イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
俺は帝国学園の
この学校には自由がない。携帯電話の持ち込みは許されているが、それは自由に連絡を取れることと同義ではない。
電波を遮断する金属などで覆われているのか、寮の部屋では電話が通じない。そのため携帯で連絡をとるためには部屋の外、衆人環視の中で電話しなければならない。
外出も長期休暇以外は原則禁止。やむを得ない事情があるときは外出申請書を提出しなければならない。
サッカー部の1軍になればこれらのしがらみの全てから解放されるとの話ではあるが、まだ1年生である俺には遠い話だ。
実際には1年でありながら正ゴールキーパーやキャプテンの座を手にした者がいるが、そんな奴らのことは気にしない方がいい。上を見て自信を喪失するくらいなら、どこも見ずにがむしゃらに走ればいい。昔幻斗がそう助言してくれた。
俺が帝国を選んだ理由。両親からの期待に応えるため、というのも大きい。帝国はスポーツだけでなく勉強面でも都内有数の進学校である。通うだけで将来が確約されているようなものだ。
でも、一緒に雷門でサッカーをしたいという幻斗の提案を断った理由はそれじゃない。
影山について調べる幻斗の役に立ちたかった。幻斗の戦いの物語の中で、俺は何かの役割を持っていたかった。スパイに憧れた、と言い換えると他愛なく聞こえるが。
☆☆☆
帝国において情報を探るのは困難で、とても危険だ。
不審な動きをした人物がいれば帝国の生徒は学校に報告する義務がある。帝国に害をなす可能性のある存在は決して許されない。
帝国に反逆したら東京湾に沈められるぞ、と噂されるが、影山の過去の悪行を鑑みるにあながち冗談とは言いきれない。交通事故に見せかけて殺されるくらいが妥当だろう。
影山や帝国の動きについて情報を集めたいが、聞き込みして回るわけにもいかない。影山に嗅ぎ回ってることを報告されると何をされるか分からない。
逆に影山の信用を得ようと仲間を売ってしまうと、友人からの信頼を失う。影山の犬のようになった俺を誰が好き好んで話しかけてくれるだろうか。
まさにあちらを立てればこちらが立たずといった状況だが、俺はなんとかちょうど良いバランスで保っているつもりだ。
基本的には影山や学校に忠実に動き、それでいて友人からの信頼を損ねない程度に便宜を図っている。
学級日誌の提出や些事の報告を率先して行い、職員室や事務室に入れる機会は最大限に利用した。誰々の水筒が無くなったなんてことをいちいち報告する俺は、教師たちには生真面目なヤツとして写っていただろう。
生徒と話すときはできるだけ気さくに振る舞い、困り事があれば手を差し伸べ、多少の校則違反も見逃した。
どうしても隠蔽ができないと思ったものはポイント稼ぎのために報告させてもらったが、それでも実は融通の効くヤツという評価を貰えていた。
そして俺は今、総帥室の前にいる。職員室には何度も足を運んだが、ここに来たのは本当に数えるほどしかない。
先日幻斗が夕香ちゃんを救出して以来、尾刈斗は呪いの噂を流されて練習試合を組むことができなくなっていた。襲撃が失敗したこと、そしてその後夕香ちゃんがなぜか幻斗と一緒に行動していたことは間違いなく影山に知られているだろう。影山は襲撃が失敗したことへの当てつけとして尾刈斗の活動を妨害したのではないか。幻斗はそう推理していた。
今日は、その真相を探るために総帥室を訪れた。
「影山総帥、いらっしゃいますか?」
ノックのあとに尋ねるも返事はない。
「失礼します」
鍵はかかっておらず、影山はいなかった。ここまで完全に予定通りだ。
帝国の多くの場所には監視カメラが設置されているが、ここ総帥室だけはそれがないのは既に確認している。あの影山もカメラに見られていると落ち着けないのだろうか。
机の上のいくつかの書類に目を通す。詳しくは分からないが、学校運営に関係する普通の書類しか無かった。一応指紋に配慮してハンカチを使いながら色々と物色したが、不審なものは何も見つからなかった。
生徒の入れるこの部屋にそんなものを置いているはずがないだろう。
封筒が二通、野村と黒岩と名乗る人物から届いていた。しかし封を切って中身を見るわけにもいかない。
情報の眠る大本命のパソコンも、さすがにロックがかかっており、パスワードが分からない以上諦めるべきだ。
(ほんの少しでも情報を掴められたらと思って準備してきたが収穫は皆無か……)
ピロリン
通知音。俺の携帯からではないから、このパソコンからだ。
ロック中でも通知が来る設定らしい。情報の管理を徹底すべき影山の立場からすれば杜撰としか言いようがないが、今はお年寄り特有のその疎さに感謝するしかない。
通知に示されたメールの送信者名は、全ての“答え”を教えてくれた。なるほど、これで筋が――
足音。
ずっと耳を澄ませていたつもりだったが、通知に気をとられてか近くに来るまで分からなかった。
書類の配置が最初と何も変わってないことを確認し、ハンカチをポケットに戻す。
パソコンの画面が光ったままであることだけが気がかりだが、紙を握りしめて消えろと念じる。
念が届いたのか画面は黒に戻った。
(消えた!)
