イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
原作には登場しないオリキャラではありますが、魅力を感じていただければ作者冥利に尽きます。そのためには投げっぱなしの謎が多すぎるような気もしますが。
「ふっ、小賢しい奴らだ。潰せ!」
ザ・タワーの上でボールを持って時間切れまで耐久する。サッカーの前提を覆すかのような常識外れな作戦だ。
この高い塔の上には、さすがの帝国も届くまい……なんて言ってるわけにはいかないことは満月の日の月村先輩が実証してくれている。天魔大戦(思い出す度にイタい名前だと思う)があったあの日、月村先輩は一度の跳躍で塔をあっさり飛び越えてみせた。
満月の日の月村先輩の身体能力はずば抜けているとしても、日本一の帝国が再現できないと考えるのは楽観視しすぎだろう。
「てことで頼んだよ、屍!」
「ぐふふっ、リトル・グラビテイション!」
屍が地面に手をつけると、紫のオーラが空間に広がり、周囲の重力がちょっとだけ強まる。
タフネスブロックしか必殺技がなかった屍が新しく編み出したブロック技だ。身動きを取れなくさせるほど強い重力には及ばなかったため、リトル・グラビテイションと僕が名付けた。通称リトグラ。完全に動きを封じられるようになったとき、リトルを外してグラビテイションが完成するのだ。
「くっ、体が重い……」
ボールを奪おうと飛び上がった寺門が地に落ちる。今はリトルな重力でも十分役に立つ。
塔の上まで誰一人として近づかせないことが僕らの仕事だ。
「塔を破壊しろ!」
鬼道の号令に合わせて、帝国の攻撃が塔に集中する。みんな一斉に塔に蹴りを入れる様はとてもサッカーの試合中だとは思えない。ナニコレ。
「サイクロン!」
「サイクロン!」
必殺技によって塔にも少しずつヒビが入っていく。
「竜巻を発生させて塔を破壊するって異世界の魔法大戦か何かですかね。
このタワーはもう長くは持ちません。そろそろです」
多呂斗先輩が塔の上で冷静に状況を分析しながら、指で僕達に合図を送る。
「行くぜお前ら! マレマレトマレ……」
監督が素早くモードを切り替えて、呪文を唱え始める。
それに合わせて僕と三途と八墓でゴーストロックを発動させる。僕達の切り札だ。
当然ゴーストロックの対処法は帝国も知っていて、目を閉じたり耳を塞いだりされると催眠術は届かない。誰か一人くらい反応が遅れて固まってくれたらラッキーだと思ってたんだけど、無理か。ゴーストロックは初見の相手には超有効だけど、知られてると一瞬の隙を作ることしかできない。
「跳ぶぜ!」
「跳びましょう!」
屍がリトル・グラビテイションを解除したタイミングに合わせて、塔の上にいた先輩達が空を駆ける。
「おいで、ザ・タワー」
多呂斗先輩が再度ザ・タワーを使用し、地面からせり上がってきた塔の上に再び着地する。それを見た屍がリトグラを再展開。
「引越しは成功だ。多呂斗、大丈夫か?」
「はい……なんとか」
必殺技の連続使用は体への負担が大きい。90分間ずっとこの方法で逃げ切ることは無理があるだろう。
引越しの回数を減らすためにも、僕達で塔への侵攻を食い止めねばならない。
「もういっちょ! サイクロ……クソっ」
「蹴り込む動作で……風を作る……足を縛れば使えない」
木乃伊の必殺技、怨霊によって足を封じられ、サイクロンは不発に終わる。
「魔界の住人の俺様が上から支援してやるぜ! 呪い!」
魔界先輩の背後から現れた黒い影が、塔を破壊しようとする帝国選手に上から降り注ぐ。怨霊も呪いも相手の足止めにはうってつけの技だ。
ただそれでも塔の破壊は進み、いよいよ2つ目の塔も破壊されそうになっていた。
多呂斗先輩以外の誰かが同じくザ・タワーを使えるようになれば負担も軽減できたんだけど、技の相性とかが関係するのか、誰もものにすることが出来なかった。
「もう一回、できるか?」
「一旦、休憩を挟まないと、厳しい、です」
「俺も、リトグラの展開が限界です……」
2人とも疲労の色が見える。籠城も限界が近づいてきたようだ。
「それなら最後に一発ぶちかますぜ! ファントムシュート!!」
うちのエースストライカー月村先輩の、高さの乗った強力な必殺シュート。さっきの引越しの際に、少しゴールに近い位置に移動したからそれなりの威力にはなるはずだ。
「止める、パワーシールド」
高い角度からの月村先輩の必殺シュートも、源田の出した衝撃波によって跳ね返される。キングオブゴールキーパーは伊達じゃない。
全方位からのシュートを守れる万能キーパー技パワーシールドに弱点があるとすれば、一つは必ずシュートを弾いてしまうことだ。
バスケにおけるリバウンドのようなこのボールを拾うことができるかで、この後の戦況が大きく変わる。
跳ね返りの位置を計算し、魔界先輩がボールを回収しにいく。
しかしリバウンドの重要性は帝国のDF達ももちろん分かっているようで、ちょうどボールがやってくるその位置に万丈が既に待機していた。胸でボールをトラップしたあとドリブルしようとして、ステッと転ける。
「てことでボールはいただくぜ」
「先んじて怨霊を使わせてもらったアル」
霊幻のナイスアシストで再び尾刈斗ボールに。大野がボールを奪おうと詰め寄ってきたから急いで後ろにパス。
「呪い」
「イリュージョンボール」
ドリブル技を駆使して、なんとかボールを奪われずに自陣ゴール近くまで戻した。
パス回しで様子を見つつ、再び篭城するタイミングを見計らう。
「多呂斗先輩、もう一回できますか?」
「多分、できます。やり、ます」
もう息も絶え絶えっぽいけど、普段は静かな多呂斗先輩が熱くやる気を出してくれている。僕が今すべきことは、先輩を信じること。
「やります、ザ・タワー!!」
今日三度目のザ・タワー。さっきより少し背が低いような気もするけど大丈夫かな。
「ったく、またそれかよ」
「今度こそぶっ壊してやるぜ!」
試合開始からそれなりに時間が経っているにも関わらずまだボールに触れてすらいないという異常事態に、王者帝国の面々はいらだちを隠せないらしい。鬼道だけは不敵な笑みを浮かべたままだけど。
「百烈ショット」
「ジャッジスルー」
再び大量の蹴りが塔を襲う。呪いや怨霊で止めようとしても間に合わない。ファントムミストで暗闇にしても多分意味ないしなあ。
三回目で耐久性も下がっていたのか、さっきまでよりも早く塔の限界が来てしまった。根元から崩れ始め、完全に倒れてしまった。
「多呂斗、大丈夫が?」
「ナイスキャッチです、不乱君。ほんとは、もっと、粘るはずだったんですが、すみません」
「何言ってんだ?お前はよく頑張ったぞ」
墜落した多呂斗先輩は不乱先輩がちゃんとキャッチしてくれた。そして肝心のボールの行方は、塔の崩壊による土煙のせいで分からない。
「ああ、しゃらくせえ! サイクロン!」
辺見が必殺技で起こした風によって土煙が晴れ、ボールを誰が持っているのかが明らかになる。
「貴様らのつまらん時間稼ぎはおしまいだ」
ボールを持っていたのは、鬼道有人。帝国の反撃が始まる。
ここまで帝国相手にボール保持率ほぼ100%という驚異的な記録を達成していたが、ついに鬼道にボールを取られてしまった。
ずっと尾刈斗ボールだったとはいえ、点を入れたわけではなくただ籠城していただけ。消耗もこちらの方が明らかに大きく、不利な状況としか言いようがない。
一つ良いニュースがあるとすれば、前半の時間は残りわずか。後もうひと頑張りで前半を無失点に抑えることができる。
「反撃開始」
鬼道から素早くパスが洞面に渡り、ダイレクトで佐久間、寺門へと繋がっていく。どうやって互いにコンタクトを取ってるのかも分からない速すぎる連携。
「行くぜ、百烈ショット!」
塔を破壊するための手段ではなくシュート技として、百烈ショットが尾刈斗ゴールを襲う。
あまりにも素早すぎて、不乱先輩のシュートブロックは間に合わない。多呂斗先輩も屍も、さっきまでの必殺技の多用で疲労困憊。ゴールを守るのは鉈一人だけ。
「トラストミー! キラーブレード改!!」
鉈はいつの間にか進化させていた青い刃で、寺門の必殺シュートを真っ二つにしてみせた。
「オーケー? これが正キーパーの力さ」
鉈から不乱、屍へと再びパス回しを目論んでいると、ファウルすれすれの佐久間のスライディングでボールが奪われてしまう。疲弊している屍がウィークポイントだと狙われていたのかも。
「取られたら取り返すだけ。怨霊」
三途の怨霊は跳んで回避される。その着地にクイックドロウを合わせてボールを奪取しようと身構えるが、僕の考えも見透かされていたのか空中で洞面へとパスされてしまう。
「分身フェイント」
3人に分身して八墓を翻弄し抜き去り、そのまま洞面がシュート体勢に入る。
「行くよ! フリーズショット」
地面が突然凍り、その上を滑るように洞面のシュートが突き進む。
「止める。タフネスブロック」
ボールを取られてしまった失態を取り返そうと意気込んで、屍がシュートブロックをするが、地面が滑るため全く力が入らない。屍はシュートに巻き込まれるように一緒にゴールへと滑っていく。
屍ごと切ってしまうから、これじゃキラーブレードが使えない。
ゴールを見ると、中心で守っていなければならないはずの鉈がゴールポストの近くでシュートを待ち構えていた。
「ノープロブレム! アイスホッケーのキーパーの経験が今活きるぜ。キラーブレード改!」
そう言って鉈はゴールポストを強く蹴り、ゴールへ直進するボールと屍に対して斜めからぶつかりにいく。そして青い刃をちょうどボールと屍の間に差し込み、ボールだけをホッケーのように弾き飛ばした。
フリーズショット、一見大したパワーはなさそうに見えるが、地面を凍らせるというのがあまりにも強すぎる。踏ん張りが効かなくなるから、シュートブロックはもちろんキャッチをしてもそのままゴールに押し込まれる可能性が高い。
ゴールポストを蹴って勢いをつけたのは咄嗟にしてはすごい判断だよ。
ていうか、そのホッケーマスク、ジェイソンを意識してるんじゃなくて本当にアイスホッケーしてたんだ。それが一番の驚き。
ピー ピーー
と、ここで前半終了の笛が鳴る。なんとか無失点で凌ぐことができた。
☆☆☆
「柳田君、後半から多呂斗君に変わってDFで入れますか?」
「は、はい……」
ハーフタイム中、監督が多呂斗先輩と柳田の交代を指示する。
「僕はまだ戦えます」
多呂斗先輩の消耗を考えると自然なことなのだが、そんな監督の采配に多呂斗先輩本人が反対する。
「多呂斗君、その熱い気持ちは分かりますが、今の君ではチームの役に立ちません」
「僕は3年生です。先輩です。この部を守る責任があるんです」
多呂斗先輩がこんな熱いことを言うのは今日が初めてだった。去年のハロウィンの日の試合もそうだったけど、黒研の部長ということもあってか積極的に部活に関わろうとはしていなかった。いつも月村先輩や魔界先輩が熱くなっている様を後ろから見ているようなタイプだった。
「僕は、尾刈斗サッカー部が大好きなんです」
そう言って多呂斗先輩は、監督の目を見つめた。しばらく睨み合う時間が続いた。目で語り合うってのはこういうことを言うんだろう。
「分かりました。あなたの力を信じます」
先に目を逸らしたのは監督の方だった。
「紫藤君、ちょっとお話いいですか」
「はい」
フィールドに戻る前に、多呂斗先輩に呼び止められた。
「後半が始まる前に君に伝えたいことがありまして」
「はい」
後半に向けて秘策か何かでもあるのだろうか。いつものことだけど多呂斗先輩の顔からは何を考えているのかは窺えない。
「1年ほど前、部内で紅白戦をしましたよね。天魔大戦みたいな名前の」
「確かにしました」
「あの日、僕はチームのキャプテンを君に譲りました。覚えていますか?」
「覚えています。確か僕を選ぶと吉みたいな占いが出たとかで……」
結局多呂斗先輩をじゃんけん必勝マンとして味方に引き入れたから、多呂斗先輩がキャプテンだったときとほとんど変わらなかったような気がするけど。
「あの理由は、嘘だったんです。君がキャプテンに相応しいと思ったのには別の理由があります」
「別の理由……?」
「僕も、知っていたんです、全部。尾刈斗が影山の支配下にあるってことも。でも僕は何もしなかった。何かを変えられる君の強さは、キャプテンに相応しい資質です」
「やっぱり、先輩達は知っていたんですね」
去年のFFでの帝国に対するあの消極的な姿勢から、そうじゃないかとずっと思っていた。やっぱり全てを知った上で影山のもとサッカーをする安寧を選択していたんだ。
でもその安寧は僕がぶち壊した。そのせいで一度は(監督によって)練習試合が全部なくなったし、今は廃部の危機に陥っている。でも先輩はその選択を“強さ”だと認めてくれた。
僕がこの試合に責任を感じているんじゃないかと思って、先輩は声をかけてくれたんだろう。
「次のキャプテンは君が相応しいって月村君も言ってましたよ。後は任せますよ」
「ありがとうございます!」
原作では幽谷がキャプテンだったけど、その座は僕になるのか。ちょっとニヤついてしまう。
でも、この試合に負けたら全部なかったことになる。気合を入れなおせ、紫藤幻斗。
さあ、後半が始まる。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる