イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。   作:ウツマ

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種明かし

 尾刈斗中学の校長先生は“一身上の都合で”退任して今まで教頭だった人が校長になり、心理学を教えていた地木流先生も同様に退任した。

 

 僕達のクーデターが成功したのだ。

 尾刈斗を影山の魔の手から解放する。それが僕達の一貫した目的だった。

 

 

 そして尾刈斗中サッカー部には新しい監督がやってきた。その名は――

 いや、それは順を追って説明した後にしよう。

 

 

☆☆☆

 

 

 遡ることおよそ10ヶ月。ちょうど天魔大戦があった翌週くらいに、僕は地木流監督に呼び出された。

 

 

 監督を辞めるかもしれないから、新しい監督のアテがないかという話だった。

 

「辞めるって、一体どうしてですか? 僕と一緒に戦ってくれるんじゃ」

 

 練習試合がことごとく断られてしまって件で監督を問い詰めたとき、監督は一度学校を離れようとした。僕が辞めさせるために問い詰めたのだと思われたってのもあるんだろうけど、罪悪感に苛まれて辞め時を探していたのだろう。

 

「もちろん、私は君達と一緒に戦うつもりです。しかしそれでも、私が犯罪者であることは違いありません」

 

「そんなこともちろん分かっています」

 監督が犯罪者だってことは分かっていながら僕は監督を利用すると決めた。

 

「いいや、君はまだ分かっていません。私達が帝国に反逆した暁には、たくさんの勢力が妨害しにくるでしょう。元犯罪者の監督だなんて格好の標的でしかない」

 

「それは……確かに」

 

 

 自分がずっと監督を続けることは危険だと主張しながら、監督は今の尾刈斗が置かれた状況を教えてくれた。

 

「先日のミーティングでは帝国に勝とうと意思を固めましたが、このままだとFFに参加できるかすら分かりません。

 最大の敵はここ尾刈斗中学だと言うこともできるでしょう」

 

 FFに出場するかどうかの決定権は基本的に校長に与えられている。雷門では夏未に決定権があったように見えたが、あれは校長より夏未が強いという意味不明な力関係が生じていたための例外である。

 今の校長が影山派である限り、FFで帝国を打ち破るというのは現実味のない夢だ。

 

「我々が心置きなくFFで戦うためには、校長に代わってもらうしかありません。しかし原則として新しい校長を選ぶ権利は理事長にあり、理事長は校長以上に影山との繋がりが深い。新しい校長も影山派であることは明白で、打つ手なしです」

 

「そう言いながら、何か策があるんじゃないですか? 原則というからにはもちろん例外があるんでしょう」

 

 監督は力強く頷いた。きっとこの影山の支配から逃れる抜け道をずっと考えていてくれたのだろう。

「年度の途中で不測の事態により校長がその職を退いたとき、その年度が終わるまでは教頭が校長代理を務めることになっている。幸いにも、教頭先生は影山との繋がりはない。もし校長になったのならサッカー部を支援すると約束してくれました」

 

 この1週間の間に、監督は教頭先生とまで話をつけてくれていたらしい。味方になってくれた監督は本当に心強い。

 

「つまり、来年の年度が始まってから、校長をその座から引きずり落とす必要があるということですね」

 

「クーデターが成功したときには、私も自首しようと思います。私のような爆弾はさっさと手放すべきです」

 

 監督は既に覚悟を決めていた。

 

 

「なるほど、それで最初の話に戻るんですね。新しい監督について、1人心当たりがあります。影山との因縁もありますし、僕達に力を貸してくれると思います」

 

 

☆☆☆

 

 

 その新しい監督候補と会うことになったのは更に3ヶ月後、冬休みが始まってすぐのこと。

 

 

 稲妻町にある喫茶店で、その人と待ち合わせをしていた。古いフォークソングが流れる雰囲気のある喫茶店。

 

 13時、約束の時間ぴったりに、その人はやってきた。

 

「こんにちは、私が尾刈斗中学の教員をしている地木流です」

「僕は尾刈斗中サッカー部員の紫藤です」

 2人で自己紹介を済ませる。子供の僕がいるのはやっぱり少し場違いだと思うが、監督に強く頼まれたから着いてきてしまった。

 

「私も昔は小学校で教師をしていたので元同業者ですね」

 

 マスターにオーダー聞かれたので、コーヒーを3つ注文した。しばらく間を置いたあと、その人話を続けた。

「自己紹介が遅れましたが久遠です。それで、私を監督して呼びたいという話でしたね?」

 

 

 心当たりのあった監督候補とは、イナズマジャパンの監督、久遠道也である。

 選手とのコミュニケーション能力にやや難があるような気もしなくはないが、作中で最も優れた監督の1人だ。“呪われた監督”の異名を持つ、尾刈斗にぴったりな監督だ。

 

 

「申し訳ありませんが、私は今10年間の監督禁止令を敷かれています。引き受けることは難しいかと」

 

 久遠さんが9年前の事件のことで監督禁止になっていることくらい僕らは当然知っている。原作知識としても知っているし、小学生時代に調べていた影山事件ファイルにも記録している。

 

 

「あなたの禁止令は、9年前のFF決勝戦直後、8月26日に言い渡されたものですよね?」

 

「ええ、はい」

 

「ですから、来年の8月27日から監督をしていただきたいと考えています」

 

「それではFF終了後になってしまいますが大丈夫ですか?」

 

 影山が少年サッカー協会のトップにいる限り、禁止令を取り消すのは不可能に近い。だから発想の転換をした。コペルニクスもびっくりの大転回だ。

 

「なんの問題もありません。というより、FFの開催自体を遅らせてしまえば良いのです」

 

「うちの監督が元催眠術師なんで、FF開催直前に調子を悪くする催眠をかけてもらうつもりです。影山のことだから負けの芽は絶対に摘もうとして、大会を延期してきます」

 具体的な作戦を僕が補足して説明する。

 

 久遠さんは正気を疑うかのような目で僕らを見る。気持ちは分かる。この作戦の発案者は監督なんだけど、僕も初めに聞いたときは同じような反応をしたから。

 

 

「どうしてそこまでして私を監督に? 実は何度かあなたの試合も拝見させてもらったこともありますが、私の見た限りあなたの監督としての能力は十分高いように思えます。選手からの信頼も厚いようですし」

 

「色々と事情がありまして……教員免許偽造してる犯罪者なので、バレたら普通に捕まるんですよね」

 

「えっ?」

 久遠さんが言葉を失って固まる。原作では常に冷静なイメージがあっただけに、あたふたと戸惑っている様子を見てると面白くなる。

 

「監督の意味不明な経歴は話し始めると長くなるので置いておいて、久遠さんには監督として帝国を打ち破る手伝いをしていただきたいんです」

 

 そうやって久遠さんに頭を下げていると、マスターがコーヒーを3つ運んできた。

「影山に逆らおうなんてしないほうがいいぜ」

 

 マスターが去り際に呟いた台詞に驚いて顔を見ると、茶色い長髪と特徴的なサングラス。原作でちょっとだけ見たことのあるマスターがいた。この人は確か――

 

「雷門のオオカミの名が廃りますね」

 

 元伝説のイナズマイレブン、民山謡。夢を諦めた彼が水を差すようなことを言ってきて少し腹が立ったのかもしれない。僕は思わずマスターを挑発していた。

 

「あんた、どうしてそれを?」

 

「40年前の事件についても少し調べていたことがあっただけです」

 

「それならあんたも知ってるはずだ。ヤツに逆らったらどうなるか」

 

 もちろんさ。影山の恐ろしさを、僕は嫌というほど知っている。

「勝てないからって諦めるんですか? それがイナズマイレブンの精神なんですか?」

 

「るーららら。俺ももうジジイになったってことさ。いつまでもあの頃みたいに若くはいられねえんだ」

 そう口では朗らかにおどけながら、マスターは深刻な顔つきをしていた。僕の言葉に考えてしまうところがあったのかもしれない。大介さんの言葉でも思い出しているのだろうか。

 

「2人は急にどうしたんですか。マスターは影山とどのようなご関係で?」

 突然僕とマスターが話し始めたから、監督が戸惑いつつマスターに質問する。

 

「ヤツとは少し縁があっただけさ」

 

 そう言って話を切り上げて、マスターは席を後にする。

 

「るーらら。あんたらを止めようと思ってたんだが、気が変わった。好きにすりゃあいい。俺はなんにもしてやれないが。だがあいつに教えてやるくらいはしてやってもいいかもな……

 

 最後に何を呟いたかは聞き取れなかったが、僕のことを認めてくれたのだろうか。僕が憧れたイナズマイレブンの元祖となった人に認められたと思うと、少し嬉しかった。

 

 

 

 結局その後は、久遠さんに僕達の置かれている状況などを詳しく説明して、クーデターが成功したのちに監督になってくれるということで話がまとまった。

 

 

☆☆☆

 

 

 校長を退任させて、帝国に催眠術をかけて、FFの開催を延期させる。どれひとつとして簡単なことではない。

 

 

 帝国に催眠術をかけることだけを考えるならば、帝国に試合を申し込むのが一番簡単だ。ただ、催眠術をかけるタイミングはFF開催直前である必要があり、そんな時期に帝国が練習試合の申し込みを受けてくれるか不安が残る。

 それならいっそ帝国から試合を持ちかけてもらおうということで、逆スパイ作戦は始まった。

 

 尾刈斗が帝国に反逆しているという情報が伝わったら、まず初めに潰しに来ることは予想できる。それを返り討ちにしてやろうという魂胆だった。

 帝国に反逆の情報を伝えるのは匿名の密告でも良かったのだが、せっかくなら1人をスパイとして校長に売り込むことで、1つ目の目標をも同時に達成させようと目論んだのだ。

 

 

 4月、新学期の最初のミーティング。それまで基本的に僕と監督との間だけで組み立てていた作戦を、新入部員2人を加えた部員全員を前にして説明した。

 逆スパイ作戦の話が持ち上がったとき、まず立候補したのは僕と人形だった。僕は早い段階から作戦に関わっていた身として、そして何より影山と深い因縁がある身として、この大役を仰せつかりたかった。僕以外の子供を危険な目に遭わせたくないという僕のエゴもあっただろう。人形は多分面白そうだからって理由で立候補してた。

 しかし、僕は影山との因縁は知られている可能性が高く、人形は普段から教師陣をからかって回っているため信用がないだろうという理由で却下された。

 

 そして僕達の代わりに手を挙げたのが、ちょうど入部したての柳田だった。「1年間一緒にサッカーをしてきた先輩方が仲間を売るより、入ってきたばかりの僕がするほうが自然でしょう」とのことだった。

 柳田には本当に感謝している。

 

 

 演技を信じるために自分に暗示をかけたらいい、なんて簡単に言うけれど、よく考えたらとても恐ろしいことだった。自分の記憶や自分自身を操作するということは、アイデンティティを喪失することに他ならない。

 

 逆スパイを続けていくうちに、柳田はそのプレッシャーや不安にどんどん精神的にやられているように見えた。それが心配で、だけどどう声をかけたらいいのかも僕はわからずにいた。

 だけど、その問題は僕の知らないところで解決していた。同じ1年生の幽谷が柳田の様子を気遣ってくれていて、知らないうちに柳田は元気になっていた。2人の間にどんなやりとりがあったのかはわからないし、僕が知る必要もないだらう。

 ただひとつ言えることは、幽谷と柳田の1年生コンビは、今は親友のように仲良くなっているってことだ。

 

 彼らの頑張りのおかげで、作戦は完全な成功を収めることができた。

 帝国は僕らを潰すために練習試合を持ちかけてきて、無失点に抑えた後帝国選手に催眠術をかけた。そして柳田は見事に校長を騙し切り、恐喝殺人未遂その他もろもろの罪でとっ捕まえることができた。

 

 

 こうして僕らは、FFで心置きなくサッカーをすることができるようになったのだ。

 

 

☆☆☆

 

 

「キャプテン、そろそろ試合が始まりますよ」

 

 キャプテン? ああ、僕のことか。柳田からの慣れない呼びかけに少し戸惑いながら、考え事をストップする。

 

 周りを見ると、多呂斗先輩以外の尾刈斗サッカー部員全員と新しく監督になった久遠監督が僕のことを見ていた。

 先日僕に部長とキャプテンの座を譲った月村先輩の顔を見ると、何か言えよ的な視線を感じた。

 これはあれか。僕がキャプテンとして、士気をあげることを言わなきゃいけないやつか。

 

「僕達が今こうしてフットボールフロンティアの地に立つことができているのは、みんなの、地木流監督の、そして多呂斗先輩の尽力があったからです。だから――」

 

 みんなの視線を見た感じ、そんなに長い話は求められてなかったみたい。それじゃ短く、

 

「勝つぞ!!」

 

「「「おーー!!!(うがー!!!)」」」

 

 FF地区大会初戦、御影専農との試合が始まる。

ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?

  • 正直誰も分からない
  • 主要な数人は顔が分かる
  • アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
  • ベンチメンバーまで全部完璧に分かる
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