イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
「八墓は霊幻と、魔界は木乃伊と交代だ」
僕の両隣にいたMFが交代させられる。パス回しで時間稼ぎに徹する御影からボールを奪おうと果敢にアタックしていたから消耗も激しいのだろう。2人は文句もなくベンチへと下がった。
今の交代は納得の采配だ。しかし、その次に伝えた作戦がアンビリーバボーだった。
「後半は、必殺技の使用を禁止する」
「「ええええ?!」」
「「必殺技の使用禁止?!!」」
久遠監督の信じられない作戦に、御影ベンチに届くほどみんなの驚きの声が重なる。
「ただし鉈、お前だけは必殺技を使ってもよい。相手の必殺シュートにはそれで応戦しろ」
「あ、オーケー」
後半も出場する奴らはアップしておけとだけ言って、久遠監督は伝えるべきことは全て伝えたかのように黙りこくった。
「僕達にとって全然オーケーじゃないんですけど、監督、せめてどういう意図があるのか教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「お前達は手取り足取り教えてもらわないと満足に指示に従うこともできないのか?」
手取り足取り教えるのが監督の仕事でしょうよ、と言い返したくなったが堪えておく。どうせ久遠監督は何も教えてくれない。自分で考えろってことだ。
「凄い監督だってのはなんとなく分かるんだけど、ちょっとコミュ力に問題があるんだろうな」
と評したのは人形。かなり無茶な作戦に驚いてはいるものの、監督に対して一定の信頼は置いているっぽい。
三途は監督の意図について1人考え込んでいるし、月村先輩は武羅渡とノーマルシュートで点を決めるための作戦会議をしている。原作のイナズマジャパンと違って、監督は尾刈斗に勝たせる気がないと思っている人はいないみたいだ。
10年前の桜咲木中の事件をみんなは知っているから、同情する気持ちもあるのだろう。
☆☆☆
後半は御影の大きなバックパスから試合が始まる。
「露骨に攻める気がないアルネ」
呆れた様子の霊幻だが、ぶっちゃけ僕らにこれを非難する資格はないと思う。先日の帝国戦では、ザ・タワーに籠城するというパス回しよりもよっぽど卑怯な作戦を使ったんだから。
円堂が聞いたら卑怯だって言うんだろうなあ。
「スーパースキャン」
「スーパースキャン」
御影のスーパースキャンに阻まれ、なかなかボールを奪うことができない。ブロック技とドリブル技の2種類があるが、御影は基本的にこの技しか使わない。
「オレ達の動きが全部読まれてるみてえだ。気味がわりい」
「ぐふふっ、普段は怖がらせてる俺達が気味悪がるなんて皮肉……」
イナビカリ修練場で僕達はレベルアップして、データ以上の力を手に入れたはずだった。しかし蓋を開けてみれば、全てデータ通りだと言わんばかりに御影に翻弄されている。
「まさか誰かが僕達のデータを漏らした……? いや、そんなわけないか」
御影の情報源について思索にふけるが、考えがまとまらない。尾刈斗のみんなは信用できる仲間達のはずだ。
「犯人探しもいいけど、今は試合に集中すべきじゃないかな。必殺技を使わずに、どうやってこの緻密なパスワークを崩すのか。教えてよキャプテン」
三途の言う通り、キャプテンである僕が今すべきことは、この試合に勝つことだ。
しっかし、久遠監督に必殺技を禁じられたせいで御影の必殺技に対抗することができない。
「本当に、必殺技を使えたら対抗できてたんでしょうか……?」
「え?」
「あ、いや、えっと……必殺技を使えないから打つ手がない、みたいな顔をキャプテンがしていたんですけど、そもそも必殺技を使ったところで勝てなかったんじゃないですか?」
「ぐふっ、柳田の言う通り……前半は必殺技を使ってもなお、いいようにやられてた」
確かに2人の指摘通り、前半の僕達は必殺技を使っても相手のペースに乗せられていた。僕らのしたいことが完全に読み切られていたように思う。
それにしても、僕ってそんなに思ってることが顔に出ちゃってるのかな……
「前半、僕達の必殺技は全て動きを知っていたかのように躱された。逆にフランケン守タインの裏からのスライディングは、ただのスライディングだったけど、意表を突いたこともあり通った」
三途が前半のプレーを振り返ってまとめている。
なるほど、なんとなく久遠監督の意図が見えてきた気がする。
「スーパースキャン」
前線を見れば、小太りのDFの必殺技によって月村先輩のスライディングが躱されていた。
続けざまにボールを奪いに行くは、期待の新人幽谷。
「つまりは、こういうことっすよね」
御影DFは最適なルートを計算し幽谷を抜こうとするが、幽谷はバックステップで一旦距離をとる。ボールを奪う目的とは一見乖離した行動だが、それによってスーパースキャンの計算を崩し、必殺技が終了したタイミングに合わせてスライディングする。
「やるじゃねーか幽谷!」
「俺達の動きは読まれていても、単純に実力で負けてるってわけじゃありません。読みさえ外せばこっちのもんです」
ボールは幽谷から武羅渡へと渡る。小柄なDFが再び必殺技でボールを奪おうとするが――
「スーパースキャン」
「1年の幽谷になんとかできて、俺にできない道理などありませんよ」
ボールをかかとで蹴り上げて、相手の頭上にボールを通して華麗に抜き去った。ヒールリフトだ。オシャレ度の高い技だが、安定しないため実際の試合で使われることはまずない。だけどファントムシュートの始動の体勢としてやり慣れている武羅渡は、危なげなく決めてみせた。
「俺がヒールリフトを使うことは正しく予測できていましたか? 月村さん、後は任せますよ!」
武羅渡からのパスを受け取った月村先輩は、ヒールリフトでボールを蹴りあげてからシュート体勢に入る。御影のコンピューターはきっとこう計算したことだろう。『ファントムシュートの可能性、99.5%』みたいに。
「ディフェンスフォーメーションγ2」
シュートの軌道上に、御影DF2人が立ちはだかる。このままでは前半の焼き直し。水色の衝撃波によってシュートの勢いを削がれてしまう。
「お前らが読んでくることは読んでんだよ!」
月村先輩はファントムシュートを放つ代わりに斜め上、DFの頭上にボールを緩く蹴り上げた。そして地面を蹴って空中でそのボールに追いつき、ゴールの左上に向かって蹴りこんだ。
「シュートポケット」
隅っこギリギリを狙った、普通に手を伸ばしても届かない絶妙なコースのシュートだったが、杉森の必殺技によって空中で勢いを失い停止する。
その停止したボールを杉森が右手で掴みとろうとしたとき、
「いっけえええ!!」
突進してきた幽谷がボールをヘディングし、身ごとゴールに押し込んだ。
「ナイスだ幽谷!」
必殺技を一切使うことなく、僕達は1点を取り返した。
☆☆☆
「つまり、こういうことですね。僕達は実力で敵わない帝国に太刀打ちしようと、必殺技を使うことに躍起になっていた」
つまり、から言い始めるのは円谷の癖だ。状況を解説するその様は、まるで雷門の目金のように見えてきた。
「だからこそ、テクニックで劣っているわけでもない御影専農を相手にも不用意に必殺技を使ってしまっていた。動きの固定化された必殺技は、深く分析された場合は逆に隙になってしまう。監督はそのことを僕達に教えようとしてくれていたんですね」
久遠監督はただ静かに頷いた。
それを素直に口で言ってくれてもいいと思うんだけど。ダメ?
「幽谷は円谷と交代だ。必殺技はもう自由に使ってよい」
大活躍の幽谷はベンチに帰還する。ちなみにこのフットボールフロンティア、選手交代は無制限に可能である。
御影専農ボールで試合は再開。追いつかれたことに焦って攻めてくるが、そう何度も通すつもりはない。
「スーパースキャン」
幾度目かのスーパースキャンで木乃伊が突破されるが、木乃伊の後ろから僕がスライディング。1人でダメなら2人で止めるだけ。
今までより精彩を欠いたように見えるスライディングを躱して、霊幻にパスを出す。
「呪い」
必殺技が解禁されたので、霊幻はいつものあの呪いを放つ。
黒い影が御影DFを襲うが、それでも構わずスライディングで霊幻からボールを奪おうとしてくる。
「いつもは悠々と横をドリブルしているけど、別にパスをしたっていいアルヨ」
御影DFの奮闘虚しく、ボールは既に武羅渡のもとへ。
「もう1点もすぐに奪ってみせますよ」
ヒールリフトからのファントムシュートの構え。
「ディフェンスフォーメーションγ3」
これまた幾度目かの並びで、シュートを妨害しようとDFが立ちはだかる。
「御影専農は全く学習しないんですね……」
珍しく毒舌をこぼしたのは柳田だ。僕もやけにあっさり同じ手が通ってびっくりしてる。
御影のコンピューターは今回もファントムシュートだと予測したのだろうか。
武羅渡は必殺シュートを放つ代わりに、円谷へパスを出す。DFがディフェンスフォーメーションに集中していたため誰にも邪魔されずにパスが通った。
「しかと受け取りました! 彗星シュート!」
ボールを受け取った円谷はその場ですぐに必殺シュートを放ち、武羅渡は整列したDF達の間を抜けて青く煌めくシュートを追いかける。
「シュートチェインです。ファントムシュート」
青いシュートは5つの幻を率いて、杉森1人が待つゴールを襲う。
「ロケットこぶし」
さすがに分析しきっているのか、杉森は本物のボールにロケットこぶしをぶつけて対抗するが、チェインした分威力も増している。黄色い拳が少しずつ押されていく。
「そんな……俺は、負けるのか?」
円谷と武羅渡の2人のシュートはロケットこぶしを弾き飛ばす。
「まだだ! シュートポケット!!」
杉森はさらにシュートポケットを繰り出してシュートを止めようとするが、時間がなく中途半端な出力で、威力を僅かに削いだだけだった。
そして杉森は、最後は両手でそのボールを迎えうつ。必殺技でもなんでもない杉森の両手が青い煌めきを抑えこみ、しばらくの拮抗の後ボールは停止した。
「止められましたか……」
杉森の遠投で中盤の青髪のMFにまでボールが届くが、不乱先輩がしっかりと立ちはだかる。
「スーパースキャン」
「アースクエイク! はんい攻撃なら避けようがないうがー!」
不乱先輩だってそう馬鹿ではない。フランケン守タインが対策されているなら、別の技を使えばいいのだ。
「どうして……」「そんな……」
不乱先輩からパスを貰った直後、御影の選手の動きが突然止まった。みんな困惑の声を上げている。
「再計算の結果、御影専農の勝利の可能性はほぼ0だと?」
御影ベンチを見ると、監督の姿はもうどこにもなかった。
もう諦めてしまったのだろうか。点数は1-1で同点のはずなのに、コンピューターが負けると予測したら戦意喪失するなんてあっけない。簡単に試合を放棄する姿勢に腹さえ立ってきた。
「何故だ……我々の分析は完璧で、確実に勝てる作業のはずだったのに」
「結局、完璧な未来予測なんて不可能だってことじゃないかな。計算の上ではどちらが勝つか予測できても、いつ大番狂わせが起きるか分からない。サッカーは不確定で、だからこそ楽しいんだと思う」
三途とのワンツーで相手を抜き去りながら、御影の選手に対して語りかける。
「君達のデータは正確だったかもしれないけど、計算し忘れてたことがある。試合の中でだって成長するってこと。
必殺技が上手くいかなかったら、次はどうやったら上手くいくか考える。上手くいったら嬉しいし、上手くいかなかったら悔しい。こうやって一喜一憂できるのも全部、勝つか負けるか分からないからさ」
僕じゃ円堂の代わりになんてなれないのかもしれないけど、本当のサッカーを伝えたいんだ。
「だから杉森も、あれだけ必死になったんでしょ? 負けたくないから必死にシュートを止めて、上手くいったから喜んだ」
円谷と武羅渡のシュートを止めたときの杉森は、確かに笑っていた。
杉森は原作では円堂の熱い気持ちに心動かされたように見えたけど、実際はもっと単純なことだったのかもしれない。サッカーへの思いは初めから心の内にあって、円堂はそれに気づかせただけ。
小学生1年生の頃の僕が、刃也に誘われてあっけなくサッカーの楽しさを思い出せたように。
「サッカーって楽しいでしょ? ファントムシュート!」
僕だって一応使えるんだぞ!と予測できなかったであろうシュートを放つ。簡単に覚えられたから覚えたものの、滅多に攻撃に参加することがないから公式戦で使ったのは初めてかもしれない。
シュートにはサッカーが好きだって思いが籠る、なんてことを言ってたのは円堂だったっけ。
ならば、その気持ちを杉森にも伝えたい。
「ファントムシュート!」
「オレも行くぜ! ファントムシュートV2!」
僕のシュートだけでは非力極まりなかったが、尾刈斗が誇るストライカー2人のチェインによって、強力なシュートとなり杉森を襲う。
「サッカーが楽しい……?」
僕の言葉をしばらく反芻している様子の杉森だったが、シュートが来ると止めたいと思うのがキーパーの性なのだ。
両手をパチンと叩いてシュートを迎えうつ。
「室伏、弘山! 手伝ってくれ!」
DF2人に呼びかけて、例の水色の衝撃波でシュートの勢いを弱めさせる。
「絶対に止める! ロケットこぶし! シュートポケット改!!」
杉森はロケットこぶしを飛ばし、すぐさまシュートポケットも発動する。試合中に成長することだってあるって説教垂れてたら、相手に成長されちゃったみたいだ。
黄色い拳を押し返すことまではなんとかなったが、進化したシュートポケットによってシュートの勢いは殺され、しっかりとキャッチされてしまった。
「まだ同点だ。ゴールは俺が守り抜く。みんな勝て!」
杉森は諦めていない。頭に付けられたコードを引きちぎりながら、杉森は仲間を奮い立たせる。
「ああ!」「勝つぞ!」
杉森の熱い思いは御影の仲間達にも火をつけた。前半よりもさらにキレの良くなった動きで尾刈斗を攻め始める。
「怨霊」
「スーパースキャン」
「スーパースキャン」
「マジック」
地面からの手を回避されたかと思えば、摩訶不思議マジックで惑わしてスーパースキャンを阻止。互いに一歩も引かない接戦になっている。
しかしボールはついにFWの下鶴のもとへ。
「決める! パトリオットシュート!」
下鶴が蹴りあげたボールは空中で一瞬停止し、ミサイルのようにゴールに向かって突き進む。
「リベンジだぜ! キラーブレード改!」
そのミサイルのような必殺シュートを、鉈は青い刃で真っ二つに切断した。
復活したボールはキックで僕のもとまで届けられる。
「今度はこっちの番だね。イリュージョンボール」
十八番のイリュージョンボールで御影MFを抜き去り、武羅渡へパスを出す。
「今度こそ点を奪ってみせますよ! と言いたいところですが……杉森さん、あなたは素晴らしいキーパーだ」
帝国の源田には及ばないにしても、杉森は全国でも有数の名キーパーの1人だ。さっきからシュートを止めまくっているし、原作でもファイアトルネード、ドラゴントルネード、イナズマ落としの三連撃を全て防ぐという離れ業をやってみせた。
「1度は半ば奇襲に近い形で点を取ることもできましたが、正攻法であなたを打ち破るにはまだパワーが足りません。
俺達も出し惜しみはしません。紫藤、闇に誘え!」
「りょーかいですっと。ファントムミスト!」
黒いもやで観客席からフィールドを隠す。帝国の斥候にはまだこれを見せるわけにはいかないのだ。
☆
武羅渡が秘策の必殺技を使う。
尾刈斗で最強のシュートが御影ゴールを襲う。
そのシュートは、DF達と杉森をなぎ倒し、ゴールネットを揺らした。
僕が出したもやが晴れた頃、試合終了の笛がなった。
★★★
スタジアムの後方から、試合を眺めていた2人。
「2-1で尾刈斗が勝利したか。予想通りだ」
「その割には随分試合に魅入ってたみたいだな、鬼道」
「あの新しい監督の腕がどんなものか観察していただけさ。とても見事な采配だった」
帝国学園の鬼道と佐久間は、尾刈斗との再戦に向けて情報収集に来ていた。
「それにしても、最後は何があったんだ? あの杉森というキーパー、源田には及ばないとしてもなかなか優秀だ。イマイチ攻め手に欠ける尾刈斗に突破手段があったようには思えない」
「だからその攻め手とやらをずっと隠していたんだろう」
そう話を切り上げて、2人はスタジアムを立ち去る。
「最後に黒いもやの中から聞こえた雄叫び。あれは一体……」
武羅渡が使った秘策の必殺技が何か分かったよって人は、ぜひぜひコメントなど残していってください。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる