イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
こっくりさん
今日は8月23日。FFの決勝戦があるはずの日で、すなわちエイリア学園の襲撃が始まるはずの日だ。
FFを延期
僕達はある意図を持って、帝国学園の選手達に呪いをかけ、FFの開催を遅らせた。それは僕達の作戦に必要なことだったが、大きく原作が崩れることも意味していた。
この世界がアニメの時系列に沿っていると考えるならば、FFの決勝戦の直後にジェミニストームが現れて各地の学校を破壊して回る。その行動の裏には「FFで大活躍だった優勝校をサッカーで圧倒することで、ハイソルジャーの兵器としての実用性を見せつける」という意図があったと思う。影山がエリア皇帝陛下、すなわち吉良星二郎と繋がっていたという情報をもとに考えると、王者帝国を圧倒的な力で打ち負かした世宇子中学をさらに圧倒的な力で打ち負かすところまでが計画だったのかもしれない。
となると、エイリアの計画はFFが終了するのを待つ必要がある。つまりこの8月23日という日付自体は重要ではない、はず。
不安だけど、監督や他のみんなには相談することができない。多呂斗先輩がいたら、なんでも話すことができたのに。
なんて考え事をしていたら、つまずいて転けてしまった。ルーレットのように回転する地面に体を持っていかれ、巻き添えで一緒に走っていた魔界先輩も転んでしまう。幽谷は僕らの屍(チームメイトの屍の話ではない)をひょひょいと飛び越え回避していた。
「すみません……」
「気にすんなって」
「これっていつまで続くんですか? 冗談じゃなくもうすぐ死にますよ」
真面目な幽谷も珍しく不平を垂れる。それくらいにこれはしんどいのだ。
「始まってから体感1時間くらいで、確か時間設定は1万秒だから……1万秒ってどれくらいだっけ?」
「えっと、2時間40分くらい?」
「サンキュ紫藤、てことは残り1時間40分くらいか。長えな」
「それにしても40年間誇りを被っていたはずの施設がちゃんと電気も通って動いてるの意味分かんないですよね」
「40年前の雷門の監督が凄く自由奔放なサッカーバカで、莫大な資金を投じて最新鋭の技術を駆使して作ったんじゃない? 多分だけど」
そう言いながら、大介さんなら周囲に反対されてもやりそうだなあなんて考える。
言い忘れてたけど、僕らが今いる場所は雷門の地下、イナビカリ修練場だ。
どうしてここを使わせてもらうことになったのかと言うと、話は1週間ほど前に遡る。
☆☆☆
「こっくりさん?」
「そうそう、今後の方針をこっくりさんに尋ねてみようかと思って」
「紫藤がそんなこと言うのは珍しいな。そういうの信じないタイプかと思ってた」
まあ実際そんなに信じてないんだけど。これくらいしか方法が思いつかなかったんだ。
「こっくりさんは科学的に解明されています」
秀才の円谷が茶々を入れてくる。尾刈斗の中でもオカルト現象に対するスタンスは人それぞれで、スピリチュアルなものを信じている人もいればあくまで科学的にSF的に考察する人もいる。円谷は典型的な後者パターンだ。
「こっくりさんは西洋のテーブルターニングに起源を持つとされますが、日本でも明治時代から井上円了などがその原理を解明しています。参加者の潜在意識、あるいは不覚筋動によるものです」
「井上円了……妖怪研究の創始者」
円谷の話に珍しく反応したのは柳田。
「柳田もこっくりさんは存在しない派か?」
「い、いや……そういうわけじゃありません。確かに井上円了はこっくりさんを誤怪だと判断して、それには科学的な根拠がありますが……存在しないことを証明したわけではありません」
「なるほど。だがそれは悪魔の証明だろ?」
魔界先輩が手厳しい指摘をする。確かに存在しないことを証明できるはずなどない。
「そ、それもそうなんですけど……こっくりさんの場合、多くの人に存在を信じられています。人の思いによってモノが妖怪となる例は多数ありますし、多くの人の言わば信仰によってこっくりさんが存在するようになっても不思議ではない、と僕は思います」
一理あるようなないような。
「それじゃあこの中でこっくりさんを信じてるって人は手を挙げてみてよ」
何となく気になるので、今部室にいる面々に肯定派か否定派か質問をぶつけてみる。
意外にも、手を挙げたのは僕と柳田と八墓と三途の4人だけだった。
「へー、他のみんなは信じてないんだ」
「というより、興味がありませんね。東洋のちょっとした都市伝説なんて、俺にとっては子供騙しにすぎません」
「いや、こっくりさんの起源は西洋だって円谷が言ってたっしょ」という人形のツッコミは無視して、武羅渡は優雅にトマトジュースを飲んでいる。
そういえば、月村先輩や木乃伊や霊幻など、日本以外のモンスターをアイデンティティにしてる人達は手を挙げていないっぽい。だから何って話だけど、ちょっと興味深い。
「じゃあ信じてる僕達4人でやろうよ」
そこからトントン拍子に準備が進む。僕が財布から十円玉を取り出している間に八墓が紙に鳥居と五十音などを書いていた。意外と達筆な八墓の文字に驚きながら、鳥居の絵の上に十円玉を置く。
みんなで十円玉に指を乗せる。
「始めよ」
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら“はい”にお進みください」
十円玉がゆっくりと“はい”の方に進んでいく。自分で動かしているのではなく、何かに引っ張られるような感覚。
これがフカクキンドウってやつか。よく分かんないけど勝手に納得する。
「じゃあ僕からこっくりさんに質問するね」
十円玉を鳥居の位置に戻し、言い出しっぺの僕が最初に質問をしてみる。
「こっくりさん、こっくりさん、僕達は帝国学園に勝てますか?」
十円玉は再び“はい”へと進んでいく。もしこれがみんなの無意識的な意思によるものだとすると、みんな帝国に勝てる、あるいは勝ってやると思っているということだ。そう思うとなんだか嬉しい。
「僕達勝てるんだってさ」
じゃあ次は僕の番かなと三途が続いて質問する。
「こっくりさん、こっくりさん、僕達が勝つために必要な戦術はなんですか?」
十円玉はまた動き始める。“ま” “ん” “け” “つ”と4文字を示したあと、十円玉は動かなくなった。紙には濁音を用意していなかったから濁点を補完して読むと、まんげつ、すなわち満月となる。
「やっぱり満月の月村先輩を軸にするのが良いみたいだね」
既に分かりきっていることを聞いても意味が無いような気もするけど、方針が固まったという意味では良かったのかもしれない。
「時計回りで質問していってるから、次は八墓の番だ」
「こっくりさん、こっくりさん、俺が次に覚えるべき必殺技はなんですか?」
十円玉はまず“か”へと移動する。“か”から始まる必殺技って何があったっけ。か、か……かっとびディフェンス?
そう頓珍漢な推理をしている間に十円玉は“ま”へと動いていく。なるほど、やっと分かったぞ。つまり次は“い”だね。
そして予想通り、十円玉は“い”に動いていく。少しは僕が動かしているのかもしれない。ただ“ま”に行ったときまでは僕にはなんの必殺技か見当がついていなかったから、僕以外の3人の中に「カマイタチ」を完成させようと動かしている人がいるのだろう。多分だけど。
そしてその後“た” “ち”と移動し、ドリブル技の名前が浮かび上がる。
「なるほど……カマイタチか」
「じゃ、じゃあ次は僕ですね……
こっくりさん、こっくりさん、どうしたら自分に自信が持てますか?」
柳田は少し怯えながらこっくりさんに尋ねる。
自分に自信を持つ方法。僕なりの答えがある。それは――
「し、ふ、ん、を、あ、い、す。自分を、愛す……?」
「自分を愛せば自分自身の素敵さに気づけるってことだ。まあせいぜい頑張りな」
月村先輩が先輩面して柳田になんか良いことを言っている。実際その通りだと僕も思う。
「ぐふふふっ。それが一番大切で……一番難しい」
「柳田なら上手くやれる。俺が保証してやるからよ」
屍や人形が柳田を励ますように声をかける。このチームには素敵な人がたくさんいる。きっともうすぐすれば、自分を好きになることができる気がする。
「人生啓発も大切だけど、こっくりさん放置しとくのは良くないんじゃねえの?途中で指離したりしたら呪われるんだろ?」
「魔界先輩はこっくりさん信じてるわけじゃないのにそんなこと気にするんですね」
「だってそりゃ、こっくりさんに乗り移られるとか気味悪いじゃん」
以前言っていた魔界先輩実は怖がり説が再浮上。ってそんなのはどうでもよくて、せっかく話をこっくりさんに戻してもらったのでさっさと要件を済ませよう。実際指を十円玉に乗せ続けるのも辛かったし。
「じゃあ二周目の質問をするね。こっくりさん、こっくりさん、僕達の最適な特訓方法はなんですか?」
この質問が本題だ。鳥居に置かれている十円玉をまずは“ら”へと移動させる。続いて“い” “も” “ん”へと。「雷門?」と首をかしげる3人をよそに、次々に十円玉を動かしていく。自分で動かしているはずなのに、途中から十円玉に動かされているような気もしてきた。この奇妙な感覚がこっくりさんの迷信を広めることになったのかな。
なんて考えている間に十円玉の動きが止まった。
「ら、い、も、ん、ち、か、し、ゆ、う、れ、ん、し、よ、う。最初の4つは雷門かな。チカシユウレンしよう? チカシユウレンってなんだろう」
すぐに分かりすぎるのも不自然だから、あえてちょっととぼけてみる。
「つまりこれはこっくりさんがいないということが証明されたのでは?」
こっくりさん否定派の円谷がこれがチャンスだと乱入してくる。
「そ、そんなはずありません……僕達がちゃんと読めてないだけで、こっくりさんは意味のある何かを伝えてくれているはずです」
「その話はみんなの質問が終わってこっくりさんを帰してからにしない?解読は一旦後回しで」
と三途の提案でこっくりさんへの質問を再開する。
「僕は生きていますか?」が三途の2回目の質問で、答えは当然“はい”だった。そりゃそうだ。
「儀式に求められるカエルの腸は他の両生類で代用できますか?」というかなり意味不明な質問をしたのは八墓だ。試合中にわざわざ火をつけた蝋燭を頭に巻き付けるのもずっと意味不明だったけど、こうして謎の儀式とやらについて話されると、髪で顔が窺えないのもあってかなり不気味だ。
ちなみに答えは“いいえ”。ヤモリじゃダメらしい。
「妖怪は日本以外にも生息しますか?」が柳田の2回目の質問で、答えは“はい”。ライオコット島に河童がいたから生息するのは確かかもしれないけど、柳田にとって日本に河童が生存することは当たり前の前提ってことなのか。
「妖怪は日本にのみ生息するのか、日本以外では正しく認知されていないだけなのか常々気になっていたけど、これで妖怪は世界共通であることが示された。海外で伝承されるモンスターは日本の妖怪と同種である可能性が……」と急にぶつぶつ語り出した柳田には驚いた。さっきまでの弱々しさはどこに行ったんだろう。
みんなが思い思いの質問をした後、こっくりさんにお礼を言い、お帰りくださいと鳥居に帰した。
「もう手を離していいんだよね?」
「大丈夫なはず」
こっくりさんを信じていないはずなのに少し怖くなって恐る恐る十円玉から手を離す。手を離した途端安堵に包まれて、自分がずっと緊張していたことに気づいた。
そしてその後解読できなかった「らいもんちかしゆうれんしよう」をみんなで頑張って解読し、雷門の地下に修練場という特訓場所があるのだろうという結論に達した。
解読が終わったあと、「紫藤ってインサイダーみたい」と人形が僕に言ってきた。マダミス部でインサイダーゲームというゲームをすることがある人形によると、僕は答えを知った上で答えに誘導しているように見えたという。気のせいだろうけど、と言っていたけどまさにその通りだった。
この学校の人達はたまに察しが良すぎるから困る。
☆☆☆
お宅の地下に修練場があるらしいんですが、使わせてもらうことってできますか?と雷門の生徒会長である夏未に突撃する。何のことを言ってるのか分からず困惑されたので、こっくりさんに教えてもらったと説明すれば余計困惑された。雷門中と尾刈斗中での交流イベントを企画してもらったり、なかなか夏未には懇意にしてもらってたわけだけど、今回ばかりはかなり引かれたのを感じる。危うく尾刈斗と縁を切られるところだったかもしれない。
なんとか説得して地下に謎の施設がないか図面を調べてもらったところ、やはり修練場があったことが発覚する。
「あなたたち、一体どこでこんな情報を手に入れたのかしら?」と冷たい目で睨まれる。人によってはご褒美なのかもしれないが、僕は怯えて「その、ほんとに、こっくりさんがそう教えてくれて……」と釈明する。こっくりさんをしたってのは嘘じゃないもん。
夏未は少し何かを計算するかのように考え込んだあと口を開いた。
「この修練場はあくまで雷門のものです。しかし、あなた達がいなければ発見できなかったのも事実。
基本的に雷門の生徒が利用し、空いた時間にあなた達が使用するのも認めることにします。いかがかしら? 詳しいことはサッカー部のキャプテンの円堂君と話し合ってほしいけれど、私がなんと言おうと彼なら快く修練場を貸し出すと思うわ」
「あ、ありがとう!」
そんなこんなで僕達はイナビカリ修練場を使うことができるようになったのだ。
☆☆☆
ピピピッとタイマーが鳴ったあと、ガタッと扉が自動で開けられる。なんてハイテクなんだと感動している余裕はない。ただ地獄を生き延びたことに安心する。
「ほんとうにキツかったアル」
「僕って実はもう死んでたりしない?」
かなりハードな特訓に、みんな死にかけ状態だ。
「そうか? オレはまだまだ遊び足りねえけどな」
月村先輩を除いたみんな、だった。今日8月23日は満月。先輩は絶好調である。
「もうちょい特訓してくるぜ!」と奥に消えていった先輩に「月が出るまでには帰ってくださいよー」と一応声をかけておいて、残りのみんなは先に帰ることする。
帰り道を歩くのも精一杯だ。
そういえば、幽谷に聞いておきたいことがあったのだった。
「ちょっとさっきこっくりさんの話を思い出してたんだけど、幽谷ってこっくりさん否定派なんだっけ?」
こっくりさんを信じる人に手を挙げさせたとき、幽谷は手を挙げなかった。というより、全く会話の輪に入っていなかったような気がする。
「だって、俺が言えば面白くないじゃないですか。俺は答えが視えてますから」
幽谷はバンダナで隠した自分の目に手を当てる。
「それじゃあ、結局答えはいるのかいないのかどっちなの? 答え合わせをしたいんだけど」
信じていないつもりだったけど、やっぱり分からないままというのは落ち着かない。
「俺が言わなくても、参加していた先輩は答えを分かっていると思います。動かされている感覚、あったんじゃないですか?」
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる