イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。   作:ウツマ

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最強は誰?

「……すまない」

 

 不死先輩が頭を下げる。普段からあまりコミュニケーションを取ってくれるタイプの先輩じゃないので珍しい。

 

「仕方ないアル。動きが速すぎたアル」

「あそこからちぇいんするなんて想像できなかっただ」

 霊幻と不乱先輩が必死にフォローしている。

 

 確かに2人の言う通りだ。

 僕も月村先輩がチェインするものだと思いこんでいた。相手の策にまんまと嵌められていたんだ。

 

「尾刈斗にはフシギ体質が2人いるんでした。完全に忘れていましたよ」

 

 

 Hellチームの同点弾を決めた張本人、武羅渡牙は優雅に勝利の美酒を口にしていた。実際には引き分けだし、お酒じゃなくてトマトジュースなんだけどそれは些細な問題だ。

 Heavenチームは負けたかのような重苦しい空気に包まれていて、Hellチームでは月村先輩が勝利の雄叫びをあげていた。

 

 武羅渡は普通なら絶対届かないような距離を一気に詰めて、普通ならシュートなんて不可能な姿勢でシュートチェインをした。つまり何が言いたいかというと、武羅渡は普通じゃないってことだ。

 

 理屈は全く分からないんだけど、武羅渡は日が沈むと強くなる。元から十分に強いのにそれ以上になるなんてほんとズルい。

 そういう意味では月村先輩とかなり似ている。

 

(あれ? そういえば……)

 

 

「ウウルル……アオオオーン!!」

 

 さっきのあれは勝利の雄叫びなんかじゃ無かったみたい。

 月村先輩の瞳が青く光っている。

 

 

「満月……もう誰も止められない……」

 

「魔界先輩のその被り物で視界を塞げばいいんじゃね?」

「おい人形! これは帽子じゃなくて俺の体の一部だっつーの!」

 

「これは避難するのが正解っぽいね」

 

「ぐふっ、俺がみんなの肉壁になるから、その間に……」

「屍君! はやまらないでください!」

 

「同級生の血なんて見たくもありませんよ。さらば!」

 

 

 地獄絵図。

 

 逃げよう!と手を引いてくれた三途と一緒に木陰に隠れる。

 武羅渡も夜間の超スピードを使って遠くに逃げていた。暴走中の月村先輩に唯一太刀打ちできるやつだと思ってたのに。

 

 

「こんなに人がいて狼一匹対処できねえのか無能共! お前らの自主性とかいうやつを見ようと黙っていたが、そんなんで帝国に勝つなんて馬鹿言ってんじゃねえ!」

 痺れを切らした監督がハイドモード(僕が勝手にそう呼んでいる)になり、いつもなら決して言わないような口調で僕達を責める。

 

「そしてそこの馬鹿狼!」

 

 馬鹿狼が自分のことだという自覚だけはあったのか、月村先輩は監督の方を見る。

 

「試合の興奮が冷めやらないのは勝手だが多少は抑える努力をしろ。

 よし! 俺が今から手を叩けば、なんで今まで暴れてたのか分からないくらい冷静になる」

 

 そう言って監督は大きく手を叩いた。

 

 効果はてきめん。月村先輩は一気に大人しくなり、少し反省したようなしょんぼりした顔を見せた。謎の青い光はすっかり瞳から消え去った。

 

「お前の頭はどんどん重くなる。上げようと思ってもどんどん首が曲がって下を見てしまう。お前は家に帰るまで空を見ることができない」

 

 月村先輩は真下しか見ることが出来なくなった。しょんぼりした顔とあわせて、ものすごく落ち込んでいるようにも見える。

 首が痛くなりそうで可哀想だとちょっと思ったけど、満月を見られたら困るから仕方がない。

 

 

 

「月村君、落ち着きましたか?」

 ジキルモードに戻った監督が優しく声をかける。

 

「今日が満月だと知っていながら6時まで部活を続けた私にも責任があります。さっきのあれは本心じゃないってことで忘れてください。

 さっきの練習試合はとてもいい試合でした。さあ、帰りましょう」

 

 

 それを試合終了時刻にしていたから必然なんだけど、もう下校時刻は過ぎてしまっている。ジキルモードで喋っていたから催眠術の効果なんてないはずなのに、監督の言葉によってみんな急いで黙々と帰り支度を始めた。

 

 

 尾刈斗で最強なのは月村先輩でも武羅渡でもない。地木流監督だった。

 

 

☆☆☆

 

 

 あの日から、帝国を倒すための特訓が始まった。練習試合で使われた戦術も特訓に加わり、特にシュートチェインの存在は打倒帝国をより現実的なものにした。

 個々のシュート力が低くても、シュートを重ねることで威力をあげることができる。さらに完成度を高めていけば帝国のパワーシールドを突き破ることもできるかもしれないとFW陣はワクワクして言っていた。

 

 それと僕が使った広範囲ファントムミストも、もっとうまく試合に活かすことができないかと検討中だ。

 しかしゲームでいうところのTP的なやつなの消費が馬鹿にならないというデメリットもある。あの技を使ってからクイックドロウを使うべき場面でただのスライディングをしたりともう必殺技が使えなくなっていた、と監督や三途など観察眼に優れたやつらに見抜かれていた。

 

 

 一応ファントムシュートは覚えているので僕もシュートチェインの練習をしてみたり、今度は多呂斗先輩の塔の上に乗ってみたりと試行錯誤の毎日。

 ファントムミストの改良も試みたところ、改だとか真だとかになる代わりに僕のTP(仮)の最大値が増えたっぽい。

 

 努力すればするだけ形になっていく。そんな毎日が僕には楽しくて、影山のことも少しは忘れていられた。

 

 

 前世の僕は、それが楽しくなかった。前世はこの世界とは違って、努力が必ず実るとは限らなかった。

 努力が無意味であると気づくのが怖くて努力することからすら逃げた僕に、努力を語る資格なんてどこにもないんだろうけど。

 

 でもそんな前世が役立つこともあった。こんな弱い僕だからこそ気づけたことがあった。

 

 

 フィールドの外で1人たたずむ屍に話しかける。

 

「屍ってさ、サッカーやってて楽しい?」

 

「え、なんで?」

 

 なんでは図星の証。屍はあの日の僕と同じだ。楽しいはずのサッカーが楽しめなくなってしまっている。

 

「なんだかあんまり楽しそうに見えなかったから」

 

「……そりゃあ楽しくないよ。俺はみんなと違ってなんにもできないし」

 俯きながら屍は答える。これは紛れもない屍の本音だろう。

 

「紫藤には分からないよな。俺みたいな落ちこぼれの気持ちなんて、ぐふふっ」

 

「分かるよ」

 

「分かるわけない!」

 

「俺が1つ目の必殺技も覚えられず苦労してる間にお前は軽く2つも習得してて、俺はいつまでたっても戦力外なのに、お前は紅白戦でキャプテンにまで選ばれるし」

 

 確かに、そう言われると今の僕はできるほうなのかもしれない。もっと直接的に言うのなら僕には多分才能があるのだ。

 前世の記憶のせいで必殺技が覚えにくかったという仮説が正しかったのかもしれない。一度必殺技を覚えてから、特に尾刈斗に入ってから、はそう苦労せずにファントムシュートやクイックドロウという必殺技を覚えることができた。

 そして今、尾刈斗の1年生組の中ではそこそこ実力があるほう、というのも事実だ。

 

「でも、僕が君の気持ちが分かるってのはほんとだよ。昔、ずっと昔、僕も君みたいだったことがあるから」

 

「それはどれくらい昔のこと?」

 

 小学生のころって答えようと思ったけど、それは嘘になる。そして僕は上手く嘘をつける自信が無い。屍だって監督の授業受けてるわけだし。

 だから、正直に答えた。

 

「ずっとずっと昔。前世」

 

 ものすごく真面目な顔で答えた。この世界がフィクションの世界だなんて誰にも言うつもりはないけど、転生歴くらいなんてことない。

 前世の記憶があるってのも、尾刈斗じゃ普通程度の異常だ。

 

 真面目に答えたつもりだったのに、屍は笑った。いつものあの笑い方とはまた違った笑い方だ。

 

「ふふっ、真面目な顔で言うから面白かった」

 

「冗談とかじゃなくて……」

 

「いいよ、気を遣わなくても。紫藤がオカルトを信じてないってのは知ってる。俺も信じてないし、ぐふっ。宇宙人も妖怪も超能力者もそんなのいない、ぐふふっ」

 

 実は宇宙人も妖怪もこの世界にはいるんだけどなあ。最後の1つもいるんじゃないかと最近思い始めたし。

 

 

「紫藤の事情も聞いたことある。多呂斗先輩から」

 

 さすが超能力者候補、なんでもお見通しらしい。僕の目的とかも全部見抜かれていたりするのだろうか。

 

「紫藤と同じなんてとても言えないけど、俺も小学校のころ体型でからかわれてて、ぐふふっ、逃げるようにここに来たからさ、別にそういうのを信じてもない」

 

「そうなんだ、知らなかった」

 

 初めて聞いた屍の過去。ゲームのキャラクターなどでなく、生身の人間である屍に過去があるのは当たり前なわけで。

 自分は不死身だと主張して自分の身を顧みずに危険に突っ込む屍の危うさは、そういった経験に由来するものなのかもしれない。自分を大切にできないから、危ないことに手を出してしまう。

 

「ここのみんなはからかったりしなくてさ、ぐふふっ」

「だからこそ辛い、でしょ? 暴言でも浴びせてくれたら嫌いになることができるのに、みんな優しい人だから失敗しても大丈夫って言ってくれて。誰も嫌いになれないから、自分のことだけが嫌いになる」

 

 カケルもタクヤも僕のことを責めたりはしなかった。僕がサッカーから逃げても、今まで通り変わらず接してくれた。でも、それが僕にとっては辛かった。

 

 屍はびっくりしたような顔で僕を見る。

 

「言ったでしよ、分かるんだって。君が僕の話を信じてくれなくても、僕だって君の立場なら多分信じないし、それでも僕が君の気持ちが分かるってのは本当なんだ」

 

 ただの傷の舐め合いってやつなのかもしれないけど、屍となら仲良く話せそうな気がした。




 次回は過去(前世)回想になりそうです。そんなこと書く暇があるならさっさとストーリー進めて原作スタートさせるべきなんでしょうけど、どうしても書いておきたい話が1つ2つ3つ……まあいろいろとあるんです。

ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?

  • 正直誰も分からない
  • 主要な数人は顔が分かる
  • アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
  • ベンチメンバーまで全部完璧に分かる
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