「野賀、何か用かね」
真っ暗なパソコン画面への安心も束の間、影山総帥が帰ってきた。
「総帥に報告したいことがありまして――」
「その手に握っている紙は何だ?」
俺が手に持っていたメモを影山は目敏く見つける。
「総帥が部屋にいらっしゃらなかったのでこれを机の上に置いて伝えようと思いました」
「見せたまえ」
用意していた小道具のメモを影山に渡す。
「ほう、咲山が校則違反の漫画の持ち込みをしていると」
「はい。漫画を2冊サッカー部室に置いています。
校則違反なので職員室に話に行こうとしましたが、生憎職員会議で出払っていたので職員会議にはいつも参加されていない総帥ならいるだろうと思い総帥室に来ました」
嘘だ。大嘘だ。今日職員会議があるのは職員室のホワイトボードを見ていれば簡単に分かる。
そして火曜日の3時半は総帥は基本的に総帥室にいない。それどころか校内にいることすら珍しい。帰ってきてしまったのは完全に予想外だ。
「しかしメモを用意したのであれば、わざわざこの部屋に来なくとも職員室にそれを置けば良かったのではないか?」
痛いところを突かれる。
「総帥がいらっしゃれば直接言葉で伝えられるのでその方が良いかと。それに咲山はサッカー部員ですし、部室の私有化という点ではサッカー部監督である総帥の耳に入れておくべき話だと思いました」
言い訳を連ねる。影山との対話は既に何度もシミュレート済み。言い訳も十二分に備えている。
「咲山の他にもその漫画を読んだ人が何人か部内にいるそうです。それと、これはあくまで噂ですがゲーム機の持ち込みも画策しているそうです。ただの冗談かもしれないのであまり真に受けるべきではないかもしれませんが」
「そうか、分かった。こちらで対処する」
なんとか切り抜けたようだ。
「失礼しました」
退室し、すぐにでも逃げたい気持ちを抑えいつも通りの歩幅で歩く。影山の視線を感じるが、人間には痛みや熱を感じる神経はあれど視線を感じる神経はないことを思い出し平静を保つ。
角を曲がり、もう影山から姿が見えない場所まで来てやっと胸を撫で下ろした。寿命が5年ほど縮んだ気がした。
携帯電話を使って、幻斗に伝えなければならない。
地木流監督が、影山と繋がっているという事実を。
★★★
尾刈斗中学、職員室前。
「監督、少し話があります。大切な話が」
昨日とは逆に、職員室から部室へと向かう地木流監督を僕は引き止めた。
「僕には何も見えていない、その言葉の意味がやっと分かりました」
「ほう、それはなんですか?」
「監督は、僕達に試合に勝ってほしくなかった。違いますか?」
「まさか。私は勝つために最善の行動をとったつもりですよ。あなたが自分に自信を持つことは結構ですが、今のままでは試合に出すことはできません」
さすが地木流先生。姿勢はいつもどおりで、瞬きの回数も変わらない。生徒に嘘の見破り方を教えても、自分の嘘は決して悟らせないってわけか。
「そうやって言葉を濁せば勝手に僕が深読みすると思っているのなら大間違いですよ」
先生に向かってこんな口のきき方をするのは僕のキャラじゃないんだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
相変わらず監督はニコニコした表情を崩さない。気持ち悪いよ。
「それじゃあ少し話を変えます。今朝、古墳中学に問い合わせの電話を入れました」
少し監督の表情が崩れた。すぐにまたいつもの気持ち悪い笑顔に戻ったけど、一瞬覗かせたそれは明らかに驚きの表情だった。
「古墳中学のサッカー部顧問、
気分はさながら取り調べ中の刑事。そうやって演じていないとこんなこと言ってられないし。
「答えは簡単なことだったんです。僕達は試合のセッティングを全部監督に任せています。だから監督が試合を申し込まず、申し込まれた試合を断れば、僕達は試合が出来なくなります。何か違いますか?」
監督は何も答えない。
次が最後の質問だ。
「監督、あなたは影山とどういう関係なんですか?」
全国の咲山ファンごめんなさい。咲山は退学になり今後登場しません……なんてことにはなりません。
1話から露骨に名前を出していたことから分かるように彼はこれからもそこそこの立ち位置として登場させる予定です。帝国内部のスパイ、便利。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる