イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
校長はだだっ広い校長室に1人、落ち着かない様子で無駄に豪華な椅子に座っていた。
そこにある男子生徒――柳田しげるは体を震わせながら入ってくる。
柳田はこの場所で「帝国の勝利は磐石だ」と約束してみせたのに、結果は引き分け。一体どんな制裁を受けることになるのか恐怖していることだろう。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
ただひたすらに虚ろな目で謝り続ける柳田の姿は、まるで親から一度も肯定されてこなかった子供のようでとても哀れだ。彼の“過去”を考えると仕方がないのだろうが。
『お前は自分が何をしたのか分かっているのか? あの帝国の顔に泥を塗ったのだぞ』
校長は柳田を厳しく叱責する。ただこの校長もまた、ついさっき影山から叱責の電話を貰ったところである。帝国の顔に泥を塗ったのだぞという言い回しは、影山に言われた言葉そのままだ。
そして影山はこうも続けていた。『このまま尾刈斗が何事もなくFFに出場してしまっては困る。後は――分かったな? これが貴様への最後のチャンスだ。
なんとかして尾刈斗のフットボールフロンティア参加を阻止せよ。さすればお前を帝国に編入させてやっても構わん』
その言葉を聞いた柳田は『任せてください』と覚悟の決まった目で即答した。
『帝国に入るためなら、僕はなんでもやります』
柳田は地獄で一筋の光明を見たかのように、その提案に縋りついた。行き着く先がまた別の地獄に過ぎないとしても。
柳田しげるの“過去”は壮絶そのものだ。キャリアウーマンだった母親は、子育てでキャリアを捨てることに納得がいかず、そのストレスの捌け口として息子を虐待した。
かつて帝国に入学することを夢見てそれが叶わなかった父親は、学歴にコンプレックスを抱き続け、息子に帝国に行くように強制した。
だが、息子は帝国学園に入学することができなかった。
『僕が帝国の受験に落ちたせいで家庭が崩壊して……でも、僕が帝国に行くことができたら、もう誰も僕のことを出来損ないだなんて言わないんです』
『そうか、それなら君は頑張らないといけないね』
校長は悪魔のような微笑みを柳田に向ける。
もし本当に柳田が帝国に行けなかったことで精神的虐待を受けているのなら、校長は教育者としてしかるべき機関に報告するべきだ。それをしないのは教育者失格である。
影山との協力によって得た尾刈斗中学校長という立場をみすみす失いたくない。ただただ醜い男だ。
両親はあれから喧嘩が絶えず、息子に対しても出来損ないだと罵るばからで、優しく話しかけることは一度もなかった。こんな悲惨な現状を変えるには、尾刈斗のFF出場をなんとしてでも阻止して、影山直々に入学を認めてもらうしかない。今の柳田の考えはそれだけだ。
柳田の“過去”の設定はとてもヘビーだ。正直どんどん設定が思いついてしまって必要以上に重くしてしまった。ごめん。
尾刈斗を裏切って影山の下に付く理由付けが必要だったためにこんな感じになったが、そもそも帝国に受験失敗したとしてわざわざこの尾刈斗に来た理由が全然説明できていない。でもまあ些細な問題なので。お願い見逃して。
追い詰められた柳田の精神状態を見透かしたかのように、校長はこう持ちかける。
『君の夢を叶えるために、私が少し知恵を貸してやろう。なあに、そう難しい話ではない。尾刈斗イレブンは対外試合などの移動のときに、バスを使うだろう?』
バス。みなまで言わずとも、イナズマイレブンを見たことある人なら何が行われるか予想がつくだろう。
40年前に影山が響木らイナズマイレブンに対して行ったこと。そして原作で冬海が円堂ら雷門イレブンに行ったこと。
『バスのブレーキオイルを抜くんだ。そうすれば彼らの乗るバスは事故を起こし、フットボールフロンティアに参加することが出来なくなる』
『それは……犯罪じゃないんですか?』
『いいや大丈夫だ。このことはきっと総帥がもみ消してくれる。君の帝国での学園生活は総帥が保証してくれているから、何も心配することはないんだ。
それともあれかね? 犯罪者になることが怖いのかな。君は帝国に入るためには何でもするんじゃなかったのかい?』
校長はじわりじわりと柳田を追い詰めていく。柳田が言ったように、ブレーキオイルを抜くというのはれっきとした犯罪であり、ただの殺人行為である。
総帥ならもみ消せるなどと大口を叩いたものの、自分で手を汚さずに柳田に実行させようとしているのは、本当に影山が手を貸してくれるか確証が持てないからであろう。影山に切り捨てられるのは柳田だけでいい。そんな校長の小賢しい考えが見え透く。
柳田のバスへの細工が明るみになった際には、殺人教唆で罪に問われる可能性もあるが、唆した証拠もなく、柳田の精神状態が不安定であることを鑑みるに、有罪となることはないだろう。そう校長は高を括っている。
どこまでも救いようのない男だ。
「もう、証拠は十分すぎるほど集まりましたよね?」
校長室で校長が柳田を唆している決定的場面の監視カメラ映像を見ながら、
☆☆☆
これだけの証拠があれば起訴できる、というOKサインを貰って、僕は部室を飛び出した。
向かった先はもちろん、校長室。
乱暴にドアを蹴り開け、すかさずパチンと手を叩く。
「猫騙し! 正気に戻った?」
「ああ、はい。ありがとうございます」
「一体これはどういうことだ?」
突然校長室に突入してきた僕と、猫騙しを受けてすっかり目の生気も取り戻した柳田の姿を交互に見て、校長はようやく自分が嵌められたのだということに思い至る。
「前回柳田があそこに監視カメラを仕掛けてくれてね、みんなで校長室を観察していたんだ。それにしても、まさか校長先生がこんなに怖い犯罪を企てていたなんて思ってなかったよ」
校長室の隅に置かれた監視カメラを指さした後、僕は精一杯馬鹿にした顔を作って校長に向ける。
「ちなみに、これのおおまかな脚本を考えたのは俺ね。結構ダークな設定盛り込みすぎたけど、意外とリアリティーあったっしょ」
そう言いながらまた校長室に入ってきたのは、尾刈斗の虚言癖こと
この作戦で一番頑張ってくれたのは間違いなく柳田だが、柳田の次の功労者は人形だろう。「ゲーム以外で人を騙すっての、人生で一度はやってみたかったんだよね」と隣でケラケラ笑っている本人は、頑張ったなどという実感は全然ないのかもしれないが。
尾刈斗イレブンは揃いも揃って狂人ばかりである。
「あれは全部、演技だったとでも言うのか?」
自分が今最悪の状況に置かれていると次第に理解しつつも、まだ信じられない様子の校長。
まあ確かに、柳田のあれが全部演技だったとしたら凄すぎる。子役としてスカウトされてアカデミー賞間違いなしだ。でも実際は演じていたというわけでもなく……
「監督に暗示をかけてもらいました。設定が真実だと思い込めるように。『敵を騙すにはまず自分から』って人形さんが言っていたので」
ちなみにさっきの猫騙しはこの暗示を解くためのものである。
「くそっ、どうすれば……」
「監視カメラの映像はパソコンで取り込んだ後、さらに円谷にクラウドにアップしてもらってる。カメラを壊したって意味が無いよ」
壊そうと思ったのかカメラに近づいた校長に追い打ちをかける。校長はもう詰んでいるんじゃないかな。
「チェックメイト、だね」
「どこまでも私をコケにしやがって」
校長は机の上に置いてあった文鎮を手に取った。冷静さを完全に失ったまま僕のところまで近づき、文鎮を持った手を頭上まで持ち上げた。そして僕の頭をかち割ろうと僕に向かって振り下ろす――ことはできなかった。
「タガの外れたおっさんほど怖いもんはないってほんとだったんだ。ヤバいことがバレて生徒を殺そうとするなんて校長として終わってんな」
校長の振り上げた腕には黒い影が絡みつき、振り下ろす途中で動かすことができなくなっていた。さっきから校長を煽り散らしている人形が、呪いを使って僕を助けてくれたのだ。
そろそろあの人が入ってきてくれてもいい頃合いだ。
「警視庁の鬼瓦だ。殺人未遂の現行犯でお前を逮捕する」
僕らの最強の協力者、鬼瓦刑事が校長に手錠をかけにやってきた。
「お前には聞きたいことがたんまりあるからな。影山についても署でじっくりと聞かせてもらう」
☆☆☆
「俺が校長室に踏み入るのを少し待ってくれと言ったのは、あの状況を作るためだったのか?」
事件に一段落ついたあと、鬼瓦刑事に問い詰められる。僕が校長をわざと挑発していたことはすっかり見抜かれていた。
「だって、いくら映像証拠があったとしても、影山の警察との繋がりを考えるともみ消される可能性もやっぱりあったじゃないですか」
鬼瓦刑事のことは原作知識で信頼しているが、正直なところ僕は警察という組織全体をあまり信用できていない。父さんが死んだときだって影山の圧力に負けたのか、真面目に捜査すらされなかった。
「だから、現行犯で捕まえた方が楽だと思ったんです。人形が多分止めてくれるだろうって信じてましたし」
「それでわざと犯人を挑発したってのか? お前が危険な目に遭ったらどうするつもりだったんだ。お前さんはまだ子供なんだぞ!」
そう言われても、あいにく僕は合計すると30のおっさんなんだ。黙って見ているなんてできない。
「お前さんは復讐のつもりかもしれないが、それでお前が傷ついて、お母さんは喜ぶのか?」
言われて母さんの顔が頭に浮かぶと、少し胸が痛くなった。そんな僕の様子を見た鬼瓦刑事は、「次からは気をつけてくれ」と優しく声をかけてくれた。
「それから、地木流灰人も逮捕された。校長が彼を告発したからな。これもお前さんのシナリオ通りか?」
「はい」
監督は僕達にとってとても頼りになる大人だったけど、犯罪者であることは変わりはない。正しく裁かれ、罪を償った後にまた会えることを願っている。
「これでお前達のチームには監督がいなくなったわけだが、大丈夫か? FFの大会基準じゃ、監督のいないチームは出場できないんだろう?」
しまった、忘れてた! 新監督を探せ! ……とはならない。
「もちろん、そんなこと重々承知です。地木流監督もずっと監督を続けられるわけではないことくらい分かっていたので、次の監督はもう決めてるんです」
「お前達のような個性派揃いのチームを纏められる監督なんてそうそういるとは思えんが」
「それがちょうどいるんですよ。
僕達がどうしてわざわざFFの開催を3週間遅らせたとお思いで?」
新しい監督……一体誰なんだ?!
ずっと書きたかった話のひとつですが、序盤のしょうもないトリックも含め上手く書けているか自信がありません。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる