。

 

 夕香ちゃんの助けもあって、なんとか誤解が解けて今に至る。偶然っていうのは嘘だけど、原作知識で……なんて言えるはずがないし。

 

 

「少し、二人きりで話をしていいか?」

 誤解は解けたはずなのに、夕香ちゃんを置いて話したいことがあると言う豪炎寺。

「え、まあいいけど」

 

 

「お前、紫藤と言ったな」

 ここなら夕香も聞こえないか、とさっきの席から少し離れたところで豪炎寺が話し始めた。

 

「うん」

 

「夕香は誰に狙われてる? そしてお前はどうしてそれを知った? 教えてくれ」

「え……」

 僕の思っていた以上に、豪炎寺は状況を理解していたらしい。

 

「夕香ちゃんは誰にも狙われてなんかないよ。たまたま信号無視したトラックに轢かれそうに……」

「そういうのはいい! 本当のことを教えてくれ。お前がこの間俺を尾けていたことも分かってる。それでも俺は紫藤、お前を信用しているんだ」

 

「分かっていたんなら、どうして……」

 どうして、僕のことを信じてくれるのか。

 自分のことを尾行していた怪しい男が、自分の妹の隣に座っていたらそりゃ血相を変えて飛んでくるのも当然だ。一体どうしてそんな僕のことを信用しているなんて言ってくれるのか。

 

「ただお前は悪いヤツじゃなさそうだって思っただけさ。実際そうなんだろ?」

 そう言うと豪炎寺は僕に向かって深く頭を下げた。

「それにお前は夕香の命を助けてくれた。その事実は変わらねぇ。もしかしたらお前はいろいろと夕香のために動いてくれてたんじゃないか?」

 

「まあ……そうだね。本当にその通りだよ」

 豪炎寺には全てがお見通しらしい。

「僕は夕香ちゃんの命が狙われていることを知って、それを止めようと行動してたんだ。……尾行したのはごめんね。方法が他に全く思いつかなくて」

 

「誰に、誰に夕香は命を狙われているんだ?」

 

「影山零治。中学サッカー協会副会長で、帝国の監督としてついさっきまであそこに座ってた男だよ」

 帝国のベンチ席を指さしながらそう答える。

 

 今回のトラックでの事故は防げたとしても、影山は何度でも豪炎寺とその家族に危害を加えようとするだろう。安全のためにも豪炎寺も事情を知っておくべきだ。

 それに、言わないわけにはいかないんだ。信用されてるなんて言われちゃったからね。

 

 

☆☆☆

 

 

 豪炎寺には僕の知ってるほとんど全てを話した。さすがに転生とかについては話さなかったけど。

 

 これから何が起きるかは僕にも分からない。僕の知ってる原作というものはなんの頼りにもならない。ただ豪炎寺には自分の身と夕香ちゃんを守るように頼んだ。

 このまま何事もなければ、豪炎寺は木戸川に居続けるはずだ。豪炎寺が1年特訓を続ければ、間違いなく恐ろしい成長を遂げるだろう。

 代わりに雷門に炎のエースストライカーが訪れることはなくなったけどね。

 

 帝国がFFに優勝するという歴史は変えられなかったけど、他に僕は色んなことを変えられた。

 

 その勝利を示すように、僕はスタジアムに向けて親指を大きく突き上げた。




〈原作との相違点〉
夕香ちゃんが交通事故に遭わない

ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?

  • 正直誰も分からない
  • 主要な数人は顔が分かる
  • アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
  • ベンチメンバーまで全部完璧に分かる
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